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ある小料理屋の開店の物語  作者: 双鶴


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8/8

エピローグ

 夜明け前の街はまだ眠っていた。だが私の心は静かに高鳴っていた。長い試行錯誤の果てに、ついに小料理屋の暖簾を掲げる日が来たのだ。店の名は「霞舟」。霞の中を漂う舟のように、訪れる人の心を柔らかく包み、静けさの中に余韻を残す場所にしたいと願って名付けた。


 コンセプトは整えた。出汁の香り、盛り付けの色彩美学、酒の温度と器の響き合い、炎の演出――すべてがひとつの流れとなり、店の哲学を形づくった。料理は舌で味わう前に目で楽しみ、酒は温度と器で季節を映し、店内は炎と静けさの調和で客を迎える。霞舟はただの小料理屋ではなく、五感を満たす舞台となる。


 腕も磨いた。祖母の記憶を継ぎ、出汁を重ね、器を選び、酒を注ぎ、炎を操った。試行錯誤の夜を幾度も重ね、失敗を恐れず、香りと色彩を探り続けた。料理はただの食べ物ではなく、記憶と文化を映す芸術に変わった。


 いよいよオープンの日。暖簾を掲げると、風がそっと揺らし、霞舟の文字が夜明けの光に浮かび上がった。木のカウンターは柔らかな灯りに包まれ、酒器は静かに輝き、器は料理を待っていた。藁焼きの香りが漂い、炙りの音が響き、炭火の赤い輝きが店内を照らす。客が暖簾をくぐり、盃を手に取る。酒が注がれ、料理が並ぶ。舌が鳴り、唾液が滲み、心が解きほぐされる。


 霞舟は始まった。静けさの中に余韻を残し、酒と料理が響き合い、客の心を満たす。祖母の声が耳の奥で響く――「料理は目でも舌でも心でも味わうんだよ」。その言葉を胸に、私は盃を傾け、客を迎えた。霞舟はただの店ではなく、記憶と文化を継ぐ舟となり、未来へと漕ぎ出した。


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