連絡星、
0、
「ははっ何それ」
「えー信じてくれないのー?」
「信じるも何も意味わかんないよ」
「やるんだってばーできるんだってばー信じてってばー」
「いや、「星」を売るって」
1、
よく大人の言う勉強をもっとしておけば良かった。
本当にその通りだと学生の分際で思う。子供の時に夢見たあの人は周りとは違うものを持っていた。
ほとんどの人はその違うものを持っていない。
いや、正確には、みんな何かを持っている。それが他人にとって価値があるものかどうかの差が大きい気がする。
絵が上手い人よりも、走るのが速い人よりも、本を読むのが速い人の方が珍しかったとしても、本を速く読む事に他人は自分に対する価値を見出せない。
当然だろう。自分は他人が本を読むのが速い事から何も得ることができないのだから。
他人から価値のあるものとして自分を見てもらうには、他人に得があるものを持っていないといけない。
だから自分も含め、他人に得のない特技を持つ多くの人々は学力という社会的価値のあるとされるものを身につける必要がある。
今日も僕はあの頃の勉学を疎かにした僕を恨む。
才能なんて微塵もないのに。
幼馴染の夏菜子と最後に会ったのは、彼女が「星」を売ると言った、夕日が一番綺麗だった日。中学生の頃だった。
通学途中の電車内で揺られながら僕はふと思う。
君にもう一度会いたい。
君ともう一度話したい。
夏菜子は中学の頃、僕に何も言わずに転校した。親は知っていたらしかったが、僕も知っていると思っていてあえて言わなかったらしい。
付き合ったりしていたわけではないが、幼馴染だったので言ってくれてもいいのにと、当時は不満を抱えていた。
まだスマホが今ほど普及していない頃だったので、お互いの連絡先は知らない。親同士は知っているかもしれないけど、この歳で幼馴染に電話がしたいと言えるほど素直で可愛い性格な僕ではなかった。
黙って引っ越したのだから彼女の方から連絡が来る事はないだろう。今、何をしているか、どこに引越したのか、なんで引っ越したのかもわからない。
これだけ聞いたらただの他人に思える。
はぁ。自分の変な必死さに本当に笑えてくる。
夜な夜な、君があの時言っていた「星」について考える。
「ふわぁぁ」
「眠そうだね。徹夜?」
「一夜漬けは不味かったかなー・・」
「2日前にやって前日よく寝た方がいい点取れるよ」
「えーーやる気でねーー」
言うと思った。僕もそう思うからだ。
こんな事を言っておきながら「星」を思い出したら勉強の手は止まっていた。仕方ない。
それだけ僕は10年。君にとったらなんて事ないかもしれないけど、10年は僕が君に依存していても不思議じゃない年月だった。急にいなくなったんだから尚更だ。
「ははっ」
人付き合いがそこまで得意でなかったが、愛想笑いだけは得意だった。別に彼のことが嫌いとかそういうんじゃない。ただ、なんとなくそうしただけ。
「なぁ帰り、新しくできたとこ寄ってかね?」
「いいね!行こ行こ」
「お前も来いよー」
そんな、要するに一軍と呼ばれる人達の会話を聞くのが好きだった。
変に物知りで流行に乗ろうと必死な彼らは見ていて、自分があたかも余裕のあるように思えてくるからだ。こんな自分を今更嫌いになる理由もない。
_______
テストの終わりとともに、また一軍様の会話が始まる。テスト終わりの気だるさを吹き飛ばすくらいの優越感がたまらなく欲しかった。
「やっとおわったーー」
「今日は部活パスだな塾あるって言おー」
「やってんなー」
「だってめんどくねーそれに新しい店も見てみたいし」
「それなぁ」
何かに満たされる感覚を感じながら、教室を出た。
1人で。
学校という意味のわからない施設に僕は毎日収容される。
「結局買ってねーのかよー」
「買うわけなくね?なんだよあれ」
「変にキラキラしてたよな」
「え?買ってないの?」
「当たり前だろふざけんな」
「確かにな・・「星」てなんだよ」
え?え?え?あ?え?は?は?え?
