表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑の伯爵と昔日の双子は世界崩壊の幻想(ゆめ)を見る  作者: 瀬那つくてん(加賀谷イコ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/17

第1章 代理と何でも屋【2】

「……依頼は」

 ロスに促され、ニコルは左手を宙に向ける。人差し指と中指のあいだに現れた一葉の写真を、すっと机の上に出して見せた。

「単刀直入に言います。彼の調査を」

「調査?」と、メリフ。「この人が何者か調べればいいってこと?」

「はい。僕たちは彼が何者かわからないんです。そのための調査をお願いします」

 メリフは写真を手に取り、つくづくと眺める。写真の人物に、ふたりは心当たりがないようだ。もう少し情報を提供する必要があるだろう。

「彼の名はシドニー・グレンジャー。次のオーランド家の夜会に参加することになっています」

「ちょっと待って!」

 顔を上げたメリフが声を張るので、ニコルは首を傾げて促した。

「ここはグレンジャー男爵邸の別館でしょ? それなのに調査が必要なの?」

 メリフの疑問はもっともだ。ふたりが通されたのは、グレンジャー男爵家の邸宅の別館。その中の一角にあるシリルの執務室だ。ふたりの怪訝の色が深まったのも頷ける。それでも、ニコルの答えは変わらない。

「はい。調査をお願いします」

 ロスとメリフは顔を見合わせた。ニコルは微笑みを崩さず、絶やさず、ふたりが頷くのを待っている。次に口を開いたのはロスだった。

「シリル・ラトとの関係性は」

「それも調査してください。僕たちには、彼が何者かわからないんです」

 わからないばかりで申し訳ない、とニコルは考えてみたが、実際にそうなのだから仕方がない。わからないことは、どれだけ考えてもわからないのだ。

「グレンジャー男爵邸の別館で暮らしているのにわからないの?」

「はい。シリルは現在、保護という名目のもと幽閉されています」

「どうして?」

「それはお話しできません」

 あくまで笑みを崩さないニコルを、ロスとメリフは探るように見つめている。微笑みの真意を見抜かれたことはいままでにないが、ふたりの気配は鋭い。何かニコルの意図しないことに気付くときがあるかもしれない。

「グレンジャー男爵についても調査をお願いします。あの人は容疑者である可能性があります」

「なんの容疑?」

「それも調査をお願いします」

 調査に調査、さらに調査。普通の探偵だったら投げ出していたかもしれない。彼らがそうすることはないと確信した上で依頼を出している。どれほど期待できるかは判然としないが、裏切るようなことはないのではないかとニコルは考えていた。

「あたしたちが依頼を受けるには条件があるわ」

 メリフが人差し指を立て、語気を強める。ニコルは首を傾げて先を促した。

「あなたたちがあたしたちを裏切らないっていう信用よ。シリルがあたしたちを信用すること。シリルがあたしたちを売らないと確信すること。シリルに疑いの目がかからないようにするのと同時に、あたしたちにも立場ってものがあるわ。そのためには、少しでも多くの情報が必要よ」

 早口に捲し立てられ、耳が置いていかれそうになるのを必死で堪える。音声が届くまで、多少なりとも時差がある。返答を待っているあいだに矢継ぎ早に言葉を投げられると、少々混乱が生じてしまう。

「わかったかしら?」

 溜め息交じりに言うメリフに、ニコルはまた微笑んで見せた。

「なるほど。それは失礼しました」

 メリフはまたひとつ息をつき、ソファに腰を戻す。

「あなたって、なに考えてるかよくわかんないわね」

「何も考えていません」

「それは嘘」

 あながち嘘ではないのだが、とニコルは返答を待ちつつ微笑む。例え頭が混乱しようとも、微笑みを絶やしてはならない。貴族は感情を表に出してはならない。それが命取りになることもある。ニコルはそれをよく知っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