005
雲の壁を、魔法で変化させる魔法が存在していた。
白い雲の壁で作られた家の周りには、金属の壁も見えた。
二階建ての建物で、白の雲と金属の壁が交わった建物。
オウラリに招かれたあたしは、白い雲で出来た家のリビングにいた。
オウラリと妻らしき女性と、あたしはテーブルを囲んでいた。
テーブルの上には、おもてなしの料理が並ぶ。
ハルピュイアの主食は肉で、並ぶ料理も肉が多い。
「エルコンドニアの産地で、『エルコンドニア豚』のポークソテーにございます」
「ふむ」ハルピュイアは、家畜を飼っていた。
異界のテクノロジーが、もたらした動物『豚』という生き物。
それを飼育し、食事する習慣がハルピュイアにはあった。
料理の技術も、古代の技術の賜物でハルピュイアは割とグルメな種族だ。
口に含んだ豚肉は、少し甘めの味がした。
「ささ、麦酒もどうぞ!」
酒を勧めるオウラリに、あたしは自然と手を伸ばした。
麦を育てる畑も、異界のテクノロジーからもたらされたモノ。
古代からもたらされた様々な遺産は、ハルピュイアの生活を豊かにしていた。
「しかし、ゴーレムを連れて旅をしていたとは」
「アイは相棒だ」
「あのエッグゴーレムは、戦闘用ですかな?」
「ええ」あたしは、酒を口にしながら答えた。
「戦闘用ゴーレムは、帝国が厳しく取り締まっておりますが?」
「このゴーレムを作ったのは、その帝国の領主様だ」
「ほう、興味深いですな」
オラウリは肘をテーブルにつけて、手を組んであたしを見ていた。
あたしは、冷めた目でオウラリという長を見ていた。
「エルコンドニアのゴーレムは、生産性ゴーレムしかおりませぬ故。
是非とも、興味がありまして」
「動力源は同じだし、他のエッグゴーレムと何一つ変わらない」
ハルピュイアは、ゴーレムと共に存在していた。
ゴーレム自体、豚と同じように異界のテクノロジーとしてもたらされた遺産だ。
ゴーレムは、ハルピュイアよりも圧倒的に力が強い。
それ故に、建築や運搬といった仕事を補助する事が多いのだ。
「でも、あのゴーレムは魔力が少し不安定な気がしますが……」
「大丈夫です」
「そのわりには、ボディフレームの方がかなり破損しておりますな。
かなりの激闘をくぐり抜けて、ボロボロに見受けられたのですが」
「問題ありません」あたしは、淡々と言い返した。
オウラリも又、酒を飲みながら明るいテンションで話してきた。
「それにしても、かつての厄災『暴風竜ユラクイロ』。
あれほどではありませんが、かなり危険な厄獣が出てくるとは」
「ヒポクリフは、かつてこの町に現れたベート。
昔倒されたヒポクリフが、ただ蘇っただけ」
「詳しいですな。流石はシャスール様です」
オウラリは、あたしに相槌を打っていた。
あたしは、豚肉料理を食べ終えてオウラリをじっと見ていた。
「一つ聞きたい」
「何でしょう」
「エルコンドニアは、帝国に忠誠を誓っているのか?」
「無論です」
オウラリは、すぐさま反応した。
「ハルピュイアをまとめ上げる帝国、『ウィンダリア』。
この空の遥か上空の雲、帝国がこの国を治めている。
皇帝カーニアは、全てのハルピュイアが敬意を示す神のような存在」
「でも今回のヒポクリフ騒動に、帝国軍は助けてくれない」
「その必要が、一切無いからです。
帝国が動くのは、天空界の未曾有の危機のみ。
まだ、ヒポクリフのような小物では帝国は動きませぬ。
それでも、帝国軍は存在するだけで価値がある」
「そう」あたしは素っ気ない返事で、オウラリの熱弁を聞いていた。
「あなたは、そう思わないのですか」
「思わない。
あたし達黄翼は、帝国の身分制度によって謂われようのない差別を受けてきたのだから」
「それはまた……あなたは恨んでいると」
「ええ」あたしは、短く肯定した。
あたしの言葉を聞いて、目が光ったオウラリ。
不敵な笑みを浮かべて、あたしをじっと見ていた。
「それは、困りましたな」
オウラリのその声を聞いた瞬間、あたしの瞼が急に重くなった。
激しい睡魔に誘われたあたしは、耐えようとしたが……すぐに眠りが襲ってきた。
「やっぱり帝国は、クソだ……」
「ハルピュイアは、帝国あっての存在。
帝国に忠誠を尽くさないハルピュイアは、ゴミですよ。無論、黄翼のあなたも……汚い翼だな」
オウラリの声が……もう聞こえない。
あたしの視界が、完全に暗闇に閉ざされた。
そのまま、あたしはテーブルにもたれかかるように眠っていた。
オウラリは、眠ったあたしに近づいてそのままあたしを椅子から蹴り落とした。
豹変したオウラリは、悪い顔であたしの頭に足を乗せていた。
「全く、知性の無い黄翼は帝国の忠義がなっていない」
吐き捨てるように、邪悪な顔で言い放つ。
あたしはそれでも、起きることは無かった。
そんなオウラリは、奥にいた一人の青年ハルピュイアを呼びつけた。
革鎧を着て、背中に槍を背負ったハルピュイア。見た目が、兵士のハルピュイア。
「おい、あの汚らしいエッグゴーレムを破壊しろ。
黄翼女の連れだが、わしの町でゴーレムに暴れられては困る」
「はっ!」兵士のハルピュイアが、返事をしてすぐさま飛び上がった。
リビングの天井が開くと、そのままハルピュイアは勢いよく出て行く。
同時に床に眠るあたしを見たオウラリのそばには、妻らしき女性。
少し太った紫カールの女性は、茶色のドレスを着て眠るあたしを見ていた。
「黄翼のゴミを、どうするの?」
「なに、厄災はきっちり払わないといけないからな。コイツを使って……」
オウラリと、妻が眠るあたしを見ながら何やら会話を続けていた。




