056
祝賀会が行なわれて、2日後。
あたしは、どこかの空を飛んでいた。
晴れた昼の空、ルビニオンから少し離れていた。
あたしは、死に怯えることはもうない。
あたしには、呪われた首輪も無い。
あたしは、ようやく本当の自由を得た。
そのあたしの自由を祝福するかのように、昼の晴れた空は穏やかだ。
「なあ、どこに行くんだよ?」
あたしの後ろには、ガルアが一緒に飛んでいた。
「さあ、分からない」
「分からないって……」
「だって、あたしはどうすればいいのか分からないし」
あたしは、ずっと奴隷として生きてきた。
全ては、厄災の風を倒すために努力していた。
知識も、弓も、生きることも。
全てが、テュポーンとの戦いであたしはそれ以外を何一つ知らない。
「分からないって……」
「あたしは、テュポーンを倒した後のことを考えたことが無いから」
「まあ、テュポーンはとんでもなく強いからな」
ガルアの言葉に、あたしは前を向いていた。
「行く場所は無いけど……」
「ならば、俺と新婚旅行か?」
「それは却下で」
あたしは、ガルアの申し出を断った。
だけど、あたしは手には小さな丸い球体を持っていた。
それは、アイの『魔導核』だ。
今はもう動かない、アイの心臓。
あたしにとって、それはアイの唯一の手がかりだ。
「この魔導核があれば、アイは蘇らせることは出来るの?」
「復元は、出来るかもしれない。
それが出来る技術がある場所が、この天空界にたった一つだけ存在する。それは……」
「帝国ウィンダリア」
あたし達の真上、遥か空の上に高い雲が見えた。
ウィンダリアの雲が、視認できない場所に存在していた。
「ウィンダリアに行くには、いろいろ揃えないといけない」
「そうね、分かっている」
「ったく、しょうがねえな」
「あなたも来るの?」
あたしは、目の前のガルアに問いかけた。
ガルアはあたしの顔を、じっと見ながらはっきりと言っていた。
「アイを蘇らせたいのは、俺も同じだ。
一緒に行こう、俺たちのアイを蘇らせに」
「ガルア、ありがと」
あたしは、初めて彼に感謝の言葉を伝えた。
ガルアは、あたしの言葉に照れた顔を見せていた。
そんなガルアを見ながら、あたしも照れていた。
「ちょ、ちょっと。なんで照れるのよ?」
「いや、レステが急に……」
「感謝を伝えただけよ。それより、最初にゾンタに行くから」
「なんで、ゾンタ?」
「アンタの父……ジャックさんに聞かないとね」
あたしは、再び旅を続けることを決めた。
それは、あたしの大事な相棒を蘇らせる旅へ。




