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転生物語  作者: 木賊チェルシー
幼少期
26/29

第二十一話 どこの家庭でも母は強し



「さぁリシル様の心を射止めるのですよ!」

「……お母様」

「ん?何か質問でも?」

「つい先日、恋愛結婚でいいわよとか言っていませんでした?」

「それはそれ、これはこれなのよ!」

「……はぁ」


 そんな軽く、私の人生を左右することを言わないでください。


 パーティー会場の一角、そこでは今日この会場に居る娘たちが母や父に言われているだろう言葉を、同じように娘へと言い聞かせている母親が居た。

 その言い聞かせられている娘はどこか冷めた目で、周りを見る限り乗り気な幼い少女たちを見回す。そして視線の先を母へ戻し、いつもの暴走を視界に収た。伯爵家令嬢ルーメリナ・ミウ・ロストメリは溜息をつく。

 

 実家から学院へと手紙が届き、その内容は【至急、帰って来てくれ】と言う簡潔な一文。

 その急な呼び出しに両親の身に何かあったのか? と急いで実家に帰宅したのはつい一週間前。元気そうな様子にほっと息を着いたのもつかの間、ロストメリ家御用達の仕立て屋がどこからか湧き出て囲まれ、体のサイズを図られ、様々な色や模様の布を並べられ、呆然としたまますべてが終わっていた。

 その後、はっと正気に戻ったルーメリナは何でこんな急に呼び戻されたのか、そして先ほどのあれはなんだ! と、先ほどまで目の前でにこにこと布を選んでいた母に詰め寄った。


 そして聞かされたのがこのパーティー。


 どうやら、父が何らかの縁でこの主催者であるリバメンス公爵と知り合い……、と言うより友人だったそうで、招待されたんだそうだ。家族も連れて行っていいとの事、じゃあ息子と娘もというわけだ。

 兄も急な呼び出しに慌てて帰って来たようで、屋敷に着いたとたん仕立て屋に囲まれ目を白黒させていた。私と同様に呆然としていた兄であったが、パーティーの話を聞いたとたん目が輝いた。


「父さんって意外と顔が広いよね」


 パーティーの事を最後まで聞いた時の兄の一言だ。私も同意した。

 リバメント公爵家は貴族のトップと言っていいほど権力の持った家だ。王家の次に権力がある家。

 王位継承権はないが王族の血は流れているし、そしてなによりも陣形術師達の世界では大国の王ですら凌ぐ権力を持つ。

 パーティーでも舞踏会でも、気軽に声もかけられない。リバメント公爵家のしかも嫡男であれば普通に考えて、娘であればダンスの申し込みが殺到する人ではあるが、めったに舞踏会には出てこない。出てきても親しいものとしか踊らない。

 わざわざ言葉にしなくとも、『俺によるな』という威圧感が垂れ流しのため近づけない。それを気にせず近づいていけるのは、お頭の弱いお嬢様か自分に自信満々のナルシストなお姉さま方である。

 私みたいなのは遠目に、観戦している。(まるで戦争……、いや泥仕合なので)

 リバメント家はめったなことではパーティーや舞踏会を開かないため、珍しいソレに招待されるなどほんとにレアなのだ。

 そんなのに御呼ばれされる程度に我が父殿は顔が広いらしい。初めて知った父の一面である。

 

 兄はあと一年で学院卒業だ、その後王立騎士団に入団する。リバメント家嫡男レオナール様に憧れて入団を決めたそうで、今は必死に剣での稽古に打ち込んでいる。

 入団しても、それなりに出世しなければ直接話すなど夢のまた夢だ。相手は劇団の俳優以上の人気者。ルーメリナには頑張れとしか言いようがない。


 弟の誕生パーティーだ。あの公爵家は皆仲がいいから兄の憧れの存在、レオナール様も来ているだろう。もしかしたら間近で会える、話をもできるかもしれない。そんな期待で嬉しそうな兄と違い、ルーメリナはなぜ自分まで呼び出されたのかを考えていた。

 それで行き着いたのは噂があふれんばかりにある、今回の主役であるリバメント家、末のご子息だ。リシル様は6歳になる。そして私は6歳になって少し経ったくらい。歳が近いから……、ていうか同い年だし許婚候補にでもとか?

