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あの日の君へ  作者: 凛花


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6/10

第六話 声



会社のお昼休み。


休憩スペースで、女性社員たちが昼のワイドショーを見ながら盛り上がっていた。


『人気俳優同士、電撃復縁!』


画面の下には、大きなテロップ。


「えー、すご。別れた相手と戻るとか無理かも」


「わかる。一回ダメになった相手って、結局また同じ理由でダメにならない?」


笑いながら、先輩たちがそんな話をしている。


「だって、うまくいかなかったってことは、それなりに原因あったってことでしょ?」


「まぁねぇ。根本的な部分が変わってないなら、結局また同じこと繰り返しそう」


何気ない雑談。


誰も、結衣に向けて話しているわけじゃない。


でも。


その言葉だけが、妙に胸に残った。


結衣は小さく息を吐く。



——私たちも、そうなのかな。






その夜。


スマホの画面に表示された名前を見て、結衣の心臓が大きく跳ねた。



『成瀬慶』



一度、深呼吸をする。


震える指で、通話ボタンを押した。



「——もしもし」


『結衣』


電話越しに聞こえた声に、胸の奥が大きく揺れる。



会いたかった、とか。


声が聞きたかった、とか。


そんなありふれた言葉より。


ただ、もう繋がれないと思っていた相手と、またこうして繋がっていることが嬉しかった。



「本当に電話くれた」


『冗談だと思ってたの?』


ふ、と慶が笑う。


——ああ、この笑い方、慶ちゃんだ。


結衣は、涙が出そうになるのを必死に堪えた。



「何年振り?」


『……5年くらい?』


「嘘!そんなに経つ!?」



話しているうちに、少しずつ感情は落ち着いてきて。


緊張していた空気が、ゆっくり柔らかくなっていく。


話は自然と、地元の話になった。



「ナオ、結婚したんだよ」


『あー、聞いた。ジュンから連絡きた』


慶が笑う。


『松本は、この前二人目生まれたって』


「え!? 早くない?」


『な。“もう家建てた”とか言っててビビった』


結衣が思わず吹き出す。


「なんか、みんなちゃんと大人になってるんだね」


『……怖くね?ついこの間まで秘密基地とか作ってたのに』


「遡りすぎでしょ」


ふふ、と笑い声が重なる。


「そういえば、この前沢田先生に偶然会った」


『え、マジで?』


「全然変わってなかったよ。“鈴原か?”って一発で気付かれて」


『あの先生、卒業してから何年経っても生徒の顔覚えてそう』


「分かる」


結衣が小さく笑う。


「あとね、私がバイトしてたアイスクリーム屋さん」


『うん』


「今、ラーメン屋さんになってる」


『え、潰れたの!?』


「うん」


『ショック……俺まだ1回も食べてないのに』


「もうアイスないよ」


『じゃあ地元帰ったら、そこで働こうかな』


「バカなの?」


思わず笑う。


たったそれだけの会話なのに。


懐かしくて。


楽しくて。


離れていた時間が、少しだけ埋まっていく気がした。



『……結衣、俺さ』


ふいに、慶の声が少しだけ真面目になる。


結衣も、受話器を握る手に力が入った。


『……明後日、オフなんだけど』


「……」



たぶん、同じ気持ちだった。


小さい頃から一緒にいたから、分かってしまう。


声のトーンや、話し方で。


でも。


その一言が、どうしても言えなかった。



『……仕事終わるの、何時?』


「……19時、くらいかな」



短い沈黙。


電話越しに、お互い言葉を探しているのが分かった。



『じゃあ』


慶が、小さく笑う。



『迎え行く』







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