番外編 天才って居るもんだ
やっぱ遅くなった……
なのに本編じゃ無くて番外編……
自分って本当に使えない……
くじけそうデス。
「今日は驚くような事ばっかでしたね」
「そうね…隊長の弟さんがあそこまでとは思わなかったわ」
この声の主である2人組は、レオナールが連れてきたビルとユメルダである。この二人はあの騒動の後、与えられた自室に先程まで居たが夜風に当たろうと中庭まで出てきた所、ばったりでくわし、せっかくだからと話していた。
話の内容は《隊長の弟》だ。
「そおっすね。 この業界で《天才》とか《鬼才》とか言われてるのは納得です。最近の一般市民の方じゃ、『姿を出せないのはただ単に体が弱いだけだ』とか『ただの引き篭もりだ』とか言う奴も出て来てますし、同業者の方も『体質の所為ってだけで、魔力の量がそんなすごいってわけじゃ無いんじゃない?』とか言う奴居たんで……そこまででも無いと思ってたんですけど……」
「……確かにそうね。 陣形術関係じゃない一般人には情報なんて入ってこないだろうし……同業者でも何時暴走したとか瀕死状態になったとか、嘘か本当か分からない情報をたまに聞くだけだからね。 ……でも流石にあれほどとは……予想以上だわ。 まぁ、見た人にしか言えない感想だけどね」
天才って居る所には居るもんなのね~と、溜息を吐くユメルダに、ビルは首を縦に振って同意している。
「あの歳で新しい術式を作り出し発動する……、しかもあの術生半可な力量じゃ出来ないわよ。魔力の量だってかなり消費するわ。あれ、下級の術者じゃ全然魔力が足りないだろうし発動まで持ってけるかどうかも怪しいわ……。中級の術者なら発動させるだけならぎりぎり出来るか出来ないかってところかしら?」
あー、なんて術式……そしてあの術式をしっかり発動して飛ぶだけの魔力を使っておいて、まだまだ使えない魔力の方が多いだなんて……神様ってホント不平等だわ。的な事を呟きながら、若干遠い目になっているユメルダをビルは見ながら一言言う。
「同感です」
何故か神妙な顔で返答をしたビル。そしてその返答を聞いたユメルダは、寄りかかっていた壁から背を離すと仁王立ちになり夜空を見上げる。
ちなみに今日は綺麗な満月だ。
いつもより大きく見える双子の月。
そしてビルは、『あれ? 何かまずった?』と、仁王立ちになったユメルダを青くなった顔で見つめる。そして、その顔は若干引きつっている。
ビルは、隊の中でユメルダと同期の先輩に聞いた事があったのだ『ユメルダは、仁王立ちになる時とんでもない事を言い出す事がある』と。
自分自身でも一度体験している。
まじヤバイ、と思っても後の祭り。
「まぁ、神様なんぞに不平等だ何だ言っても仕方がないわ! 天才ってわけじゃ無くても、陣形術以外で補えばいいのよ!」
そして、握り拳を作るとそれを夜空を吹っ飛ばそうとするかの如く、空へと勢い良く突き上げる。
「何だか分からないけど、やる気が出てきたわ! 自分より年下に負けるなんて何だか癪だし……、王都に戻ったら隊の訓練増やしましょう! 天才なんて追い越すぐらいに鍛えるわよ‼」
一瞬停止した思考を、ビルは必死に動かす。
そして出た結論を反射的に言ってしまう。その時の俺は絶対に情けない顔をしていたとビルのちに語る。
「いや、姉さんそれは無理がありますよ」
「姉さん言うな。 無理なんて事は……、多分、きっと無いわ! 完璧な訓練メニュー(地獄の)作るから覚悟しておきなさい!」
「何っすかその微妙に空いた間! なんか言い直してるしっ! 後( )の中に地獄って何ですか!?」
「帰るのが楽しみだわ♪」
「シカト!? そしてその怖い薄ら笑いは止めてください‼」
薄っすらと危ない笑みを浮かべているユメルダを、必死に押しとどめようとビルは奮闘するが、効果は無い様だ。
と言うより、効果が無いのはビルの声が全く聞こえていないからかもしれない。
ユメルダの頭の中ではきっと、どんな訓練をどの位増やそうかの一点に尽きる。
『落ち着いてください‼』『早まってはいけませんっ‼』と言う、ビルの必死の叫びは結果的にユメルダには届かず、王都へ帰還後、さっそく訓練の量は増やされた。
訓練を通り越し、サバイバルの様な訓練が週に1度行われるようになったとか……。
まぁ、訓練が増やされた軍の質はどんどん上がって行く事になる。
ほとんどの軍に所属していた者は、何故訓練が増やされたのかも分からずにボロボロになるまで扱かれた(ユメルダに)。
総隊長(一応)はニコニコしながら訓練の風景を見ていたとか。
止める気はさらさら無かったらしい。
その原因を作ったリシルは、今日もベットの上で計画実行が出来る日を待っているのだ。
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