053
テュポーンの姿は、透明で独特だ。
チュラッタから聞かされた通り、テュポーンは巨大なイナゴの姿をしていた。
大きくなったイナゴの姿は、かなり気持ち悪い。
そんなテュポーンが、パノムの背中からはっきりと出てきた。
だけど、レッカは冷静だ。
「また、ヤツは生きているぞ!」
レッカは、羽根を抜くのをやめて腰にある剣に手を伸ばした。
口で、水色の小瓶から酒を含む。
酒を飲んだレッカは、剣に息を吹きかけた。
吹きかけられた細長いレイピアは、そのまま飛び上がった。
「分かっている」
レッカも素早く反応して、壁にしがみつくテュポーンに動き出した。
レッカの反対側には、既にガルアも走り出していた。
(二人とも、動きが速い。
まるであたしと同じ……未来から見てきたかのように)
レッカに反応して、テュポーンが動き出す。
前足でスライムを召喚……しようと捏ねていた。
だけどレッカの氷の剣で、テュポーンを後ろに追いやった。
それでも、前の二本の手を擦るとスライムが出てきた。
だがそのスライムは召喚された瞬間に、吹き飛ばされた。
投げつける前に、ガルアが既に風の拳を放っていた。
竜巻のような強い突風が、スライムを吹き飛ばした。
テュポーンに対して、迅速な反応を見せた二人。
奥で洗脳されたパノムは、一人で立ち上がっていた。
「早いっ!」
「流石は厄災の風」
ガルアとレッカは、既にテュポーンを追い詰めていた。
だけど動きの素早いテュポーンは、間合いが詰めるレッカから離れていく。
壁を伝い、レッカから距離を取っていく。
距離を取って、スライムを召喚しようと試みた。
それでも、ガルアは右腕を突き出した。
強い突風で、テュポーンの動きを封じようとした。
テュポーンは、突風の動きをかわしていく。
だが、スライムの召喚は阻止していた。
「レステ、それよりテュポーンはもう倒せるよな?」
拳を繰り出したガルアが、背中五指に声をかけた。
「ええ、姿が完全に現れている!」
「だったらすぐに、『封魔の矢』を用意しろ。テュポーンの動きは……速いぞ!」
ガルアの言うとおり、前足で体勢を整えた。
そのまま、二本ある後ろ足四本で壁にしがみつく。
テュポーンが見据えているのが、当然あたしの背後の風壺。
姿も巨大なイナゴで、黄色い姿がはっきり見えていた。
「うん」あたしは迷わず、闇のランタンを取り出した。
そのまま、黒い矢を準備していく。
だけど、あたしの背後にはいるはずの一つの存在が無かった。
それはあたしと一緒に、スライムと戦っていた黄色いタマゴゴーレム……アイがいなかった。
それでも、あたしは前を向く。
(今は、あたしが出来る事に集中するだけ)
黒い矢を装填し、あたしは狙いを定めた。
ガルアとレッカが戦う中、あたしは動き回るテュポーンをじっと目で追いかけた。
そして、あたしは再びそのときを待った。
あたしの矢の射程に、テュポーンが飛び込んでくるのを。
そして、見えた。テュポーンの姿を、あたしは視界からはっきりと捉えた。




