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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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13/22


 ひとしきり無事を喜んだ一同の視線は、氷漬けのファイヤーアーサスへと向けられた。ハナナは氷の塊となったファイヤーアーサスに近づくと、ふむと考え込む。



「生命は感じられませんね。これだけ綺麗な氷漬けですから、解剖して構造の解明ができそうですね」


「これに関しては、バイオレット家の研究設備を借りた方が良いかもしれないね」



 ヒュプノスの言葉に、ハナナは頷いて傅く。その様子を横目に、ジャスパーもファイヤーアーサスの周りをふよふよと飛び回る。



「これが結合の縫い目か。ジェマ、見て素材は分かるか?」


「待ってね……えいっ、ほっ」



 ジャスパーが示すところを見ようとぴょんぴょんと飛び跳ねるジェマ。小さく笑ってシヴァリーがその身体を後ろからひょいっと抱き上げて支える。



「これで見えるか?」


「ありがとうございます!」



 抱き上げられたジェマはしげしげと結合部を観察する。



「これは、アラクネ種……ホールアラクネの糸ですね。それからその上からハンターハプテの薄い羽を巻きつけてコーティングしているんだと思います」


「なるほど。それで結合の強度を増していると」


「はい。さらにその上から防火の錬金魔石を使ってファイヤーアーサスの炎に対策をしていると予想しますが、これに関しては解剖をしてみてからになりますかね」



 ジェマが淡々と観察を続ける中、グラスはようやくハッとして身体が動くようになった。グラスの視界に映る面々は、あっさり目の前の異様な光景を受け入れている。1人取り残されたグラスだけが異常であるように感じられる状況ではあるが、もちろんこれが正常な反応。


 グラスはジェマを抱いているシヴァリーではなく、副隊長のハナナの方に歩み寄る。



「ハナナ、この状況を説明してくれないか?」


「かなりの国家機密になります。説明は後ほど、隊長と第2王子を交えて行いたいと思います」


「……分かった」



 グラスは神妙な面持ちで頷いた。国家機密、そんな大層な言葉をあっさり信じるほどに異様な光景を目撃し、さらに第2王子本人が目の前にいる。そもそも第2王子が別荘から出てきているという事実を口にすることすら国家機密を漏らしたとして囚われる可能性があることをグラスは理解していた。流石は人格者と言われ慕われている冒険者ギルドのマスターだ。


 一方地面に下ろしてもらったジェマはシヴァリーを見上げる。お願いごとをしたいときの、ちょっとだけ甘えた目つきにシヴァリーは内容を聞く前からため息を漏らした。



「流石に、この解剖結果を教えることはできないからな?」


「ま、まだ何も言ってないです」


「でも合ってるだろ?」



 シヴァリーの見透かすような目にジェマはぐぬぬと黙り込む。その様子にシヴァリーはくすりと笑う。



「もし万が一、ジェマに聞きたいことがあったら、情報をちょっとだけ見せることはあるかもね?」



 シヴァリーのウインクに、ジェマの目がキラキラと輝いた。そしてまたるんるんしながら観察に戻る。



「シヴァリーさん、これ全部の個体を解剖するんですか?」


「そうだな。研究途中のものもあったという話を聞いたからな。これがそうではないとは限らない。つまりは同じ見た目をしていても、それぞれの個体が全く同じ仕組みをしているとは限らないということだ。それに、この腕たちはあるべき場所に返してやらないとな」



 どこで捕らえられたのか分からない人々。家族がいた者もいただろう。シヴァリーは必ず彼らを家に帰すという使命に燃えていた。シヴァリーはジェマに視線を向けると小さく肩をすくめた。



「私は平民出身だったからな。流行り病や犯罪で家族がいなくなったという話は身近だった。そんなとき、残された家族は遺体が見つからない期待を感じる。けれど次第に思うんだ。遺体だけ、遺品だけでも良いから帰って来て欲しいと」


「分かる気がします」



 ジェマも帰らないスレートを待ち、不安に怯え、その遺体が発見されるまでは生きた心地がしなかった。迷子になっただけ、そんな楽観的な考えは、時間が経つほどにあのスレートが迷子になんてなるわけがないという冷静な思考によって打ち砕かれた。


 安否が知りたい。帰って来て欲しい。どんな姿であっても。無事を願いながら、不安から解放されることを願ってしまう。それは自分自身の心を守るための当たり前の思考の変化。誰にも責めることはできない。



「そっか。そうだったな」



 シヴァリーはジェマの頭を撫でる。その死の真実に近づきつつあるシヴァリーにとって、ジェマの苦しみは我が身のもののように思えていた。その真実が明白になったときにはジェマにも真実を語る。シヴァリーはそう心に決めていた。けれどそれを語ることでジェマがどんな反応をするのか、ジェマとの関係がどうなるのかは不安だった。



「ジェマ。悲しみをそのまま受け止めてはいけないからな」



 ふよふよと飛んできたジャスパーは、シヴァリーの複雑な表情を見て話をすり替える。シヴァリーはホッと息を吐き、ジェマは首を傾げた。



「どういう意味?」


「死者の悲しみを受け止めることは大切だが、自分の心の器から溢れるほど受け止めると心が壊れてしまう。ジェマは死に慣れているわけじゃないんだ。少しずつ、な?」


「うん、分かった」



 どれだけの時を生きて、どれだけの命を見送ってきたのか。それはジャスパーしか知り得ないこと。ジェマはその言葉の重みを心に真っ直ぐ受け止めた。



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