 一応父はそれなりの……、けっこうな? 高い爵位を持っているので、伯爵令嬢である私は政略結婚などの類と無縁ではいられない。

 この歳で許婚が居る人は貴族の中でも少数ではあるがいる。生まれたばかりのころ決められたせいで、会ったことはあるらしいが自分が幼すぎて全然顔を覚えてないとか、親の口約束で一応婚約扱いだが会うどころか顔すら見たことない。みたいな子もいる。

 だからまさか、いや、しかしと思い母に聞いたが、


「それは無いわよ。今回はお披露目を兼ねた誕生パーティーよ。確かにそういう面もあるかもしれないけど、リバメント公爵家の方にその気はないでしょうね」


 招待されてる人たちの一部は、許婚探しとか思ってるんじゃないかしら? と首をかしげる。

 それに、と続けた母が言葉に詰まる。一瞬言うか迷った末に首を振った。


「あなたにはまだ早い。これは大人の都合だから」


 少し寂しい様な悲しい様な複雑な表情をしたあと、にっこりといつもの笑みを顔にのせて言った。

 何が言いたかったのかはっきりとは分からない。そのあとも聞いてみたが誤魔化されてしまったから。でも、予想してみようと思えば少しはできた。


 学院内でながれる情報は本当かどうかは分からないものもいれ、量が半端でなく多い。その膨大な情報の中に、リシル様の事もけっこうあり、よく話題に上がる。私は陣形術科に所属しているから、そのての情報がたくさん入ってくるのだ。情報源はよくは知らないけど、たぶん陣形術師を母や父に持つ子たちだろうと思う。

 今までは天才や神童と言われていることが多かったリシル様だが、『神の御子』が最近それらに成り代わって頻繁に聞く言葉だ。

 私は最初それを聞いたとき「神の御子って(笑)」それ大袈裟すぎでしょーよ。となったものだが、色々と話を聞いているとそう大袈裟でもないらしい。

 普通科の生徒の中では「実は体が弱いだけで、誰かが言い出した噂とかが独り歩きしているだけ」なんて言われていたりするが、陣形術科内では先月に行われた弟子入り試験で奇跡の様な陣形術を目の前で見た先輩がいる。その先輩の周りの人たちも見ていたらしく間違いないらしい。

 その陣形術は、青いバラを作り出した。派手なものではないが自分自身が専攻している科だからこそ言える〝ありえない〟。

 しかし、その証拠である青い薔薇は枯れないように特殊な加工をして学院内に飾られている。一度見に行った事がある。その薔薇は作られたような色や、無理やり染めたような色ではなく、自然に、その色であるのが当たり前のようにに咲いていた。

 調査用の陣形術で何人も調べていったそうだが〝本物〟だそうで、それを聴いた者たちが言い出したのだ。この世にないモノを作り出せるのは神だけだ!と。

 それから言われるようになったのが『神の御子』。

 その『神の御子』は素晴らしく容姿が整っているらしい。「信仰するものが出てきそう」レベルだとか。

 誇張されているだけかもしれないが、将来有望なのは間違いないだろう。

 リバメントの性を持つ方々は、ほんとに冗談ではなく美形ばかりだから。やはり遺伝子に何か秘密が……。

 おっと話がずれた。話を戻すが、はっきり言ってリシル様は本来であれば自由な人なのだ。


 王家の血を引く公爵家の子息、


 規格外の力、


 才能、


 優れた容姿、


 そして頭脳。


 これだけそろえば自由に生きれる。いや、二つでもそろえば確実にだ。

 リバメンス公爵家は政略結婚しなければ力を保てないような家ではないから、結婚相手はより取り見取り、自分で好きに選べるだろう。

 それに、跡取りではないため職業だって自由に選べる(貴族の子は基本的に軍に入るか文官になるか家を継ぐかだ)。学校だって普通に行けるはずなのだ。

 それくらいは簡単だから私にもわかる。でも、出来るはずのリシル様がそれを出来ないことの表向きの説明に、疑問に感じるとこもあるのだ。


 リシル様がこの屋敷から出てこれないのは、暴走の際周囲に危険が及ぶ可能性がある。と言うのが表向きの説明。

 しかし、それだけではない気がするのだ。気がするだけではっきりと分かるわけではない。でも、最近は暴走したとの話は全く聞かない。しかし、入学は延期になった。ここまでくれば疑問も出てくる。

