第十二話 リシルの夢?
本編かなり久しぶりな更新です!
間が空きすぎて若干おかしな所がある可能性大です。
それでも良いという方はどうぞよろしくお願いします。
「暇だなぁ」
誕生パーティーの日取りが決まり、屋敷の中が慌ただしくなった。
普通なら主役であるリシルもある程度の準備で忙しくなる所だが、パーティー開催日間近になって体調を崩すといけないという事で、いつも以上に周りの目が光る中大人しくベットで横になっている。
最低限必要な事以外は何もさせて貰えず、リシルはここ数日はずっと暇を持て余していた。
リシルは何度も『何か手伝いたい』と言っているのだが『私達の仕事を取る気ですか?』『寝るのが仕事!さぁ寝なさいな』等と何度言ってもやんわり?と断られるので、リシルも諦めたのだ。
この忙しさには理由が有る。
リシルが暴走した時や侵入者(リシルへの暗殺者)が入った時、生半可な者がいると怪我をするため、この屋敷で雇われる者には厳しい試験があり、教養から戦闘技術から陣形術者としての試験まで幅広い試験をパスした者しか雇用されない。
その試験の厳しさゆえに元々の使用人の数が少ない。
メイドから庭師、おまけには料理人に至るまでレベルは有る程度違うものの審査が有る。リバメント家に就職希望の者は山ほどいるが、その中の一握りの者しか受からない。
そのせいでこの忙しさなのだが、普通は間に合わない所を王都の方に居る使用人も駆け付け、やっとの事でギリギリ準備が進んでいる。
他にも理由は有るのかもしれないが、ほとんどの事は理解しているので『手伝いたい』と言ったのだ。
実際の所、厳しい試験を受けた者しか雇っていないというのは屋敷中の者が隠していた事なのだが、自然とリシルは気付いていた。
気付いている事はリシルは誰にも言っていない。屋敷の使用人達が『リシル様の所為だと憂う事が無い様に』と隠している事を、わざわざ暴く必要は無いと思っているからだ。
だから、メイドが太ももに短剣を隠して常備していたり、結った髪の中に痺れ薬を仕込んだ針らしきモノが潜められていたり、箒の柄に剣や刀や槍が仕込まれていたり、屋敷のあちこち置いてある置物や飾ってある絵画の裏に様々な武器が隠して有ったり、飾り用の剣に見せかけて実は魔剣だったり、庭師が広い庭のあちこちに屋敷の使用人達にしか分からない様に武器を埋めたり木の中に隠していたり、料理人達が暗殺者を捕まえた時用に、地下室で世界でも知られていないような強力即効がうたい文句の自白剤を作っていたりなんて事は気付かぬふりだ。
もちろん、リシルはこの事を教えられていない。
それなのに何故知っているのかというと、少し前から出来る様になった魔力を使う《探知》のおかげだ。
陣形術は大雑把に言えば前紹介した通りなのだが、その内容にはもっと細かい手順が有る。
魔力を極細の糸状にし、それを組み合わせ、陣や紋章を描き出し発動させるのが陣形術。
陣や紋章を描き出すだけの魔力だけでは駄目だ。最後の仕上げで有るその術式の“必要な魔力の量”をきっちり注がなければ発動しない。
しかし、魔力の保有量は努力してもあまり変わらない。
大人になって行く段階で増えるものだが、魔力は歳を重ねるごとに増える量を減らし、大抵は二十歳前には増える事をやめる。
ある歳でいきなり増えるなんてことも有るらしい。
当たり前だが、保有量が少ない者は、それなりの術式しか使えない。
しかし魔力が少ないがために、細かい制御が可能となる。逆に言えば魔力の保有量が多ければ多い程、細かい制御が極めて困難になる。
だからこそ、それを補うために生みだされた技が有る。
魔力を極細の糸状にする段階で止め、その魔力の糸にとても小さい制御用の印を付ける。そしてその糸をいろんな方向に伸ばす事で、その糸が映像や音などを拾い、その情報を術者の元へ届けてくれるのだ。
これが《探知》。
一人だけではあまり役に立たない。なにしろ魔力の量が少ないのだから糸の数も範囲も限られているのだ。しかし、数十人でこの術式を行う事でかなりの広い範囲に糸が届くようになる。軍にはこの術式を使うために集められた集団があり、国に一つは有ると言われている。
ちなみに魔力の保有量が多い者は、糸状にする段階を無意識でやるものだからこの《探知》ができなくて当たり前。だからと言って魔力が全く見えないと言う訳でも無く靄のように視えるのだ。いわゆるオーラの様なモノとして視える。魔力の保有量が少ない者は、逆に意識しなくては糸状にできない。
魔力に至っては規格外な保有量を誇るリシルが、なぜこの《探知》が使えるのかは本人ですら分かっていない。
聞かれても『出来るから』としか答えられない。
この《探知》を使えるようになってからリシルは、あちこちに糸を伸ばし外の世界を文字道理“覗き見”をしている。
やりすぎると体の体調が悪くなるので加減しているが。
そして今日も覗き見中だ。
この屋敷から少し離れた所にある小さな町の様子をリシルは空からよく覗いている。どういう風にかといえば、鳥がのんびりと空を飛んでいるときに見ている風景といえばピッタリかもしれない。
鳥と違うのは、時々空中で止まったりできる処だ。
「今日も平和だな」
町はいつも道理、にぎやかで穏やかな雰囲気を醸し出している。子供達は元気に走り回り、鳥たちは空を飛びまわる。
「いつか行ってみたい……」
“無理だとは思うけれど”
最後の一言を心の中でぽつりとこぼす。
リシルは『覗き見』をやめ、窓から見える空を見上げる。
窓から見える空は限りがある。狭い窓の枠には少ししか映らなくても、その向こうには自由な空が広がっていて……。
リシルは《探知》を使えるようになってからずっと心に秘めていた思いがある。
《いつか自由に外へ出てみたい。
自分の足で行きたい場所へ、誰にも頼らずに行ってみたい。
世界の不思議を……、自分の目で見てみたい》
リシルはこの《敷地》から出られない。理由は色々あるが……一言で言えば『大人の事情』。
この思いは前世では思ったことのない事。
これはきっと“夢”というモノなのだろう。
「……世界は広い……」
これはリシルが身近で知る人で、貴族等のしがらみに囚われず生きる人に聞いた言葉だ。
『世界は本当に広いわ。
旅をすればわかる、地域によって様々な文化があるもの。
少し海を越えるだけで見たこともない世界が広がっているの……。
想像してみて、知らない生き物、不思議な植物、考えたこともない習慣を持つ国、見たこともない色素を持った人達……。
ね、素敵でしょう?』
この話をしてくれた女性はリシルの誕生パーティー開催日にはこちらへ“帰って”来るらしい。
「楽しみだなぁ」
そう呟き、目を閉じる。
誕生パーティーまであと16日