初めてのシュークリーム
「おい、お前は誰だ?魔女か?」
不意に聞こえた声にパチっと目を開けた。
え?誰?
マリ姉はお昼中だし。おばあちゃんはご近所のお友達と温泉旅館に行っていて、大晦日まで帰ってこないし。
最初に見えたのは不機嫌そうな淡い紫の目。ティーセットと同じ色だと思っていたら。
「おい、だから誰なんだよ。ノックもなしに部屋にいきなり現れて」
は?おばあちゃん家にいるあんたこそ不法侵入じゃないと思って回りを見たら。
「ここどこ?」
そこはおばあちゃん家のキッチンではなかった。
やたら豪華な部屋なのに、窓には鉄格子。目の前には不機嫌そうな黒い髪に淡い紫の目を持つ男がテーブルを挟んで向かい側のソファーに座っている。
テーブルには私が用意していたトレイに乗ったティーセット。砂時計はまだ1/3も落ちていない。
不機嫌な男はじっと私を見て
「刺客にしてはヒョロヒョロだし、やっぱり魔女で毒入りの紅茶でも持ってきたのか?」
なんの話をしているのか?
あ、そうか。これは夢だな。マリ姉に釣られて眠くなっちゃったんだ。外国人に普通に日本語通じてるし。
「私はユリ、魔女なんかじゃなくて普通の大学生よ。あなたこそ誰よ」
「大。。学生?そんな爵位聞いたことないぞ。俺はこのリンドン国の第3王子アーノルドだ。」
王子??すごい設定の夢だな。
「なんで、王子が鉄格子のはまった部屋にいるのよ」
「お前、知らないのか?俺が生まれた時に母上が亡くなり、その年に作物の収穫が不作だった事から、黒髪と紫の目を持つ俺が原因だと言われ幽閉されてるんだよ。」
「は?理不尽!」つい叫んでしまった。
「お母様の事は残念だけど、出産にはリスクが付きものだし。不作なんて天候とか他の要因があるでしょ。髪と目の色だけで決めつけるなんてバカじゃないの!」
ぷりぷり怒りながら言う私をアーノルドはきょとんとした顔で見て、大爆笑した。
「お前、それ完全に不敬罪だぞ。ここの外では言うなよ」
笑った顔がカッコ良すぎて、ちょっとドキッとしたが。
「夢だから大丈夫でしょ、それよりお茶飲みたいんだけど」
夢の中でも喉は乾くみたいだ。
「さっきから思ってたんだが、その菓子はなんだ?」
「え?シュークリームの事?食べた事ないの?王子様には庶民すぎるのかな?食べてみる?」
「。。。毒は入ってないよね」
「は?毒なんてどこで手に入れるのよ。要らないなら良いわよ。」と言いながら、シュークリームに手をに伸ばすと。
アーノルドは急いで私の私の手からシュークリームを奪ったが、焦っていたのかカスタードクリームが中からちょっと出てしまった。
「あ、ごめん。。。。。」
恥ずかしそうにアーノルドが言うが、私は手についたカスタードクリームをぺろっと舐めて。
あれ?夢なのに甘い?
王子様の前でお行儀悪かったかな?
「気にしないで、ほら毒は入ってないわよ」
それを見たアーノルドの紫の目はますます大きくなったが、すぐにちょっとへこんだシュークリームにかぶりついた。
「お。。美味しい、手で食べていいんだねこれ」
「美味しいでしょ、コンビニスイーツは侮れないのよ」
「コン。。なんだ?」
「コンビニ、色々な食料品や飲み物、雑貨を売るお店」
「楽しそうだな、こんな美味しいお菓子があるなら、行ってみたいな」
「私の叔母さんも大好きで、毎日のように通ってるわよ、お茶の前にスイーツ食べちゃったわね」
もうちょっと濃いかもしれないと思ったが、砂時計はちょうど終わりかけだった。
「あ、ティーカップが一個しかない。私はいいからアーノルドが飲んだら?」
「ティーカップならあるぞ、母のものでここではお湯が沸かせないから使ってないが、こんな風に1人用のセットなんだ」
アーノルドが出してきた箱には、私と同じようなティーセットで濃い茶色だ。ティーコージーまでついていて、まるでおばあちゃん家みたいな洋館の刺繍がしてある。
アーノルドはいそいそティーカップを出してきたので、私はサッと洗ってから。
「ミルクいる?私は先にミルクをティーカップに入れるのが好きなの」
「ありがとう、俺もミルクティーが好きなんだ」
アーノルドはアールグレイティーも気に入ったみたいだ。
それからお茶を飲みながら、デザートの話をした。アーノルドはコンビニスイーツの話に夢中だ。
「その”プリン“と言うの食べてみたいな」
お茶がもう無くなりそうだったので、私はティーカップをトレイに置いて。
「じゃあ次の夢で。。」と言いかけた瞬間に、アーノルドが消えた。
パチっと目を開けたらおばあちゃん家のキッチンに戻っていた。
トレイには茶色のティーカップが。。
「持ってきちゃった」




