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ポリッシャー!  作者: 昼熊
3章

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2話

 今日は午後から北側校舎を重点的に清掃する予定だ。

 特別に、生徒たちの授業が午前中で終わりらしく、誰もいない教室の机や椅子を廊下に出して教室内をポリッシャーで洗う予定になっている。

 ミュルたちがいる校舎は南側にあたり、北側校舎は二人の後輩にあたる生徒たちが日々魔法についての基礎を学んでいる。空から見れば口型の建造物である魔法学園は、北側が下級生、南側が中級生、西側が上級生、東側が教師や職員といった配置になっている。

 そして校舎の北西部、防壁付近に、お世話になっている清掃員宿舎が建っている。


「下級生というのは、どれぐらいの魔法がつかえるのですか?」


 本日も一緒に清掃することになっているメイラに質問した。


「個人差もあるけど、ここに来た当初は、殆どが初歩の魔法すら使えないレベルらしいよ」


 魔法使いだからといって、生まれつき自在に魔法がつかえるわけでもない。ミュルとシャムレイの二人に訊いたことがあるのだが、誰しもが微量であれ魔力は持っているらしい。ただ、それを魔法として発動するには才能がいる。そして、その才能を持つものだけが魔法使いになれる。


 魔法使いというのは、子供たちにとって清掃業よりも憧れの職業らしい。魔法を使う姿に惹かれるのもあるのだろう。それは非常に良く分かる。俺も子供だったら迷わず、魔法使いになりたいと思うな。

 親としては別な想いがあるようで、魔法使いは貴重な才能なので、一人前の魔法使いになると国の高官や大企業への就職が約束されているらしい。

 このご時世だ、魔法の才能さえあれば身分を一切問わず、この学園の授業を無償で学ぶことができる。子供が生まれたときに親が一番気にすることは魔法の才能が子供にあるかどうかだそうだ。


 考え事をしている間に東側校舎を抜け、北側校舎へと入った。

 廊下には既に机や椅子が規則正しく並べられていた。どうやら、生徒たちが予め、廊下へと出しておいてくれたようだ。


「移動してもらっていると、清掃が楽になるので嬉しいですね」


 メイラが大きく頷く。


「うんうん。ほんと、ありがたいよね。生徒がやってくれたら、一人につき椅子と机を一つずつ運ぶだけで済むけど、私たちがやるとなると一人で何十個も運ばないといけないから」


 清掃員だけでやると荷物を外に出すだけでも、かなりの時間と労力を消費してしまう。生徒がやってくれたら、あっという間に済む。元の世界でも、こうやって予め机や荷物を移動してくれている現場はやり易く、清掃も捗る。いつもより丁寧に綺麗に清掃しようというやる気にも繋がり良いことずくめだ。


「じゃあ、いつもより頑張っちゃいますか!」


 メイラも同じことを思っていたようだ。


「そうですね、頑張りましょう」


 何を思ったのかメイラは俺の顔をじっと見つめてきた。大きな瞳が眼前にまで迫る。吐息が届く距離まで近づかれると、意識してなくても緊張するのだが。


「前から言おうと思っていたけど、それよ! それやめようよ」


 鼻にビシッと指を突きつけてきた。


「えっと、それとは?」


「その、言葉遣い。もっと気楽にいこうよ。働き始めたのは先輩かもしれないけど、年の差はそんなにないんだから。それに、そういう堅苦しいのは苦手。名前も呼び捨てにしてね」


 強い口調ながらも、はにかんで頬を赤らめる姿がとても魅力的に見えた。


「分かりまし……分かったよ。これからよろしく、メイラ」


「こちらこそ」


 昔からの友人や身内以外の大人の女性を呼び捨てにするのは、久しぶりだ。少しだけ気恥ずかしい。社会に出て働くようになってから知り合った女性には丁寧に、さん付けをするのが当たり前だった。こんな風に言われたことなんて学生時代が最後かもしれない。


