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バームクーヘンは幸せの味

本当に持って来ちゃった。


トレイの上には、この素朴なキッチンに似合わない豪華な腕輪。


手にとってみてみると、なんか裏に文字が刻印されてるが、見慣れない文字で読めない。


最後に雪の結晶のマークがついてる。


ちょっとドキッとした。


私が高校生の時に亡くなったお母さんの名前が雪だったので、つい思い出してしまった。


美味しい紅茶の淹れ方もお母さんに教えてもらって、2人で色んな紅茶を試したものだ。

お父さんはお母さんが亡くなってから、海外出張の多い部署に移動し、それから殆ど家にいない。今は長期出張でニューヨークに半年ほど行っている。


だから私はいつもおばあちゃん家に入りびたっていた。時々日本に帰ってくるマリ姉もいつもお土産を山ほど持って来てくれたし。


大学生卒業したら、4月からお世話になる職場の近くで一人暮らしをする事に決まっている。


もう実家も売っちゃえばいいのに。


そんな風にまじまじと腕輪を見ていたら。マリ姉が起きて来た。

時差ボケ直す気ないな。


「歳と共に時差ぼけって酷くなるのよ」


私の心の声を読んだようにマリ姉が答えた。


「何それ、ちょっと見せて」


マリ姉は腕輪を見て言った。


「ユリ、あんたこれどうしたの?」


「友達から預かったんだけど」

アーノルドはもう友達だから嘘ではない。


「そう、どこかで見た事があるんだけど。これ金の腕輪よね。私は宝石には詳しくないけど、多分本物よね。こんなに大きなアメジストとオニキスなんか見た事ない。周りについているダイアモンドもおそらく本物。」


アーノルド。。これ、本当にコンビニごと買えちゃうかも。


今日もマリ姉はコンビニに行くと言うので私もついて行った。


明日は何を持って行ってあげようかな。


お。。私これ好きなんだよね。


手に取ったのはバームクーヘン。


小さい時は一層一層剥がしながら食べて、お母さんに笑われた。


バームクーヘンは年輪みたいになって、幸せが重なるって言うし。アーノルドに幸せになって欲しいから。


次の日。マリ姉はやっと時差ぼけが治ったのか、商品を持ってお客様の所に行くそうだ。夕ご飯も食べてくるそうで私1人だ。


15時になったのでお湯を沸かす。今日は色々実験をしてみたいのでトレイの上はいっぱいだ。


お茶の用意をして、砂時計をスタートさせると私はアーノルドの部屋にいた。


アーノルドは奥の机で本を読んでいたが、私がくると嬉しそうに近づいて来た。


「今日は色々持って来たね、この黒い板は何?」


「それはスマホ、後で一緒に写真撮ろうね」


「写真??」


「一瞬でできる肖像画みたいなものよ、さあお茶が冷める前にバームクーヘンを食べましょう」


「また面白い名前のスイーツを持って来たね。へーー縞々だ。」


「これは1/4の大きさで本当は丸い筒のような物なの。オーブンの中で回しながら焼いて。焼けたら次の生地をかけて焼いてどんどん層にしていくの」


「すごいねそんな手間のかかったお菓子がコンビニで売っているのか。すごい場所だなコンビニは」


やばい、アーノルドの中でコンビニが魔法の国のお店ぐらいになっている。


美しい所作で一口大に切ったバームクーヘンを食べるアーノルド、コンビニのバームクーヘンが高級な物に見える。


さて、今日の紅茶はオレンジペコ。アーノルドはこれも好きみたいだ。


「バームクーヘンクーヘンは幸せが重なるっていう意味のスイーツだよ、これからアーノルドに沢山の幸せが訪れますように」


そう言ったらアーノルドはすごく嬉しそうな顔をして、むっちゃカッコよかった。


「写真撮ろうアーノルド、写真!」


「写真?さっき言っていた瞬間でできる肖像画か?」


説明するより見せた方が早い。急いで2人で写真を撮って見せると、アーノルドがびっくりしている。


「なんであっという間に絵が描けたんだ?」

「絵じゃないけどね、明日までにプリントアウトしておくよ」


「これを貰えるのか?ユリとの写真を?すごく嬉しい」


アーノルドの耳がほんのり赤くなっていた。


さて今日はここからが実験。


砂時計の砂の落ち方が始めはゆっくりなのに、お茶を飲み終わる頃には早くなるのだ。だから体感では30分ぐらいアーノルドの部屋にいるのに実際は3分しかたってない。

なので今日は追加の茶葉と保温ポットにお湯を入れて来た。


砂に落ち方が早くなって来たなと思った時に、手早くお茶を入れ替えた。


そうしたらまた砂時計の砂の落ち方がゆっくりになった。


砂時計を逆さまににしてみたが、すぐに逆さまにする前と同じ量に戻ってしまう。なので砂時計ではなく、紅茶の暖かさがポイントなのだと気がついたのだ。


アーノルドと私で砂時計を凝視していて、砂がゆっくり落ち始めた時、2人で見つめあってニヤっとしてしまった。


「これでもっとゆっくり、話ができるね」


私たちはゆっくりお茶を飲みながら、アーノルドがどうやって暮らしているか教えてもらった。


この部屋は塔の一番上にあって、下の階が寝室とバスルームになっているそうだ。リビングルームだけでも私の家のより大きいが、ずっとこの中にいたら狭いだろう。


この世界の本も見せて貰ったが、やはり文字は読めなかった。


「アーノルド、この前の腕輪だけど、裏に文字と雪の結晶が書かれているだけど、あれはなんて書いてあるの?」


「ユキ。。ユキってなんだい?」


「この世界にはないのかな?寒い日に空から降ってくる白いもの」


「あーーネイジュの事ね、たまーにだけど降るよ。小さい頃に物凄く降った年があって、侍女が雪まみれになってやって来た事があったな。もちろん、この大雪も俺のせいになったけどな」


ちょっと悲しそうにアーノルドは言った。


「その雪って小さな結晶の塊なの。よく見るとこんな形しているんだよ」とアーノルドに腕輪の雪マークを見せる。


ちなみに腕輪はさっき返そうと思ったら。受け取ってくれなかった。


「俺より君の方が似合うよ」


そして私が腕輪をしているのを見るとなんだか嬉しそうにしてる。


「この文字の部分は、叔父が刻印した物だと思うんだが。“いつでも心は温かく”と書いてある、最後のマークの意味がわからなくて、雪って冷たい物だよね。なんで温かいのかな?」


「これって叔父さんの形見だよね。本当に私が持ってていいの?」


「いいんだよ。ユリに持っていて欲しいし、次にコンビニが売りに出てたらすぐに買うんだよ」とウインクして私に言った。


そんな簡単にコンビニって買えるのか?


流石にお茶の飲み過ぎで、お腹がチャプチャプになった所で、ちょうど砂時計の砂が全て落ちる所だった。


「アーノルドまた明日ね」


「また明日、ユリ」










なんだか長くなってしまった。

ちなみに今日は雪が降ってます。アーノルドにも見せてあげたいわ


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