第十八話 やっぱり親子
「着いた~、久しぶりの我が家! 全然変わってないわ~♪」
ところ変わって屋敷の前、ミルフィーネ達はちょうどフェルマンがセディ-から解放された時間帯に到着した。
「あたりまえです。使用人たちが丹精込めて手入れしていますからね!」
リティーが無い胸をそらして言う。
……無いってどういう意味か分かりますよね?
「分かってるわよ。でも言いたくなるじゃな~い」
はしゃいでいるミルフィーネとは違って若干青ざめているガトーとリク、そして屋敷の中を物珍しそうに見まわしているリナ。
リナは何とも思っていないようだが、ガトーとリクは呑気なことは出来ない。
男二人による緊急会議が始まる。
もちろん、こそこそと小さい声で。
「ガトーさん」
「どうしたリク」
「貴族の屋敷ですよね」
「ただ単に金持ちっていう可能性もあるぞ」
「その可能性は消えました……。見てくださいアレ」
「……リバメント家の家紋だな」
「……フィーさんって、大貴族のご令嬢ってことですかね?」
「実家だと言っていたからな」
「パーティーって多分、家族と友達とご馳走食べてケーキ食べて終わりじゃ無いですよね?貴族のパ-ティーですし」
「……だろうな。舞踏会でないのが唯一の救いか」
「それは同感です。僕たち踊れないですしね」
「……」
「……」
「……辞退と言う訳には「駄目よ~」……駄目だそうだぞリク」
「……はぁ」
リバメント家の紋章《大きく翼を広げたペガサス》を見た瞬間遠い目になったガトー。
脱走を考えてみるも、こそこそ話していたはずがミルフィーネには聞こえていたらしい。
なんて聴力だ。
「しかし、僕ら正装なんて持ってないですよ?」
「大丈夫よ~、お父様のコレクションがあるから♪」
「もしかしてあの小部屋のですか?」
「リティーは知ってるんだっけ?」
何の話だかさっぱりの3人を無視して勝手に話は進んでいく。
「はい、あの小部屋の管理は私が担当しているので。ちなみにまだ増えてるんですよ?」
「お父様もこりないわね~」
「でも、良いんですか?勝手に使って」
「いいのよ!どうせ使ってないんだから」
そう言うとリティーの方へ向いていた体が、クルリとガトー達の方へとに向き直った。ミルフィーネはニコニコと笑っている。
なんだか嫌な予感が……。
ガトーとリクはフェルマンと同様のナニカを感じたらしい。悪寒を感じた二人は背に冷や汗が流れるのを感じながらも必死に笑顔をつくる。
頬が引き攣っている様に見えるのは気のせいだろう。
「……?」
二人を見て『どうしたの?』とばかりに首をかしげているリナは気付いていないようだ。
「安心して? 服のことは私が責任を持って用意するから♪」
無理無理無理!!!
この先に起こる事をおぼろげながらも理解したガトーとリクは、『無理っ!』と無言で訴えながら首を横に勢いよく振る。
しかし、そんな必死の拒否はミルフィーネには通用しないようだ。
男二人の首根っこをつかむと、ミルフィーネは細い腕のどこにこんな力があるのかと思える程の腕力でずるずると引きずり屋敷の中を突き進んで行く。
リナとリティーは一歩後ろをついて行く。
「親子って似るもんですね~」
リティーが温かい目で、ガトーとリクを嬉々として引きずっているミルフィーネを見る。
「……?」
「ふふふ、ミルフィーネ様とミルフィーネ様のお父上であるセディ-様。とてもそっくりなのですよ」
『誰に?』と、無言で訴えてくるまだ幼いと言えるリナに、柔らかい笑顔で話をしているリティーだけを見れば心温まる光景なのかもしれない。
その前にはシュールな光景が広がっているが。
やがて、先ほどまでリシル達が居た小部屋の前へと到着すると、両手がふさがっているミルフィーネの代わりにサッと背後から出てきたリティーが扉を開けると、躊躇なくミルフィーネは入って行く。
そして鼻歌すら歌いながら楽しそうに二人の男を部屋の逃げ道のない方へと放り込む。
そのあとを、もちろんリナとリティーも続く。
その後、その部屋から野太い悲鳴が聞こえたらしい。