「星」この言葉は別に珍しい言葉じゃない。一般的になんの意味も無さないだろう。
僕には違った。ほんの一瞬何か大きな希望がほんの少しだけ見えた気がした。いや、見えた。
なんの確信も無かったが、この収容所に来て本当に良かったと本気で思えた。
僕はすぐさまスマホでここら辺で新しくできた店を調べ、放課後片っ端からあたった。
一軒。だめ。
一軒。だめ。
一軒。だめ。
ラスト二軒目。正直誰かがもう買ってしまったかもしれないと不安になりながらも、そんな事はないと探す。それが僕が探している「星」かもわからないけど。
「なんで?」
「星」を探している時、明らかに僕に向けられた疑問に震えながら振り向く。
誰もいなかった。
だが、そんな事に驚くこともなく、目に映った商品に心が吸い寄せられた。
「「星」・・・」
それは、あまりにも美しく、あまりにも暴力的で、あまりにも現実的。そんな意味のわからない感想が出るほどに綺麗だった。
例えるならそれは、夏の打ち上げ花火をビー玉に閉じ込めた感じ。とにかく綺麗。
ふと我に返る。「なんで?」確かにそう言われた。
それもどことなく夏菜子の声に似ていた。まさか、「星」が喋ったのかとさえ思ったが、依存していた僕はその考えの異常さに気づく事なくガラスケースに入っていたそれを5000円という高校生からしたらまあまあの大金をなんの躊躇いもなく払い、何事もなかったかのように店を見る事なく家に帰った。
もうその店は次の日には無かった。
家に帰るなり、手も洗わずに自分の部屋に駆け込み渡された袋から割れないように丁寧に包装された「星」を取り出す。
「あ、あ、あ、テスト、テストーて、マイクじゃ無いんだから意味ないか・・」
手に取った瞬間にさっき店で聞こえてきたのと同じ声がした。
「星」からだ。「星」から声がした。それから声がすることは特に変だとは思わなかった。この世のものとは思えないほどに綺麗だったからだ。
今度は間違いない。夏菜子の声だ。中学生の頃か、今かはわからないけど。
テスト?マイク?録音のつもりか?この星は録音できるのか?どうやって・・・
2、
「あー、やっぱりもっと勉強しておけばよかったなー。あんたも中学生でしょ?しっかり勉強しなさいよ?」
けっ。
また始まった。お母さんは仕事から帰るとこのお決まりのセリフを吐く。ロボットかよ。
別に嫌いなわけじゃない。
もっと勉強していれば、もっといい生活ができたかもしれない。ただ、そうなればもう死んだお父さん出会うこともなく、私は生まれない。
今の私にとったらもっと勉強してもらわれていたら困るわけだ。
「わかった、わかったー」
こっちもお決まりのセリフで答える。ははっ。
これで今日の親子の会話は終了。
私には幼馴染がいる。恵斗ていう男子。
仲はいいけど何考えてるか正直わかんない。
何事もチャチャイのチャイで終わらせて私のを手伝ってくれる。あれ?これって。
まぁ彼が私にそんな感情はない。これだけはわかるのだ。女の勘てヤツかな?それもわかんないけど。
"友達"としては良い人。とっても良い人。好きな人にするのは何か違う気がする、向こうもか。いつまでもこの距離間のままいたい・・・やっぱりなんでもない。
いっつも本ばっかり読んでる彼は頭も良かった。
皆んなから信頼されていて、学校行事では皆んなを引っ張っていく存在だった。
そんな私はお父さんが死んじゃったからお母さんの実家に住む事になる。引っ越すことが決まった。
いつ言おうかな・・・
あと何回かしか奈津美と遊べない。恵斗とも何回かしか話せない。でも、別にへっちゃら。それにわざわざ言って変に気まずくなりたくない。
「まだー?」
「ちょっと待ってー」
「まーた変なの買おうとしてるの?」
「さぁね」
「ふはぁ?」
奈津美を待たせながら急いで会計を済ませる。あと何回かしか奈津美と遊べない。
少し変わったものを買って部屋に飾るのがイケてると思っていた私は「星」という名前のビー玉?を買った。これは大物。
今までは正直使い方もわからないようなものとか、なんかの部品とか、海外の変な色のソフビを買って周りに批判(何買ってんのよー笑程度)されていたが、これは今までとは違う。そう思わせてくる何かがあった。ま、中学生にとって5000円は高すぎるけど。
こうして色々見て周り、今日の奈津美とのデート(冗談)をして家に帰った。
いつも変なものを買うと恵斗にも見せていた。彼は別に批判もしなければ肯定もしない。ただ、ふーんて感じで終わる。それでも彼に見せる理由はたまに興味ありそうな目をしているのに頑張ってすましているのが何か面白いからだ。今回は特別目をキラキラさせながら我慢しているのを想像すると楽しくなってきた。
そんな事を考えながら箱を開けていく。
「き、聞こえる?おーい」
「きゃあぁぁ!!」
いきなり声が聞こえてきた。あまりにも驚いたので夜中なのに大きな声を出してしまった。
それより何?ビー玉から声?はい?
