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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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6/10


 ジェマはヒュプノスの向かいのソファに座る。ヒュプノスは早速と言わんばかりに嬉々として自らの顎を撫でた。



「1つ聞きたい。君は道具に魔力を流してみたことがあるかい?」



 ジェマはふと旅の始まりのころを思い出す。そして、曖昧に、ゆっくりと考えながら頷いた。



「やってみようと思ったわけではないのですが、偶然魔力を流してしまったことはあります」


「ほう? 詳しく」


「黒い塗料を作っていたのですが、魔力が混じったことで雨が降っても色落ちしない塗料になりました」



 ヒュプノスは眉を顰める。



「建物に使われている塗料はみんなそうではないか?」


「いえ、私が作ろうとしたのは人体用の塗料です。基本的には植物由来の品で、水を馴染ませればすぐに落ちることが売りなんです」


「なるほど。芸術家たちがボディペイントに使うようなあれか」


「……多分?」



 互いに常識が欠落している上に、知識の偏りが凄まじい。度々こうして会話が成り立たなくなるものの、話はまた戻っていく。



「それで、その塗料はどうしたんだい?」


「残りは取ってありますが、魔力を流してしまった道具は道具師ギルドから認可が下りるわけがないので、商品としては取り扱うこともできずに悩んでいるところです」



 安全性は確保できても、道具師ギルドが認めなければ商品としては販売できない。道具師の商品に問題があったとクレームが来たときにギルドが介入して対策を講じるために必要なルールだった。



「なるほど。因みに、今もそれを持っているかい?」


「はい、ここに」



 ジェマが【次元袋】からバケツを取り出すと、まだ魔力の緑が液体に浮かんでいた。



「ほう、上手く溶け込んでいるね」


「はい、でもその後も何度か魔力を流す実験をしてみたのですが」



 ジャスパーの目尻がつり上がる。魔力を使った実験はするなと口酸っぱく言っていたからだ。シヴァリーは慌ててジャスパーを宥めるようにそっとジェマの肩の上から回収する。



「ある程度の量の魔力を流さないことにはこうして魔力が素材に定着することは無いようです」


「それはどれくらいの量なんだい?」


「素材によって魔力の透過率が違うので一概には言えませんが、その素材の体積分とそこに馴染ませるだけの魔力は必要になると思います」



 ヒュプノスはジッと考え込む。道具は彼の専門外ではあるものの、魔法が絡むと無視はできない分野でもある。ジェマとそっくりな表情で目を輝かせ、さらに知識を得ようと前のめりになる。



「因みに、魔力を馴染ませた上で魔術や魔法を付与したらどうなると思う?」


「魔術を付与すると、魔術の起動時に必要になる魔力が減ります。ですがその分魔道具の中からも魔力が減ってしまうので、魔力の通りは悪くなりますね。魔石付与魔道具の方が効果的だと思います。魔法の付与に関しては、私は魔法が使えないので分かりません」



 ヒュプノスはジェマの回答に肩を震わせて笑う。ジェマが眉間に皺を寄せて首を傾げると、慌てる様子もなくゆったりと首を横に振った。



「いいや、まさか本当に魔術を組み込んだ実験をしていたとは思わなくてね。だが、その成果は面白いものだ。それから、魔法についてだが」



 ヒュプノスはジェマをジッと見つめる。何を考えているのか分からない笑みが瞳の奥に隠されている。ジェマは警戒しながらも、興味が隠しきれない。



「はは、最高だな、君は」



 ヒュプノスは1人で頷いて、ジェマの手を取った。



「決めた。僕が君に魔法を教えてあげよう」


「でも、魔法は王族しか使うことができないのですよね?」



 ジェマの言葉に、ヒュプノスは目を瞬く。そしてすぐに柔らかに微笑んだ。



「何事にも例外というものがあるんだよ。王子なのに幽閉されている僕のように、ね?」



 悪戯な瞳は、秘密を飲み込んだ。まだ伝えるべきではない。ヒュプノスのその判断にジャスパーとシヴァリーは顔を見合わせる。


 ジェマを利用して王位につくのならば、ジェマが自身が王女であるという事実を知らなければならない。けれどヒュプノスはそうしなかった。


 機を待っているだけかもしれない。ジャスパーとシヴァリーは疑う気持ちを拭い去ることはできなかった。けれどヒュプノスに対してジェマが向ける輝く瞳に何も言えなかった。



「是非お願いします! 1度は魔法を利用した魔道具を作りたいと考えていたのです!」



 素直過ぎる瞳に、ヒュプノスは優しく微笑む。


幽閉されてから、この部屋のドアを叩いたのはシヴァリーとハナナ、そしてドルゲだけ。他の人間との交流は絶っていた。自らが王妃の、母の邪魔だと悟り、王妃が差し向ける暗殺者に何度も命を狙われた。


 持ち得る力の全てで暗殺者たちを退け、眠り王子として名を馳せながらも本人は暗い洋館で1人ぼっちだった。


 そんな世界に唯一あったのが、魔法。闇を操る魔法は、人が言うより優しくて温かくて、役に立つものだった。魔法は面白い。闇属性魔法は、力強い。


 それを知らしめることができたら、いつかは家族の元に帰れるかもしれない。


 少年の心に浮かんだ希望は、いつの間にか打ち砕かれ、消えていった。それでもヒュプノスに残されたのは、魔法だけだった。



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