魔女の刺繍とモンブラン
話が長くなりどこかで切って2回に分けたかったのですが、どこで切って良いか決めれずそのままにしました。
やっぱり昨日は寝られなかった。
ドキドキしてたのもあるけど、お父さんが原因だ。
14時間遅れで新年を迎えたお父さんに新年の挨拶と婚約したとメッセージを送ったら、速攻で電話がかかって来た。
「こ、、婚約?相手は誰だ?あのずっと付き合ってた奴か?」
「あの人とは別れた。最近出会った人」
「最近??それで婚約?早すぎないか?お父さんも会ってないのに」
「結婚前提のお付き合いだったから。お父さんは居ないじゃんここに」
プロポーズよりアーノルドのご両親に結婚の報告が先だったけどね。
「帰る、すぐ帰るから、お父さんが会うまで結婚しないでくれ」
放置気味だった割にはこういう時は慌てるんだな。本当にすぐ帰って来そうだ。
アーノルドの事を聞かれたが、まさか異世界とか言えず、ぼかしまくったので。納得しないお父さんからの質問攻めが続き、電話を切った後は数時間しか寝られなかった。
寝不足なので、ぼーーーとしながら紅茶を入れていたら、アーノルドの塔にいた。
「あれ?俺が行くはずだったけど」
「あ、普通にお茶淹れてたら来ちゃった。もう無意識レベルでアーノルドの所に来れるのね」
「俺は予定より早くユリに会えて嬉しいけどね」って抱きしめられた。
ちょっとイチャイチャしてたら、丁度お義母様が朝食も運んできた。ちょっと気まずかったけど、お義母様はすごく嬉しそうだった。
お姉さんとの約束の時間に近くなったので、今度はアーノルドがこちらに来て、待ち合わせのコンビニ前に行く。
アーノルドがお姉さんのおばあちゃんに何かスイーツ買って行こうよって。
「コンビニ経営している家にコンビニスイーツ?」
「お姉さんのおばあちゃんはコンビニで働いてないし、売り上げに貢献できるじゃないか」って言ってるが、きっと新しいスイーツを食べたいだけだな。
お姉さんのおばあちゃん(アンさん)は栗が好きと言うので、モンブランを買うことにした。もちろんアーノルドは私と自分の分も買っていた。お土産の意味。。。
アンさんの家は少し高台にあり、そこからおばあちゃん家もよく見えた。
緊張しながら家に入り客間に通される。
少し待つとお姉さんがアンさんを支えながらやって来た。
私たちは立ち上がってアンさんに挨拶をした。色白で随分はっきりした顔立ち、そして目がよく見ないとわからないが濃い紫に見える。
今わかった。何故お義父様が魔女と言っていたのか。
お姉さんが私達の戸惑いを感じたのか説明してくれた。
「おばあちゃんはこの世代には珍しいしけど、外国人とのミックスなの。おばあちゃんのお母さんはおばあちゃんが小さい頃に亡くなったんだけど、どこかヨーロッパの王国出身らしいの」
アンさんもアーノルドの事を見つめてる。
「お前さんは塔にいた王子かい?」
お姉さんは笑って
「かっこいいし、確かに王子様に見えるわよね。最近すっかりボケちゃったのか、そう言う話ばっかりなの。海外に行ったことないのにね。昔読んだお伽話かしらね?」と言うと、お茶の用意があるからと席を外した。きっと私たちが話しやすい様にしてくれたんだろう。
私たちはアンさんに塔の絵がついたティーコージーの写真を見せた。
アンさんは目を細めて、
「懐かしいねえ、私がこの塔の刺繍をしたんだよ。母に教えてもらってね。母はこの国にやって来て父と会ったんだ。髪は焦茶色で目は濃い紫でとても美しい人だったよ。母は不思議な力を持っていて、うちの勝手口の扉とこの塔の国のお屋敷の扉を繋げていたんだよ。だから私も小さい頃は行ったり来たりしていた」
「扉が他の国と繋がっていた?」
「そう、母が扉に刺繍がついた布をかけたら繋がったんだよ、父には内緒ねと言われたけど。商品の買い出しで家にいない事が多かったから」
アーノルドと私は思わずお互いに手を握りしめた。
「でも、ある日母がもう危ないからと扉にかけていた刺繍を外してしまったんだ。私はその国にいた時に、母に習って黒い髪と紫の目の王子様がいる塔の刺繍をしたんだ。母は恐ろしい塔と言っていたが、私にはとても綺麗に見えてね」
アンさんの歳からして何代か前の王子なんだろうな。
「私が12歳の時に母が亡くなって。そんな事はすっかり忘れていたんだ。私は1人娘でね、婿養子として来てくれた私の夫は、父と一緒に外国へ行く船に乗って、各国で仕入れた物を木下雑貨店で売っていたんだよ。ずっと一緒に商売をしていたが、夫も亡くなって、娘がお店をコンビニエンスストアにしようと言い出して、お店を閉める事にしたんだ。でも家にも色々商品があって、どうせなら全部売ってしまおうと思って全て家の納戸を片付けていたら、母の刺繍と父か夫がどこかで買って来た紫色と茶色ティーセットが出て来たんだよ。どうせなら刺繍をした方が売れるかもしれないと、紫のティーコージーにはあの塔を、茶色のにはこの家から見える洋館を刺繍したんだ。あの洋館は小さい頃に行った国の街並みを思い出させてくれてね」
やっとティーセットが出て来た。
「閉店セールだから値段を安くしたら結構売れたんだけど、あのティーセットだけはなかなか売れなくてね、ここでは売れないんならあの国なら売れるかもしれないと、母がした様に母の刺繍をお店の扉にかけたんだ。そうしたら、あの国にまた繋がったんだよ」
アーノルドと私は顔を見合わせた。その刺繍した布があればリンデン王国に自由に行き来できるのでは?