「あ!ごめんごめん落ち着いて、け、恵斗。わかる?恵斗!」
「恵斗?」
ビー玉からは恵斗?と名乗る大人から話しかけられた。確かに声が低くなったら恵斗もこんな声だと思う。けど、意味がわからない。
「あ、あの・・・」
「喋れる?聞こえてる?」
「しゃ、喋れるし、聞こえてます」
「なんで敬語なの?あ、声が違うのか、」
なんだか寂しそう。
「てかなんで会話できるんです、の?」
寂しそうだったのでタメ語にしてあげた。なんか変な感じになったけど気にしない気にしない。
「夏菜子?だよね。別に怖かったらこの質問には答えなくて良いから。引っ越しについて聞けるかな?この後かな?君が僕に同じ事をするんだ。」
「え?」
「で・・・・」
「あのー」
それから恵斗?が喋る事はなかった。
私が同じ事を?どうやって?
わかんない事を考えても仕方がない。明日お店に聞きに行こう。
次の日、そのお店はすでになく、というか元々無かったような雰囲気だった。
3、
「聞こえますかー?返事してくださーい」
「え?あ、はい」
録音機器かと思ったが返事を求めてきた。会話ができる事に驚いた。
「あ、初めに、この後これで私に話しかけてね。正確には今の私じゃなくて"今"より少し前の私に」
「・・・・」
「あれ?まぁ多分まだ話せるから話すね。引っ越しのことだけど先に謝っておく。ごめんね。なんで言わなかったのか今の私はわからないけど許してあげてね。それで、君の時間の高校生の私は隣の隣、えーと住所はねー×××-××××に住んでるから。知りたかったでしょ?」
「え?それ本当なの?」
「本当だよ。他にはね・・・・」
「あ」
なんとなく察した。まだ話せるからと言っていたから時間でもきたのだろう・・・
さっきの住所、ただ、行きたいと思うよりも強く迷惑になるという考えが出た。
それから僕は昔の彼女と話すためにビー玉?で話す方法を探した。もちろん方法が書かれたものなんて見つからずにすぐに撃沈することになる。
それから1週間は他に何も考えられなくなった。
彼女は僕に話しかけることができた。
もしかして、今の夏菜子もその方法を知っているんじゃないか。そうに決まってる。
会いたい以外の会うための口実ができた。なんの罪悪感も感じなかった。ただただ依存していた僕はそうなってからは会うことしか考えられなかった。
次の週末に「星」を買ってなくなってしまった小遣いを前借りして、電車で行く事にした。
週末になった。猛暑はもう過ぎたが、季節上は秋になっても夏の暑さがまだ少し欲を出していた。
そう。そんな事はどうでも良い。
ただ、会えるということの喜びと緊張、覚えられているかの恐怖を抱え、電車に揺れながら会ってからのことをシチュエーションする。「久しぶり」「久しぶり」「星のことなんだけど」「あーこうしてこうしてこれをこうして・・・」「ありがとう」「うんじゃあね」
え?じゃあね?そういえば家族意外とまともに話す機会が減っていて会話の続け方がわからない。
一気に喜びが消え、緊張で頭がおかしくなりそうだった。
そもそも一人で会話なんてするのも頭がおかしい。
それから緊張で何も考えられないまま4駅が過ぎ、次の駅で降りる。
結局最後の一駅間も何も考えないまま着いてしまった。
「「あっ」」
制服を着た夏菜子にばったり会った。どうやら車両が違うだけで同じ電車に乗っていたようだった。
あれから会っていなかったが、お互い当時と似た髪型だったのでわかった。向こうはどうかわからない。
「恵斗!?ひ、久しぶり元気だった?」
初めに会話を切り出したのは夏菜子だった。自分の情けなさをこれほどまでに痛感した事はない。
「久しぶり、学校だったの?」
こんなこと聞きにきたんじゃない。
「うん。どーしてこんなとこいるの?だいぶ遠いでしょ?家から」
