第十七話 秘密?の部屋
間に合った!
本気で良かった!
急いで打ったのでおかしな所があるかもしれません。
いや、確実にある!
まさにお店の様だ。
リシルの両親の部屋すぐ隣に小部屋がある。そこへセディ-に手を引かれて連れてこられたリシルはその中を見て固まった。
もう一度言う、まさにお店の様だ。
男物、女物、子供服から大人物まで何でもござれ~。
品揃え抜群ですぜ!
……まぁ、ともかくドレスから執事服?から普段着から意味が分からない服(アヒルみたいな着ぐるみとか)までこの部屋にはそろっている。
ちなみに、フェルマンは扉の前で待機している。一応誰も入って来ないように……、と言うより母来襲に備えてだ。
ほんとに来襲があるかは謎だが念には念を。
「さ~、どれが良いかねぇ~♪」
鼻歌を歌いながらごそごそと服をあさりだす父を目の前に、リシルは初めて見た服の大群に気圧されていた。
キッチリとした物から、ひらひらとしたファンシーな物まである服達。なぜこんなに有るのか……。
「父上」
「なんだいリシル」
セディ-はニコニコしながらリシルに様々な服を当て思案しつつ、リシルの言葉に答えている。
「この大量の服はいったい?」
「この部屋にある服?ははは、本当はレオナールとミルフィーネが生まれた時に着て欲しくて集めたんだけどね~」
言った瞬間、ふっと黄昏る。
「二人とも着てくれなかったんだ……。それで新品のままここに収納だよ」
「……確かに、ここにある服はレオ兄とフィー姉の好みではなさそうですね。 二人は装飾品があまり好きではないようですし、ひらひらした物も好きではない様ですから」
……はっきり言うね。でもリシルは着てくれるだろう?」
キラキラとした目で見られたリシルは、うっとなり、ちらりと服の大群を見る。そしてセディ-を見て、またうっとなる。
この部屋にある服は、リシル自身にとって着る勇気が必要な服満載なのである。
しかし、ここまで期待されてしまうと断わる事も出来ない。こう言っちゃなんだがリシルはお人よしなのだ。
「……ひらひらした服以外なら」
それを聞き、パーッと顔を明るくしたセディ-を見て、ハァと溜息を吐いてしまったのはしょうがない。
喜色満面のセディ-は、ますます気合を入れて服を物色しはじめた。
リシルは部屋の奥の方に入って行ったセディ-を見ながら、ふと思った事を一歩下がった所で控えているモルティナへ聞いてみる。
「いつになったら終わるのかな?」
「旦那様の気が済むまででは?」
「……なんか長そうな予感がするよ」
「ドレスよりいいのでは?」
「それ言ったら終わりだからね!」
リシルはモルティナにズバッと言われ、そーなんだけどと言いながらセディ-を服の中から探してみる。
髪の毛先が少しだけ見えた。
置いてある服が揺れるたびにセディ-の髪も縦に横に揺れる。
けっこうな時間が経過する中、途中で扉の前でどたばたと音がした気がしたが、少ししたら静まり返ったので気にしないことにし、また観察を続ける。少しすると髪の揺れがピタッと止まる。そして服一式を持ってセディ-がリシルの目の前へとやって来た。
「これっ!絶対これがリシルには似合うはずだ!」
これだ! これしかないっ、そう言ってばっとリシルの目の前に差し出してきたのは、セルリアンブルーを主にしたジャケットとハーフパンツ、そしてブラウス。レースやフリル、刺繍が品良くされており、肌触りもいい品だ。
「ほぅ。これはこれは……、旦那様は服の趣味だけは良いですね」
「モルティナよ、だけは余計だから」
「ついつい本音が漏れてしまいました」
モルティナは、平然と雇い主であるセディ-に言ってのける。
「……本当に君は侍女かい?」
「リシル様の、ですが」
「私は?」
「旦那様ですが、それが何か?」
「……」
「さぁ、着替えましょうかリシル様」
「……ふっ、私のことを何とも思ってないのは分かっていたよ。君がこの屋敷に来てからすぐにね!」
「なら聞かないで下さいませ」
落ち込んでいるセディ-を横目に、モルティナは着替えのための準備を始める。
リシルはこのやり取りを、仲良いなーと思って見ているため、父がモルティナのことで色々と苦労していることは全く知らない。
この先、気付けるかも怪しい。
「旦那様のせいで時間がありません。急ぎましょう」
「うん、そうだね」
今のセリフでとどめをさされ、じめっとした空気を放ち始めたセディ-は完全に二人の視界から締め出されているため、居ないように扱われている。
最強の称号を持っていても、同じく最強のメイド様と末の息子の前ではただのヘタレである。
何だかんだでその数分後、モルティナに着替えさせられたリシルは小部屋から出る。
モルティナはどことなく機嫌がよさそうだ。
セディ-はリシルが着替えている間に、気に入った靴やタイを見つけられため、先ほど落ち込んでいた時と別人のように機嫌が回復している。
そして、フェルマンはズタズタだった。
「……フェルマン大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ちょっとやられただけです」
「これでちょっとなんだね……」
最後見た時より傷がかなり増えていた。服もびりびりである。
いったい扉の前で何が起きていたのか……。
「さすがにこれでパーティーに出るのはまずいかな?」
「そうですね……、一度自室に戻って着替えてきます」
「うん、いってらっしゃい」
一回リシルに礼をして、踵を返したところで『いい案思いついた!』と言うような顔をしたセディ-がフェルマンを引き止める。
「なんでしょうか?」
「自室に戻る必要はないよ」
「……?」
突然のことに疑問符を浮かべていたフェルマンだが、キラキラと目を輝かせているセディ-に、なんか自分の身に良くないことが起こる様な予感がしていた。
フェルマンの頬に汗が伝う。
「服なら沢山あるじゃないか!」
「いえ、遠慮いたしますっ!」
「遠慮なんていらないよ」
悪い予感は当たりやすい。
セディ-のセリフで何を言おうとしているのか一瞬で理解した。顔色が若干悪くなったフェルマンは全力で拒否するが、セディ-は遠慮しているだけと取った様だ。
セディーはガシッと、首根っこつかんで反論など聞こえないかのようにフェルマンを引きずっていく。もちろんあの小部屋に。
「いいです! 自室に戻ればいいだけですからっ!」
「いいからいいから」
「良くないですっ!」
アァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
フェルマンは悲痛な声の余韻を残し、ぱたんと小部屋の扉が閉まる。
『『…………』』
「……終わるの待とうか」
「そうでございますね」
微妙な顔をしたリシルに、モルティナは綺麗な笑顔でうなずいた。
小部屋から出て来た時、輝くような笑顔を振りまき上機嫌なセディ-に反し、フェルマンは何かを吸い取られたような顔だったとか。
どうでしょう?