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ハルピュイアの厄払い  作者: 葉月 優奈
四話:temps retrograde poupee
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――一年前・チュラッタの屋敷――

天空界の北雲の中に……『イルファー』と言われる大きな町が存在した。

この雲の果てには、四大巨塔の一つ『風歓喜の塔』が存在する雲。

なにより、あたしが奴隷として買われた都市の名前だ。


天空界、ハルピュイアの価値は翼の色だ。

生まれながらにして、ハルピュイアは平等ではない。

白い翼は偉い、黒い翼は呪われているので必ず殺す。

他の色の翼にも意味が存在し、生まれながらにして平等ではない。


黄色い翼のあたしは、両親に捨てられた。

両親はあたしと違って、黄色では無かったのだろう。

今となっては、それを確かめる術はない。


物心ついた頃から、奴隷だったあたしはイルファーの貴族『チュラッタ』に買われた。

チュラッタが買った奴隷は、あたし一人ではない。

他にも15名の黄翼族の子供のハルピュイアを、奴隷として買いつけていた。

下は3歳から、上は15歳。あたしは推定6歳からチュラッタに買われたと聞かされていた。

推定というのは、あたしは本当の年齢も知らない。


狭い部屋に15人が押し込められた生活で、あたしもその中の1人だった。

だが、チュラッタの奴隷生活は他とは違う。

未成年をこき使って、労働させるという類いではなかった。

教育もさせるし、食事も奴隷にしてはまともに与えられていた。

ただ一つ、常軌を逸した『最終選別』さえなければ。


「これより、最終選別を行なう」

チュラッタの奴隷生活の最後、それは最終選別だ。


簡単なルールは、ただ一つ。

広い闘技場に集められた15人。

闘技場の天井には、ガラスが張られていて逃げ出すことは出来ない。

入口も、出口も、完全に封鎖された密閉された闘技場。


剣、槍、砲丸、ハンマー、鉄球、爪……そして弓矢。

七つの武器が置かれた闘技場の真ん中で、最後まで生き残ったヤツが優勝。


他の14人を殺して……たった1人だけが勝ち残るデスゲームだ。

無論、奴隷全員に逆らうことは出来ない。

闘技場からも脱出することも、出来ない。

それに、チュラッタが『最終選別』前にある呪いをかけていた。


それは、闘技場に入って六時間後に生命力を奪い死に至らしめる呪い。

解除をするには、勝ち残ってチュラッタに呪いを解いてもらわないといけない。

だが、チュラッタがいる場所は闘技場の上にある巨大なガラス天井の上で座っていた。


そして、最終選別は最終局面を迎えていた。

闘技場には、13の屍が転がっていた。

チュラッタの思惑通り、あたしたちは殺し合った。

武器を奪い合って、生き残る事だけを考えた。


あたしが生き残れたのは、もう一人……一緒に組んでいた相棒がいた。

「シェルギ……」

あたしの目の前には、槍を持った女のハルピュイア。


あたしと同じ、黄色い翼。

あたしと同じ年の、幼い少女のハルピュイア。

あたしと同じ、奴隷だったシェルギ。

あたしと同じ、ボロボロの服を着させられていたシェルギは槍を構えていた。

なにより、あたしとシェルギはとても仲が良かった。


闘技場に入って、あたし達は既に六時間が経過していた。

くたびれた顔で、シェルギと手を組んで、周りの奴隷を倒していた。

生き残るために、親友であるシェルギと手を組んだのは間違いではない。


だが、6時間が経過して……体力の疲労を迎えていた。

弓を手にしたあたしは、シェルギをじっと見ていた。


「最後の2人に、なっちゃったね」

「そうだね、シェルギ」

あたしとシェルギは、ボロボロ。

短い紫色の髪で、ボサボサのシェルギ。

お互いに戦い続きで満身創痍で、疲れ果てていた。


「この勝負に勝った方が、チュラッタに認められて……」

「厄災を払う……テュポーンを倒す旅に出る」

「そう。勝っても、まだ自由になることはない」

奴隷になってから、あたし達はチュラッタの屋敷を出ることは許されない。

生活は不自由なかったし、勉強もさせてくれた。


天井の分厚いガラスの上……『北雲の大魔術師』と言われたチュラッタが、あたし達の戦いをじっと見ていた。

初老の女性であるチュラッタは、黒いスーツを着ていた。


チュラッタは、元々風狩人(シャスール)だ。

風獣と戦う一族だけど、その身代わりをあたし達奴隷にさせていた。


「ねえ、レステ」

「何よ」弓を持ったあたしは、距離を少し離れていく。


「あなたと、戦いたくなかった」半泣きのシェルギ

「あたしもよ」あたしも自然と、涙があふれていた。

「でもね、死にたくもない」

お互いの感情は、恐怖と哀れみ。

これから、あたしたちはどちらかしか生き残れない。

つまりは1人が、1人の命を奪うということ。


あたしは、目の前のシェルギを見ていた。

奴隷の中で一番仲が良く、同じ年の少女。

他の奴隷よりも、彼女と戦う時だけは特別だ。


「分かっている。どちらが勝っても……」

「恨まない、それが約束!」

選別の時、あたしとシェルギは言葉を交わした。

どちらが生き残っても、恨まないで笑顔で別れること。

それが、生き残った勝者に対するせめてもの手向け。


「じゃあ、始めるよ」

屈んだシェルギ。

あたしも、シェルギを見ながら矢を抜いた。

飛び込むシェルギに、あたしは矢を放つ。

放たれた矢は……動いていたシェルギを掠めた。


「もらった!」

シェルギは、あたしに槍先を突き刺す。

だが、あたしは後ろに下がって槍を回避。

回避しながら次の矢を装填した。装填してすぐさま弓を構えた。


「ごめん」あたしは、謝罪と同時に矢を放った。

二発目の矢は、シェルギの胸をしっかりと命中。

真っ赤な血を吐き、ボロボロの服も赤い血で濡れていた。


そのまま、シェルギは槍を手放した。

「ありがとう」

最後は安らかな笑顔を見せながら……シェルギは目の前で倒れていた。

「シェルギッ!」


弓を投げ捨てたあたしは、叫んだ。

倒れた奴隷の少女、シェルギに向かって。


「それでいい、それでいい。お前が最後に生き残ったのだ」

ガラスの上から、チュラッタがあたしに声をかけた。

その瞬間、怒りと憎しみの目でチュラッタを見上げたあたし。

涙が止まらないあたしは、意識が朦朧としていた。



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