どーする、会いにきました?自分でも流石に引く。どーするどーする・・・
「?大丈夫?」
「え?あ、うん」
困っているのがバレた。くそっ。はぁ。
恥ずかしくなった。
「あの、その・・・」
「ごめんね」
「え?」
「変に泳がせて。えーと・・9月16日・・「星」のことだよね?いいよ。教えてあげる。てか、そうするように言ったんだしね」
「あ、覚えてたんだ」
「うん、けど8月半ばの恵斗に言ったのにどうして今日なの?」
「迷惑かなって・・・ほら・・何も言わずに引っ越したじゃん?だから・・・・」
「・・・・」
今言わなくても良い事をわざわざ言ってしまった。
正直、言われなくても大丈夫だと、わざわざ言う関係じゃないと言い聞かせてきた一方で、言ってもらわなかった事に不満を感じていた自分がいたらしかった。
「あ、あの時は・・・いや、なんでもない「星」の使い方を聞きに来たんだよね。使い方の説明書あるんだー」
「・・・・」
「ほら。おとう・・・なんでもない」
「・・ありがとう」
「・・あ、あのさ!・・・・」
4、
かなり不気味だった。朝早くに奈津美に訊いても、そんな店行ってないの一点張り。わざわざ嘘をつく意味もないから本当のことなんだろう。
それに、電話?のことを恵斗に訊いても何言ってるのの一点張り。それに恵斗は携帯を持っていない。
あぁぁぁ。もーわっけわかんない。
結局、普段物事を深く考えるタイプじゃないし、自分でも抜けてるところがあるのは重々承知だったので周りより自分を疑った。そのまま授業が4つ終わり、給食を食べて、また2つの授業が終わる。
いーや。やっぱりおかしい。
明らかに記憶がある。昨日何をしたか、何を買ったか、誰と何を話したか、全部全部鮮明に覚えている。
それに・・・やっぱり!
「星」がある。これが何よりも証拠になる。これで奈津美の頭がボンバー(パッパラパー)したことが確定した。恵斗?と話した証拠にはならないけど。
どーやったら恵斗の頭もボンバー(バカ)だと言えるのか・・
「星」という言葉をいきなり驚いたらビンゴか?いや、鎌をかけた方が・・・ん〜〜〜。
彼は押しに弱い。めんどくさいし攻めまくって白状させてやる。
でも、本当はこんな事をしてる場合じゃない。明後日には隣の隣?くらいのおばあちゃん家に引っ越す。
もちろん、中学校は転校する。
奈津美には言おう。恵斗は・・・白状したら笑。
「ただいまー」
「おかえりー。あっのっさっ!引っ越しのためにお父さんの部屋片付けてたら夏菜子宛に手紙があったわよ。安心してまだ見てないから」
「あ、うん。わかった」
「あんたも片付けそろそろしなさいよー」
「んーー」
お父さんの手紙を受け取るとすぐに目を通した。なんでだろう?いつもなら恥ずかしくてすぐには見ないだろうな。
・・・・・
え?「星」の使い方?
なんでお父さんが星について知ってんのよ。まだ生きてる?そんなはずないし、生きてても知ってるはずがない。
色々と起こる急展開に頭がボンバー(パンク)しそうになった。
流石に怖かったので読むのは夕飯が終わって落ち着いてからにする。その方がいい。きっといい。
「なんて書いてあったー?」
「まだ読んでない」
「読んであげなさいよ。あんたにとっていいことが書いてあるかもだしね」
「いいこと・・」
_______
「ご馳走様!!」
「はーい」
いつもよりも何倍も早く食べ終わり自分の部屋に駆け込む。
使い方、使い方と。
なになにー手の中に閉じ込めてから思いっきり話したい人の顔といつのその人かを想像する。
何それ、ちょーがつくほどラックショーじゃん。
さっそくためしてみる。
んーー!!
「ジジジ・・・」
んーーー!!!
「ジジジジジジ・・・」
んーーーー!!!!
「ジジジジジジジジジ!!!!」
んんーーーー!!!!!
