"Charley horse"
ここ魔女の街では、だいたいの事が可能になる
僕は昏い自宅の部屋で、年季の入った木机に背を曲げて向かいながら、金属製の毛抜きで蜘蛛の脚を一本ずつ折っては外す事を繰り返して居た
母の作業机は僕には高さが有り過ぎて、わざわざ高い椅子を用意する必要がある
やってる事がバレたくもないし、母が帰る前に『遊び』を終える必要が有った
一本抜き取っては、蜘蛛が悶えて蠢く様子を観察する
この蜘蛛は実のところ、秘薬で変異させた僕の弟だ
薬の効力が終わった時に弟がどうなるのか、僕にも解らない
それでも僕の中にはずっと『やってみたい』という衝動だけが存在し続けて居て、偶然にも今日、総ての条件が整ってしまったのだった
「気持ち良い………?」
「嬉しい……?」
「痛い……?」
「苦しい…………?」
弟に声を掛けながら、また一本と脚を毟っていく
そのたびに弟は躰を引き攣らせ、果ててしまった様な痙攣を繰り返す
しかし残念な事にその引き攣りも、少しずつ震え方が弱々しくなり始めて居た
「お前さあ……」
「なんとか言えないの……?」
もうほとんど脚の失くなった蜘蛛に、顔を近付ける
叩き潰してやろうかと手を近付けた時、弟は最期の力で僕の指に飛び付き、人差し指の付け根を噛んだ
「あっ………」
それまでの人生で感じた事が無い感覚に、全身が包まれていて居る
躰が視る間に縮んでいく
『たすけて』か『しまった』か……
とにかく何かを言おうとはしたのだが、既にその頃には僕の躰は人間ではなく、蜘蛛のそれに変異してしまって居た
部屋の扉が開き、外界の日差しが昏かった部屋を照らしていく
母が帰宅した様だった
母は机の上の僕と、その隣のもう動かない蜘蛛を視た
『遊び方』を理解したらしく、毛抜きを手にする
「あの子達も、面白い遊びを思い付いたもんだねえ」
母が虫になった僕を指で摘む
僕はたすけて!たすけて!と脚を暴れさせながら弟へと、手を伸ばすように脚を差し出した
弟はぴくりとも動かない
差し出した脚を、冷たく硬い毛抜きが挟み込んだ




