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私は全てを思い出す

「助けて」


小さな声でつぶやかれたその声は、たしかに私の耳に届いた。

その瞬間、頭の中でバリーーンと何かが割れる音がして…意識が途絶えた。



「あなたみたいな妹がいたことは、私の人生において最大の汚点よ。己の過ちを認め、その命を持って償なさい」


目の前で泣き崩れている、妹のヴィオラに私はハッキリと告げる。

しかしヴィオラは泣き崩れ「違う違う。信じてお姉様」と呟くばかりで自分の非を認めようとはしなかった。

それが私の怒りにさらに非を注ぐとも知らずに。


「証拠は全て揃っています。例え貴方が私と血が繋がっていようとも…私はカラーリア王国の王妃として、貴方を裁く義務があります」


血の繋がりゆえの最期の情けで、ヴィオラへの処罰は姉である私から伝えるよう貴族会議で決まった。

だかそこそ、私にはその役目をまっとうする責任がある。

泣き続けてばかりで話にならないヴィオラに、私が毒杯を飲むよう伝えようとした時。


「待ってください!」


キラキラとしたピンクの髪の毛に、誰が見ても守ってあげたいと言われるであろう可憐な女性が扉を開けて入って来た。


本来なら王妃のいる部屋に突然入るなど、決して許されないことだが…それが許されるのは彼女が第二王子の婚約者であり、聖女という立場にいるからだろう。


「アマリリスさん。突然どうされたのですか?」


私の声も妹にむけていたものと比べ、柔らかくなる。

そしてそんな私の姿にヴィオラの顔が歪んだのが見えた。


「オリビア様。ヴィオラさんを許してあげてください。きっと何か理由があったのです。それに…私が気分を害したのが悪いのです」


目に涙を溜め、そう訴える姿はまさに聖女だった。


後ろから着いてきていた第二王子のアレンも、アマリリスの言葉に感動したのか、彼女を優しく抱きしめ声をかけていた。


「アマリリス。君のその優しさは尊ぶべきものだが、優しすぎる。あの女は君を殺そうとしたんだぞ?僕がこの手で殺してやっても殺したりないくらいなのに」


第二王子のアレンは憎しみのこもった目でヴィオラを見た。

視線で人が殺せるのではないかというくらいの憎しみのこもった瞳に、ヴィオラの体はカタカタと震える。


しかしヴィオラは震えながらも、自分の思いを訴えた。


「違います…私は殺そうともしておりませんし、証拠は全て捏造です。その女は魅了の力を使い、自分の思う通りに人を動かしているのです!信じてください…私は何もしておりません」


この期に及んで、まだ戯言を言い続けるヴィオラに私よりも先にキレたのはアマリリスの婚約者であるレオンだった。


「騎士団長。この女を切り捨てろ!聖女を侮辱し殺そうとした者だ。毒杯で安穏な死など与えてなるものか!早くしろ!」


レオンの言葉に騎士団長が素早く反応し、ヴィオラは切り捨てられた。

その命が事切れる瞬間、ヴィオラは私の方へ手を伸ばし「お姉様」と呟いたが、そんなヴィオラを私は愚かな女だと、悲しみもなく見つめただけで、悲しみは浮かばなかった。

見つめていたのもヴィオラの体が運ばれていくまでの短時間…それが私がヴィオラの姿を見た最期だった。

ヴィオラの首は城壁に掲げられ、その名は希代の悪女として王国中へと広められた。


私は希代の悪女の姉として王妃としての資質を問われそうになったが、アマリリスの「優しい方です」の言葉一つで進退の話は消えて行った。


だから私は気付かなかった。


アマリリスは私を助けたわけではなく、地盤を固めるまでの仮の王妃として私を残しただけだということを。


私の命など、最初から助ける気がなかったということを。


全てに気付いた時には、もう手遅れであり…王妃としてのプライドは踏み躙られ、守ってきた民には石を投げられた。

唯一残された救いは死ぬことのみ。

そんな状況に追い込まれていた。

私は毒杯を賜ることもできず、民の前で打首となり…刑の執行人となったのはヴィオラの時と同じ騎士団長だった。


動かぬよう体も顔も押さえつけられたが…その瞬間、一瞬だったが私はたしかにアマリリスが笑うのを見た。


憎しみで身体中を血が回るが、もうどうにでもきなかった。


(あの子の言葉を信じてあげれば良かった…)


後悔の念が胸を襲う。


ヴィオラの言っていた言葉は正しかった。

私は…私たち姉妹は聖女に負けたのだ。


死ぬ間際….私は最後の気力で神へと願う。


(神様…お願いします。私の命と引き換えに聖女には死ぬほどの苦痛を…来世のヴィオラには幸せを与えてください)


ヴィオラへの後悔と聖女への憎しみが、私の最期の記憶となった。


おそらく誰も見ていなかっただろう。

オリビアの命が尽きる瞬間、星がキラリと光り流れたことを。

人はそれを流れ星と呼ぶ。

星は叶える。



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