「・・ジッジジ・・・」
「あ、あ、あ、テスト、テストーて、マイクじゃ無いんだから意味ないか・・・・」
「・・・・」
「聞こえますかー?返事してくださーい」
あまりにも黙っていたから聞いてやった。
「え?あ、はい」
今話してる恵斗は・・私に話しかける前の恵斗か。
いざ話すってなると何を言えばいいかわからない。
「あ、初めに、この後これで私に話しかけてね。正確には今の私じゃなくて"今"より少し前の私に」
危ない。危ない。これを言わなかったら一方的な「星」での会話で終わってしまう。恵斗からも話しかけてもらわないと私は恵斗に話しかけれない。
「・・・・」
まだ黙ってる。雰囲気変わったのかな?
「あれ?まぁ多分まだ話せるから話すね。引っ越しのことだけど先に謝っておく。ごめんね。なんで言わなかったのか今の私はわからないけど許してあげてね。それで、君の時間の高校生の私は隣の隣、えーと住所はねー×××-××××に住んでるから。知りたかったでしょ?」
「え?それ本当なの?」
びっくりしたー。いきなり答えんなよ笑
「本当だよ。他にはね・・」
「ジッジジジ・・・・」
「「星」の使い方なんだけどね・・・あれ?なんか暗くなった。そういえば時間が限られてるんだった」
えぇぇ。どーやって恵斗は「星」の使い方を知ればいいんだよーー。
もう一回。
んーー!
「・・・・」
あれ?もう一回。
んんーーーー!!!
「・・・・」
おかしいな、さっきとやり方は変えてないはずなのに。
手紙に何か書いてあるかもしれない・・・
「「星」は1人一回きりしか使えない・・WOW」
ちゃんと読んでからやれば良かった・・・
大人の恵斗には悪い事をした。
ま、なんとかなるでしょ。そうか、1人一回きりしか使えないから売られてたのか・・てことは私も売らないといけないのか。どこに?あのお店はもう無いのに。
明日。恵斗と会うのは最後になるのか、大人恵斗は大人私に会おうとしてたのかな?住所聞いてたし。
それじゃあ安心だね。会って欲しいな。そうなるために、子供私ができる事は・・・
子供私が子供恵斗に会える最後の日。とにかく夕陽が綺麗。
「ねー恵斗。前の話の続き?なんだけどさ・・・「星」を売ろうと思う」
「ははっ何それ」
「えー信じてくれないのー?」
「信じるも何も意味わかんないよ」
「やるんだってばーできるんだってばー信じてってばー」
「いや、「星」を売るって」
「いいからいいから。じゃあまたね」
言いたい事は言った。このまま「星」について考えながら大人になってくれ。そして大人私と会ってくれ。それが子供私ができる唯一のこと。
引っ越くことは・・知ってるかな?知らなかっても言わないよ。許して欲しい。
引っ越す事を言うのは子供私がしちゃいけない事だと思う。そう思うから、言わないよ。
5。
「あのさ!・・・」
「!?」
「これ、私の連絡先・・・」
「え、」
「言うんでしょ。このあと中学生の私に・・・」
「・・・・」
「これなら今の私と話せるよ」
「え、あ、うん!」
「引っ越しのこと黙っててごめん。けど、言っちゃってたら恵斗は私に会いに来てくれないでしょ?」
「!?てか、別に会いに来たわけじゃ無いし」
「はいはい。わかったから怒んないでよ」
「怒ってませんー」
「「ぷっ・・・」」
「「わはははっ」」
______
交差した時間軸。どっちが先に「星」を使ったんだろうか。お互いがお互いを呼んだんだ、もうどっちが先か分からない。同時だったかもしれない。
あの日から会えなかった僕らはお互いがお互いを呼び、再会した。
後悔は山ほどある。しておけば良かったこと、しなければ良かったこと。でも結局、無かった事にはできない。やった事にもできない。僕らは後悔の中生きている。ネガティブに聞こえるかもしれないけど、これは僕なりのポジティブだ。
僕らの再会は偶然と呼ぶのだろうか、必然だったのか。あの時どちらかが話しかけるのをしなければ・・・いや、今はもうどうでもいい。
きっと、織姫と彦星があの綺麗な星空ではなく、この地球という「星」に住んでいたらこうなっていたんだろうな。
そんな事を、君の横でふと思う。