「しばらくしたら、身なりの良い男の人がお店に入って来てね。こんな所にお店があったか?と不思議がってたが、弟さんのプレゼントを探してると言うので、売れなかったティーセットを勧めたんだ。塔の刺繍を見て随分気に入ってたみたいだし。ついでに売れ残りの茶色のティーセットも押し付けたんだ」
お義父様の美しい思い出はアンさんの押し付け商法に引っかかっただけだった。
「そしたら、金貨なんかで払ってくるから、お釣りはないって言ったら、それでも良いって言うので、母が使っていた砂時計もつけたんだよ、あれは別の国に行っている間に自分のいた国の時間を止める事ができるけど、私にはもう必要なかったからね」
だんだん謎が解けて行く。しかし私達はそこまで自由にふたつの世界を行き来できない。
「私達もそのティーコージーを使って、別の国へ行き来してるんですが、ティーポットのお茶が冷めると戻って来てしまうんです」
アンさんはびっくりしたように言った。
「あれが使えたのかい?私は半分しか母の血が入ってないから、私の刺繍には何も不思議な力がないと思ってたよ。温める事で刺繍の力が出たのかもしれない」と言うと、アンさんは近くの棚にある箱をアーノルドに取るように言った。
箱を開けると中に古い鉄の箱があった。上には何かの文字が書いてある。
アーノルドはそれをじっと見て、
「リンデン王国の文字だから、読めるけど意味がよくわからないな。力よ鎮まれと書いてある。
「それは母の封印箱だよ、刺繍の力が働いて間違って向こうの国に繋がったら大変だろ?」
アーノルドは恐る恐る箱を開けてみた。
中は2つに真ん中で分かれていて、両サイドに刺繍された布が入っていた。ひとつには紋章というのだろうか?騎士と下に旗のような物があり2匹のライオンが描かれている。もうひとつは日本の家紋だ、こちらは葉の上に花が描かれている。
「こっちはあの国の貴族の紋章だよ。使っていた扉にも同じマークがついていた。もう一つは木下家の家紋」
アーノルドが紋章をまじまじと見て。
「これをここで出したら、向こうに国と繋がりますかね?もっと詳しくみてみたいんです」
「大丈夫だと思う。これは母と父と私が暮らしていた、木下雑貨店でしか使えなかったから」
アーノルドはじっくりと刺繍を見ていた。
「おそらくこれはリンデン王国の公爵家の紋章だ。リンデン王国の国章ににてるが、旗のデザインでどの公爵家かわかるはずだ。アンさんのお母様は公爵家出身だったのかもな」
「母は小さい頃からずっと外に出してもらえず、ずっと家で刺繍をしていて、そのうち自分の刺繍に不思議な力がある事に気がつき、この国にきて父と出会ったそうだ」
魔女の特徴が出てて、塔に入れられるのを避けて家にいたのかな?
「もう木下雑貨店はなくなったから、この刺繍ももう使えるかわからないけど、良かったら貰ってくれないかね?お前さんの国の物なんだろう?」
「今、こちらから譲っていただけないかお願いしようと思ってたところです。ありがとうございます」とアーノルドが言ったら。ちょうどそのタイミングでお姉さんがお茶を持って帰ってきた。
「お話は終わった?お茶にしましょう」
みんなでモンブランを食べながら話していたが。アーノルドはモンブランに手をつけてない。
「大丈夫?モンブラン苦手だった?」
「大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていたんだ」
上の空でモンブランを一口食べたアーノルドだったが、目をカッと開いてすごい勢いで食べ終わった。
これも好きなんだな。




