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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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17/21


 しばらく川が流れる音を聞き流していたジェマの耳に茂みを踏みしめる音が届いた。そっと顔を上げると、ユウが立っていた。



「ジェマさん、これどうぞ」



 差し出されたのはホクホクと湯気を立てる串焼き。香ばしい匂いがジェマの胃袋をつつくと、きゅう、と小さな悲鳴が上がった。



「ただでさえ討伐で魔力欠乏症になったのに、その後もずっと騎士や冒険者たちの治療を頑張ってくれましたから。私の仲間を助けてくれたお礼です」



 小さく微笑んだユウは隣に腰かけてジェマに串焼きを差し出す。



「少し休んでください。ジェマさん、また倒れちゃいますよ」



 その柔らかな声に、ジェマはこくりと頷いて串焼きにかぶりつく。楽しさと好奇心、責任感だけで突っ走っていたものの、小さな身体が抱えるには大きすぎる負荷に身体はとうに限界だった。



「今、冒険者ギルドではハナナさんが魔力操作をしてセインさんの治療をしています。それにコマスから治療院の先生が来てくれたので火傷の看病の方も回るようになってきました。治療院の先生、ジェマさんが作った【ハニーヒール】のことすっごく褒めてましたよ。新しい顧客ゲットかもしれませんね!」



 ユウのいつもの明るい口調にジェマの頬が少し緩くなる。けれど空腹は感じていても食欲がなくて手が動かない。串焼きの匂いだけがただその場に漂う。



「ハナナさんは、無事ですか? 私が倒れたときも魔力制御をして助けてくれたでしょう? 自分の魔力を使わなくても、魔力が高速で体内を巡ると強い負荷が掛かってしまいます……何もできない私が、こんなことを言ってはいけないのかもしれないですけど」



 ジェマは視線を落とす。串が手から落ちてしまいそうになって、ユウがジェマの手を包み込むように握った。



「ハナナさんも、かなり辛いとは思います。でもジェマさんが助けたいけど助けられない状況にあることは騎士たちもみんな分かっています。ハナナさんが頑張れるのは、ジェマさんに助けられたはずの命を助けられなかった後悔をさせたくないからだと思います。騎士っていう仕事は、そういう後悔を積み重ねていく仕事ですから」



 ユウは曖昧に、苦しみを押し隠して微笑む。ジェマはその表情を見ながら、串焼きを持ち直してちびちび食べ始めた。ユウはホッと息を吐いて、目尻を下げた。



「私たちは、知っていますから。自分の身が危ないところにでも飛び込んでいって、他の人を助けようとしてしまうほど優しい人だって。私が婚約できたのも、ジェマさんのその勇気と優しさのおかげです」



 ユウは右手の薬指に嵌められた指輪をそっと撫でる。ジェマが戦場で助けた騎士アイトの兄チャロとの婚約は、ユウとユウの家を救うことに繋がった。もしもあの時アイトが爆撃で命を落としていたら。チャロはユウを見初める余裕なんてなかったはず。悲惨な現実ばかりが広がることになっていた。


 ジェマの勇気と優しさは、命を救い、縁を結んできた。旅の間、誰が相手でも変わらなかったジェマの姿を騎士たちは誰よりも近くで見てきた。国民の剣であり盾であるはずの騎士が足を竦ませていても、ジェマは飛び込んでいく。道具師らしからぬ姿は、心配になりながらも憧れでもあった。



「任せてしまって、ごめんなさい。ハナナさんにも、謝らないといけませんね」



 串焼きをどうにか半分まで食べ進めたジェマが俯くと、ユウはその頭を撫でて首を横に振った。



「それは、違います。これは助け合いです。それにハナナさんは謝られるより、感謝された方が嬉しいと思います。それか、抱き着いてみるとか、デートに誘ってみるとか……」



 思わずにやつくユウに、ジェマはきょとりと首を傾げた。



「抱き着くのは分かりますけど、デートは恋人とすることでしょう?」


「寧ろ抱き着くのは良いんですね」



 ユウが目を輝かせると、ジェマは大きく頷く。



「はい、私だって、ジェットに抱き着かれたら嬉しいですから。小さい子に抱き着かれると嬉しくなる感覚は分かります。私だって一応成人してますけど、ハナナさんから見たらまだまだ子どもでしょうし」



 満足げに笑うジェマに、ユウはぽかんと口を開いた。そしてすぐにプッと吹き出してお腹を抱えて笑う。ジェマは食べかけの串焼きを持ったまま目を丸くしてその様子を見守る。しばらくして笑いが収まったユウは浮かんだ涙を指先で拭った。



「ごめんなさい。ジェマさんがあんまりにも可愛いものだから」



 ユウはまたジェマの頭を撫でる。ジェマはいつも通りの空気感に安心して、また串焼きを食べ進める。小さな1口で、ゆっくり、ゆっくり。



「ごちそうさまでした」


「はい、お粗末様でした」



 串を受け取ったユウは立ち上がると、ジェマに手を差し出して引き上げた。



「さあ、そろそろ治療も終わったころでしょう。戻ってハナナさんに抱き着いてあげましょうか」


「ふふ、そうですね……あの、ユウさん。ギルドに着くまで、手を繋いでいても良いですか?」


「はい、もちろんです!」



 誰かと手を繋いで歩くなんていつぶりか。ジェマは心も足取りも軽いまま冒険者ギルドへと戻った。



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