「じゃあ、改めて気合入れていこう! せっかく教室を片付けてくれたのだから、先にそこをやりたいところだけど……隊長に一番初めに、あそこやれって言われていたのよ」


 メイラの視線は階段脇の部屋に向いている。廊下からは内部が全く見えない。ガラスには、かなり分厚いカーテンが掛けられているようで光すら通していない。


「鍵は貰っているのだけど、この中、以前倉庫にしていたらしく荷物は全部別の場所へ運んだそうよ。でも、その後ずっと放置していたから」


 鍵穴が錆びているらしく、何度も鍵を差し込んでは開けようと悪戦苦闘している。


「ちょっと貸してください、やりますよ」


「ほら、また敬語になってる。大丈夫、これぐらい……やあっ!」


 鈍い音がした。どうにか開錠はできたようだ。メイラはそのまま扉に手をかけ開こうとしたが、ここも錆びついているみたいだ。ドアの縁に足をかけ、全身を使い一気に扉を開くつもりか。


「あ、あけええぇ! ええっ?」


 勢いよく扉が開いた。まではよかったのだが、力の加減をしていなかったメイラは反動で仰け反り、そのまま倒れ込んだ。


「ご苦労様」


 頭を突っ込み、室内を観察してみる。床にはかなり分厚く埃が積もっている。外側の窓にも同じようにカーテンが閉められていた。


「これは換気しないと。埃だらけで洗うのも一苦労ね。取りあえず、これ付けて」


 ポケットから取り出した白い何かを手渡された。粉塵用の簡易マスクか。鼻から口まで覆うタイプなので顔下半分が完全に隠れる。


「それじゃあ、カーテンと窓開けて」


「了解」


 薄暗かった部屋に光が注がれる。明るくなると余計に部屋の汚さが際立つ。部屋は普通の教室より一回り程大きいようだ。

 これは一度、箒で掃いてからじゃないと、ポリッシャー回せないな。廊下に置いてきた道具一式から箒とちりとり探してこよう。……ちりとり持ってきたかな。


 扉まで戻ろうとすると、入り口付近に――いつの間にやってきたのだろう、一人の女生徒が立っていた。背が低く、顔もまだ幼い。金髪の頭に載っている大きなリボンと、茶色い縁のメガネが良く似合っている。着ている学校の制服のサイズが少し大きいようで、それが余計に子供っぽく見えて、女生徒の可愛いらしさが増している。


 ……気のせいだろうか、この女生徒の姿が少しぼやけて見える。窓を開けて風が入り込んだせいで舞った埃が目に入ったのか。


「あら、フルーゼちゃん。どうしたの、迷子かなー」


「違いますー。もう、子ども扱いしないでくださいっ」


 頬を膨らまし抗議しているが、それもまた可愛い。

 この子も知り合いのようだ。顔が広いな、メイラは。


「じゃあ、どうしたのフルーゼちゃん。こんなところにいたら真っ黒になっちゃうわよ?」


「いつも閉まっている部屋が空いていたから、何故かなーと思って、覗いちゃいました」


 軽く握った拳で自分の頭を軽く小突いた。ちょっと舌を出すあたりが狙ってやっているとしたら、大したものだ。

 んー、やはり埃が入ったのか。痛くはないが、輪郭が滲んで見える。それどころか、うっすらと黒い物が纏わりついているようにも見え始めた。


「あ、どうしたの、その包帯!」


 メイラが駆け寄り、フルーゼの両手に巻かれた包帯を凝視している。

 包帯か。フルーゼの隣にいるメイラは――普通に見える。しかし、彼女は輪郭がおぼろげで体から黒い物が噴出しているようにしか見えない。どうやら、目に埃が入ったわけでは無いようだ。


「メイラ。他の清掃員も、この校舎で清掃しているのだよね? 悪いけど、他の人からちりとり借りてきてもらえないかな。持ってくるのを忘れたみたいで、ゴメン」


「しょうがないなー。貸し一つだからね」


 元気に飛び出していく。


「メイラさーん、廊下走っちゃ駄目ですよー」


 フルーゼが走り去るメイラに大声で注意したが聞こえていないだろう。

 これで二人きりになったわけだが。俺の予想が正しければ、こいつはただの女生徒などではなく、正体は――



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