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あたしの黒い矢は、静かに放たれた。
壁に飛び移った瞬間を狙って、あたしは撃っていた、
放たれた矢が、そのままテュポーンの黄色い腹に命中した。
苦しんでいるテュポーンに、黒い渦が体を包み込んだ。
魔力の消耗により、正体が露わになったテュポーンならば封魔の矢も通じた。
それでも、黒い渦を打ち破ろうともがくテュポーン。
あたしは構うこと無く、二発目に『封魔の矢』を用意した。
そのまま、苦しみから逃げ出そうとするテュポーンの頭を狙って矢を放つ。
動かなくなったテュポーンに、トドメの一撃が刺さっていた。
「やったか……」
ガルアも、レッカも、起き上がったパノムの中心にテュポーンがいた。
黒い渦が、二重になって巨大なイナゴの体を縛っていく。
そのまま巨大なイナゴの体を縛る黒い渦が、イナゴの体に密着していく。
そして、イナゴの体がバラバラに砕けていった。
「倒れた……厄災の風が」
「凄いよ、君がやったんだね!」
パノムが、頭を抑えつつもあたしを見ていた。
レッカも、腕を組みながら深いため息をついていた。
「いや、あたし一人じゃ出来なかった。
ガルアや、レッカ、パノムのおかげだよ」
「パノムは、単に操られていただけでしょ」
「うん、ごめん」素直に謝るパノム。
レッカは、消えていったテュポーンのいた場所をじっと見ていた。
同時に、あたしの首元には違和感が消えていた。
「首輪が無くなっているぞ、レステ」
「あ、本当だ」
ガルアに言われて、あたしは右手で首を触るとあるはずの首輪が無かった。
よく見ると、足元には欠けていた金属の首輪が壊れて落ちていた。
「本当に倒したのね、厄災の風を」
「ああ、そうだな。これで自由だ」
「ようやく、自由が……手に入った」
テュポーンが、死んだ。
呪いも解けて、あたしは風狩人の役目をとうとう終えた。
ようやくあたしは、自由が手に入った。
手に入った自由だけど……あたしは、多くのモノを失った。
その中で一番大事なモノ、目に入ったのは魂の抜けたエッグゴーレム。
そばに近づいて動かないエッグゴーレムに、寄り添った。
涙を流しながらあたしは、動かないエッグゴーレムを抱きしめた。
「ありがとう、アイ……」
あたしは、アイCP2と呼ばれたエッグゴーレムに感謝をしていた。