 でも疑問は出てこれど、答えは出てこない。だが、学院の先生の中にいろいろと教えてくれた仲のいい先生が居るのだ。

 それは、国の歴史を教えている先生だ。

 教えてくれたものには以下の様なものがある。


 時として自由になるために必要である力は、自分自身をからめ捕る鎖になるのだよ、と。


 王家との繋がりが深い大貴族だからこそ、その見えない鎖は強制力を増す。


 地位が高いからこその自由と責務は比例するのだよ。


 力を持つ貴族は、その地位が高ければ高いほど国を守るという責務が課される。


 まぁ、責務なんて知らん顔の腐った貴族も多いが……。

 

 現在のこの国で高位の地位に着くものたちは王に忠誠を誓っているものの方が多いな。……それらは己の責務を全うしているよ。差はあれどね。

 

 そんな忠誠を誓っている一族に生まれたものたちは、みんなそうだな。


 その中でも、何かしらの〝力〟を持って生まれてきたものは、責務からの拘束力が増すんだなぁこれが。 


 力があり過ぎるからこそ国に縛られ、己の自由は得られない。その筆頭がリバメンス公爵家の様な優秀な陣形術師を多く輩出する家なのだよ、と。


 前の様な事を、話の中で言っていた。先生が言っていたのはこういう事なのだ。

 力の陣形術者たちは、この国の力を維持するための要。

 騎士などが使う剣術などの才能と違い、陣形術を使うための力は両親の素質に影響を受けやすいのだ。だから、強い者同士の間に生まれる子供は両親の強い力を引き継いで産まれてくるため、強い子供ができやすい。

 リシル様には、そのリバメント公爵家が代々引き継いできた力が両親どころか歴代のため込んできた力も出てきてしまった。

 その結果が強大過ぎる力の継承。遺伝子の不思議、数十年、数百年、数千年に一度起こる奇跡が、たまたま今起こった、ただそれだけなのだと。


 力のあるものから生まれる子はその親の力を受け継ぐ、というのはリシルが親になった場合にも、もちろん当てはまる。

 国外に出したくないのは、その国が力を増すのを防ぐため。

 これも先生が言っていたことだが、代々国王はリバメント公爵家の血筋の者を国の外へ嫁ぐことを許さない。相手国との和平のためや、国同士の繋がりを強化するためなどでたまにある両国の王家の血筋のものを政略結婚させるなんてとき。それも、相手の国へ花嫁として送り出すとき、絶対にリバメンス公爵家直系の血筋の者にはその話は絶対に回ってこない。たとえ、ちょうどいい年頃の娘がいてもだ。

 歴史の先生が言っていたのだから間違いないのだろう。

 なんで、こんなことを私に言うの? そう思ったことをそのまま聞いてみたら「君はほかの子たちとは違う思考をしているからね」だそうだ。

 私が変わり者だとでもいうのだろうか? 失礼な! 私は平凡と言う字が擬人化したような人間だというのに!

 ……また話がずれていたが、母は私の疑問を否定した後に言っていたのだ


「やっぱり結婚は政略結婚じゃなくて恋愛結婚よ! 私も恋愛結婚だったんだから~」


 そして、両親が恋人同士だった時ののろけ話を永遠と聞かされた。

 その時に『政略結婚とかの強制の結婚なし? 良かった~』と思っていたのだが、ここの門をくぐってから母が固まっていると思ったらいきなり言い出した「リシル様を落とすのよ!」と。


 母よ、いったい何があった。


「すごいわ! 美形ばっかり! イケメンばっかり!! 月系もキラキラの王子様系もそろってたわ! 噂には聞いてたけどお弟子さん達も美形ばっかりって本当だったのね! あなたがリシル様と婚約でもすればたまにはここに来る機会があるじゃない!」


 母がミーハーなのを忘れていた。

 母は、少し荒い息をしながらあっちこっちを見まわし、一点を見つめていると思った次の瞬間、ほぅと溜息を洩らしうっとりとした表情をする。

 しかし、ここまで興奮しているのは初めて見た。

 口調変わり始めてるし……。


「絶対に手に入れる! この夢の空間への切符をっ!!」

「ちょっと落ち着いてください」

「落ち着いてなどいられるものですか!」


 母は錯乱している。

 私は混乱している。

 そして迷走が始まった。





「いざ行かん! 新世界へ!!」

「お父様早く来て……!」


 

 いや、ホント切実に……。






読んでくださっている方、感想をくれる方、本当にありがとうございます!

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