第四話 視線の先
「今日は晴れてて気持ちいいね~」
「そうですね。ここまで天気が良いのは久しぶりです」
リシルとフェルマンは正面出入り口から外に出て来ていた。そこの周りには入門試験に来ていた生徒達が帰るための準備や、入門許可を貰えた者は説明などを受けている。
「ねぇ、フェルマン」
リシルは面白そう…と言うより興味しんしんの様子で生徒達を見ていた。
幼い頃から部屋の外に出してもらえる事が余り無かったリシルは、当然の事、年が近い子供に会う機会が無かった。周りに居るのは大人ばかり、その中で一番若い者で18歳ほど。
自分と年が近い子供たちが珍しいのだろう。などと思っていたフェルマンは、唐突に名前を呼ばれ、何だろうと返事をする。
「リシル様、何か気になる事でもありましたか?」
うーん、と唸ってから、こてっと首をかしげているリシルに如何したのかとフェルマンは聞く。
「何だか、視線が集まっている気がするんだ……気のせいかな?」
「気のせいでしょう。私が王都に使いで行く時もこのような感じですし」
「そっか」
気のせいか。と言って笑って居るリシルは気付いていなかった。フェルマンは世界でもあまり居ない若い上級陣形術者、しかも優しい+美形。
世の中の女性達は放って置いてはくれないだろうと言う事に。未婚女性達にとっては上級の優良物件。そして、そんな優良物件は王都・他国に限らず……人前に出るだけで一身に注目を浴びる。女性達から獲物を狙う狼の様な眼、術者達からは、憧れ・羨望・嫉妬の眼で。
若い頃からその容姿で注目を集めっていたフェルマンは、上級術者になりより加熱になったその視線に気付かない。鈍感だったのに加え、馴れ過ぎたせいで、それが当たり前だと勘違いしてしまっている。
そして、なぜか前世の頃から周りに美形な人達が集まっていたせいで、自分の周りに異常な程、美形が集まっている事に気付いて居ないリシルは、あっさりとフェルマンの言葉に納得してしまっていた。
リシルは自分の家族と、一部の弟子達しかこの世界に生まれてから見た事が無い。そして、何故かその殆んどの者たちが平均以上の容姿を持っていた。
リバメンス家への評判の一つの中に、こんなのが有る《リバメンス家の術者は美形が多い》……この殆んどは女性陣からである。
そして、リシルは6歳間近という年齢ではあるが、将来有望の美少年だ。兄や姉達が美形なせいで自分は平凡な顔をしていると思っているが、十分以上に華やかな容姿をしている。
そして、そんな2人に注目が集まっているのは当然…必然とも言える。
しかも、リシルはこの様に人が多い場所に出たの初めてである…当の本人は気付いていないが。リシルはいろんな意味で有名だ。
名家である《リバメンス家に、魔力が有り過ぎるために表に出られない末の子が居る。》と言うのは世界中でも認知されている程である。普通魔力が暴走する時は、魔力を練り、その練った魔力で陣を展開した後、その陣を発動するための魔力をその陣に合った密度と性質を変換して流し込むのだが、その時の匙加減を間違えると関係の無い魔力が引きずられて無くなるまで放出し続けてしまう。魔力を放出し終わった後は、生命エネルギーまで放出し終わるまで止まらない。
その生命エネルギーを出し切ると、その術者の命は無い。
そして暴走してしまうのは大抵は陣形術を習い始めたばかりの未熟な術者。だから、暴走の心配の無い術者が側で見張ることが義務付けられている。
魔力の使い方を学んでいない、しかも赤ん坊の頃から暴走してしまうような事は前例が無い。
そんなリシルは、気付かない内にこう言われるようになっていた《天才》《鬼才》その他もろもろ……
そして、この屋敷に幼い子供と言ったらリシルしか居ない。だから、試験を受けに来た10歳の子供たちでさえ気付いていた。
だから余計視線が集まる。
「今日は、レオ兄も帰って来るらしいよ」
「本当ですか? レオナール様が本家に帰って入らっしゃるのはいつ以来ですかね」
「……半年ぶりかな?」
視線にまったく気づかない当の本人たちはのほほんと会話を続ける。
二人はマイペースだ、と周りの人達が囁いていることを本人たちはまたしても気付いていないのだ。