第二十話 マナーって大切
「父様」
「なんだリシル」
「何となくですけど、僕の恰好ほかの子たちとなんか違いませんか?」
「そんな事ないぞ」
リシルはそうですかと言って会場をぐるりと見回す。
パーティー会場に入ったリシルは、父と供に招待客への挨拶のために会場中を周っていた。
その中は、リシルと同い年の子供を連れてきている人も居たため、その子たちを見てリシルは自分とその子供たちの違いに首をかしげていた。
呑気に周りと自分自身を見比べているリシルだが、パーティー会場で招待客たちの視線を一身に集めていた。比喩ではなくその言葉どうりに。
主役だから、初披露だからと言うのもあるが、幼いにもかかわらず整い過ぎた容姿と普通の子供ならつける必要のないモノが様々な場所に着けられていたからだ。
それは、リシルの編みこまれた髪、耳、首、手首、指、などに身に着けている装飾品に見えるモノ、その他服に付けられているモノに至るまですべてが一級品の〝封属器〟と呼ばれる魔力を抑えたり、制御するモノ。
一見、高そうなただの装飾品だがそれは違う。学に関わりのない者から見たら分からないのだろうが、陣形術に関わりのある人、王城に出入りする人や、学院の卒業生などの学のある人、貴族ならば皆分かるようなものだ。
しかも普通の一般的な封属器には、クリエステルと言う名の魔石、特別な魔力の混ざったクリスタルの様な石の粉末が交ぜられて造られているが、リシルが着けている物の中のいくつかには、その粉末を混ぜた金や銀の土台に、その粉末にするはずの魔石を固体のまま磨いたものが直接付けられている。
そもそも、なぜ粉末にして混ぜ込むのかと言えば魔石そのものを付けると効果が効きすぎて、下級の者ほど魔力を押さえつけられる圧迫感で身動き一つ取れなくなる。
だからこそ、粉末にして少量混ぜる。その混ぜる量で1~6段階のレベルが決まっていて、その中で一番レベルが高い物が一級品と呼ばれている。そのレベルの判断は色で決まり、上から白金=白銀<黒<赤<藍<黄<灰とされており、粉末を混ぜた分だけ勝手に変わるため、そのまま設定されている。
王城に入る場合、王族や軍の者以外は魔力に合ったレベルの封属器を付けるのが義務付けられているため、貴族ともなれば必ず知っている知識だ。
そして、貴族が集まる様なパーティーでも着けるのはマナーとして決まっているため、リシルもそれに従って着けている。
単純に言えばその着けている封属器のレベルと量がおかしい。魔力量が平均的な子供で、レベル6の封属器をかなり細くて小さな指輪型にしたものが普通。かなり少ない子にいたっては普通の装飾品に宝石の様に小さな粒状に加工された封属器を付けたもので十分なのだ。
そんなんであるからこそ目立つ。そんな好奇の視線にも気後れせず、物珍しそうにきょろきょろ見回している姿は年相応な普通の子供に見えるが、動くたびに〈しゃらり〉〈チリーン〉と擦れ合う音を鳴らし、揺れる封属器がそれを否定していた。
【この子は非常識の塊だぞ!】と。
リシルが感じた違和感もこれである。
周りの子たちは装飾品がそんなについていない。全くついていないと言う訳ではないがリシルほど全身についている子は居ない。それに、ついている物は普通の装飾品であって間違っても封属器ではないため色が違う。
ちょっとした違いではあるが、リシルは過敏に感じ取ったのだ。父の言葉で「気のせいか」っと納得してしまったが。
大体こんなに量を着けることになってしまったのは、リシルの魔力保有量に合った封属器がどれほどの物か分からなかったからだ。
幼いころ暴走を抑えようと着けたものは、ヒビが入る→砕け散るを繰り返した。リバメント家一族と、使用人達にとってこれが常識の様になっていた。初めのころは『封属器って砕けるんだ……』ひびならまだしもと、呆然と見ていたものだがすっかり慣れ、何があっても動揺しなくなっている。
そして今回、そんな『砕け散るモノ』と思われている封属器を着けて意味はあるのか?そんな疑問にぶつかったりもしたが〝着けない〟なんて選択肢はないため取り敢えず多めに準備をしておいたのだ。リシルが魔力をなるべく自分自身で抑えているので砕ける事は無かった。
当初、魔石自体をそのまま使ったものは使用する気はなく、昔に半分お遊びで作ったものだったのだが今回のために準備しておいたの封属器では足りなっかったため急遽金庫から引っ張り出した。
そのおかげで、着ける封属器が減ったため軽くなったとリシルは喜んだ。普通の封属器だけの場合数が多すぎて、身に着けているだけで体力のないリシルには重すぎた。
封属器は〝抑える〟モノであって、魔力を〝消す〟モノではない。だから、体に負担がかかる事を心配されている。〝抑える〟と言っても無理やりみたいなモノだから、錘を体の上へ乗せられているようなものだ。
保有量が大きければ大きいほどその重さゆえの負担は増える。普通であれば微弱であって、小石をずっと持っている様な、疲れなど感じる様なものでは無いのであるが、リシルの場合はそうもいかない。
それで心配されていたのだが本人が案外ケロッとしているのでみんな安堵していた。
封属器自体は、普通の装飾品より艶があり綺麗なため、身に着けた者をいつも以上に輝かせ周囲の者たちを魅せる。
その本人が美形であればなおの事。
リシルを見たセディ-らは、不思議そうな目で見つめてくるリシルを横目に、いろんな意味で将来が怖いなと軽やかに笑った。