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ポリッシャー!  作者: 昼熊
2章

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6話

 周囲に人影がない事を確認すると、顔に装着していた黒い仮面を外した。この仮面も聖掃具の一つで、毒などの有害物質を完全に防ぎ、声色を自在に変化させることも可能だ。着けていて息苦しくもなく不快でもないのだが、それでも外した時の解放感が心地いい。


 さっきの戦闘は完全な不意打ちだったが、一撃で葬ることにより勇者の強さを焼き付けることができたはず。こういう地道な作業を繰り返し、人々の間に勇者が現れたという情報を広める計画だ。国民の勇者への憧れや希望を増すために、強くて格好いい姿を見せなければならない。

 洗浄勇者の最終目標は、この国の支配を目論む魔族を倒し、この国を平和へと導くこと。その目的を成すための道筋は勇者としての力を増すこと。


 今の状態でもゼフルー程度の相手には楽に勝てるだろう。だが、魔族の最上位と戦えば勝てるとは断言できないらしい。それも相手が一人ならまだしも、複数で襲われたら逃げることすら難しくなる力の差がある。

 そこで、力の強化を図らないといけなくなった。学園長がいうには、まだ本来の力すら出し切れていないらしい。その理由をたずねたのだが、学園長の答えは厳しいものだった……俺の羞恥心的にだが。




 あの話し合いは、いつものように学園長室で一対一での会話だった。

 基本、勇者絡みの話は誰にも聞かせるわけにはいかないので、二人きりで話すのが決まり事となっている。


「まず、勇者としての力を百パーセント発揮するには、洗浄勇者に書かれていた通りの戦い方をすることです」


「すまん、それは意味が分からない」


「ですから、貴方の力の源はこの本を読んだ読者の想いなのです。勇者ならこんな技が使える。勇者はこれぐらい強い。勇者ならこういう行動をとってくれる。そんなイメージがそのまま勇者殿の使える能力になっているのですよ」


「そうなると、本に載っていない技は一切使えないと」


 頭の上に両腕で丸を作っている。


「ピンポーン正解です」


 あ、むかつく。


「そして技を使う時はできるだけ本の動きや台詞を真似てください。そうすれば、技の威力も小説に書かれていた内容に近づけます」


「それは、日記で書いていた決め台詞や技発動時の技名を大声で叫んでいたりしたのも……再現しろと?」


「はい、もちろんです」


 即答しやがった。


「ちゃんと、決めポーズもやってくださいよ。言葉遣いや仕草も皆のイメージを裏切らないようにしてください」


 なるほど、恥ずかしさが更に増すわけか。これは何の罰ゲームだ。


「それと、力を増すもう一つの方法が、国民全員の勇者への想いを強くさせること。人々が勇者に憧れる気持ちを増幅させればいいのです」


「増幅させると簡単に言うが、国中の人々は既に勇者に憧れているのだろう? これ以上どうしろと」


 学園長はこめかみに人差し指を当て、小首をかしげている。

 少しの時間、この場を沈黙が支配していたが、学園長放つ大声で簡単に破壊された。


「こういうのはどうでしょうか! 勇者様が国中の問題を解決して回る。そうすることにより、国民の信頼度が上がるという仕組みです」


「いや、顔ばれしたら駄目なのだろ?」


 人差し指を立て顔の前で左右に振る。


「ノンノンノン、そこはもちろん、顔が分からないように常時仮面を付けてください。勇者殿の日記にもあったじゃないですか。汚泥帝国との乱戦で相手に素性がばれないように仮面を付けて戦った話が。あの時の仮面を付けておけば問題無しです! 国民も仮面姿の勇者殿を見て、その場面を思い出し納得してもらえるはずです」


 そんな話あったかな。後で、学園長の書いた洗浄勇者の冒険を読もう。覚えていない設定やストーリーが多すぎる。容姿もそうだが話自体も少し改変しているようだから、そこも確認して覚えておかないといけない。問題は、その物語を俺は読み切ることができるかということだ。あまりの恥ずかしさに途中でくじける姿が容易に想像できる。


 そうそう、自然すぎて気がつかなかったのだが、洗浄勇者は数多の異世界を回って問題を解決したとある。そんな勇者に必須の能力がこの世界でも発揮されていた。

 異世界の文字が読むことができ、言葉が話せる。当たり前のようにこなしていたので、疑問を持つことすらなかった自分にも驚きだ。色々便利な勇者の力だが、当時の俺と友人は結構頑張って設定を考えていたのだなと、少し感心した。





 行きと同じように帰りも塀を乗り越え、気配を殺し開けておいた窓から帰還する。ようやく、今日の仕事は終了となった。ほぼ毎日、こんな生活をしているが……勇者って思ったより地道なのだな。

 国中の人々に見送られ、剣の達人や強力な魔法を使える仲間と敵の本拠地へ旅立つ。なんて壮大な始まり方をするのかと期待してみれば。正体を隠し、昼は掃除に明け暮れ、夜は仮面付けて素性が分からないように敵を倒す。思い描いていた勇者像と違いすぎるのだが。

 昔と違い目立つことも派手なことも苦手になってしまった今では、こういった作業の方が気楽かもしれない。清掃と同じで地道に手を抜かずにやれば必ず評価はされるはず。この肉体疲労も良い睡眠薬代わりになる……あとは……明日に……。

 いくら勇者とはいえ、睡魔にだけは勝てないようだ。



2章の終わりとなります。

4章構成となっていますので、もうしばらくお付き合いしていただけると幸いです。

一応、小説で言うところの一巻に収まるぐらいの量で話をまとめていますので。

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