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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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2/10


 袋の中に入っていた【次元財布】は、扇子の模様が並べられた幾何学模様。そして何より、普通のものとは違い、紐が括りつけられている。中を開いて見れば、硬貨を分けて入れることができるように口が4つに分かれている。



「素晴らしいですね。注文通りです」


「ありがとうございます」



 ジェマは誇らしげに微笑む。ハビエルは扇子で描かれた幾何学模様を嬉しそうに撫でる。その姿にハナナはジトッと兄を見る。



「何故私の紋を使うんだ」


「だって、こっちの方が美しいじゃないか。私の紋はサーペントだよ、サーペント。可愛くないじゃないか」



 拗ねたように言うハビエルは同意を求めるようにシヴァリーを見る。貴族としてはサーペントの方が格好がつくだろうに、なんてシヴァリーは思っても口にはしない。



「美しい編み目だな」



 むしろ、ジェマが編み上げたその扇子柄の美しさを褒める方が最適だと言わんばかりに話をすり替える。



「そうでしょう? まあ、ジェットの糸が美しいからこその艶と編み目の美しさが引き立つんですけどね」



  ジェマは嬉しそうにジェットの頭を撫でる。ジェットは照れた様子でジェマの頬に頭を摺り寄せた。ハビエルは、今まで気が付いていなかったかのようにジェットを見て目を丸くする。



「なんと、アラクネ種の幼体ですか?」


「はい。私の契約魔獣のジェットです」



 紹介されると、ジェットは1本の脚を上げて挨拶する。ハビエルは興味深そうにまじまじとジェットを見つめる。



「なるほど。希少なダークアラクネの糸が流通する理由はこの子なんですね」


「はい。大切な家族です」



 その言葉だけで、全てを察したようにハビエルは微笑む。



「そうですか。では、この子のことはあまり口外しないようにしましょう」



 ふっと微笑んだハビエルは、また【次元財布】に視線を落とす。そして財布に括りつけられた紐を見る。



「この部分もアラクネ種の糸なんですね」


「はい。ですがそれだけではありません。アラクネ種の糸は頑丈ですが、紐として使うには相当量の糸が必要になります。それに1つの素材だとどうしても耐え切れない衝撃もあります。そこで今回は強度を上げるためにオアシスバトイデアの伸縮性のある革を中心に、それをホールアラクネの糸で包むように編み上げた紐を使用しています」


「オ、オアシスバトイデア……え、あの、伝説の魔物の……?」



 ハビエルは驚きのあまり冷静さを保ちきれずに何度も瞬きを繰り返す。ジェマはその様子をどう捉えたのか、自慢げに胸を張る。



「はい、今回の旅で手に入れる機会があったので、使ってみました。凄いでしょう、このしなやかさに滑らかさ。そこに硬さを兼ね備える素材なんて中々ありませんよ」



 やっぱり素材の素晴らしさを褒められたことを喜んでいた。オアシスバトイデアの希少性は理解しているものの、希少だから素晴らしいのではない。素晴らしい特徴を持つから素晴らしいのだ。



「そ、そうですか」



 ハビエルはどうにか落ち着きを取り戻そうと紅茶を手にする。



「かなり強い魔物と聞きますが、騎士たちと倒したのですか?」



 ハビエルの問いにジェマは曖昧に微笑む。その様子に、きっとそうなのだろう、けれど道具師なのだから当然のことを聞いてしまったか、なんて気持ちでハビエルは紅茶を啜る。



「いや、ジェマさんとジャスパーさんとジェットさんだけで討伐していましたよ。20体ほどでしたかね」


「ブホッ」



 ハナナの言葉にハビエルは紅茶を吹き出した。ハナナはしれっとジェマの前にハンカチを広げてジェマには掛からないようにする。



「し、失礼した」



 使用人が慌てて机を拭き、ハビエルもハンカチで口元を拭う。



「その、ジャスパーさんというのは?」


「私の契約精霊です」


「な、なるほど」



 ハビエルは聞けなかった。精霊が強いから討伐できたのか、それとも、なんて。目の前で微笑んでいる小さな少女が抱える底知れない力に、ただ敵に回してはいけないという事実だけが頭に強く印象付けられる。



「と、とにかく、今回の商品はとても素晴らしかったです。私の予想を遥かに超える出来栄えでした」



 ハビエルが手振りすると、使用人がさっと麻袋を持ってくる。



「少なくて申し訳ありませんが、受け取ってください」



 麻袋に入っていたのは、大金貨が3枚。



「こ、こんなにですか!」



 大金貨は1番小さい単位を持つ銅貨の15,000枚分に当たる。まず平民が手にすることはできないものだ。



「ええ、貴女の働きはこれに見合うものですから」



 ハビエルは何でもない様子で微笑む。ハナナはジェマにそっと囁く。



「受け取ってあげてください。兄はそれだけ喜んでいるようですから」


「そ、そうですか」



 ジェマはすごすごと受け取って、【次元袋】に収納する。いくつかの依頼をこなしてやっと手に入れられる額を1度で手にしてしまえば、流石のジェマであっても困惑せざるを得なかった。



「それでは、帰りに庭でも見て行ってください」



 のんびりとした声に促されて、ジェマはハナナの案内付きで庭に向かう。シヴァリーは少し離れてその後をついていくが、ジャスパーは離れてなるものかと言わんばかりにジェマの肩の上を陣取る。


 ジェットはといえば。



「ピピッ!」



 花壇の淵を踊るように軽い足取りで歩いて花の香りを楽しんでいた。



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