045
風泣きの塔の最下層は、熱気と冷気で温度が上がったり下がったり安定しない。
パノムの炎の壁と、レッカの氷の羽根。
二つの空気が交わり、部屋の気温を不安定にさせていた。
あたしは、弓を構えて炎の壁を切れる一瞬を待った。
それでも、パノムの炎の壁は簡単に打ち破れない。
「一体、どれぐらい羽根を使わせる気なの!」
レッカもまた、羽根を消費していた。
愚痴るレッカに、炎の壁は立ち塞がっていた。
氷の羽根を、いくつも投げつけて……炎の壁を一瞬だけ弱めた。
それでも、次々と炎の羽根を使って壁を増強していく。
パノムを操るテュポーンは冷静に、痛みも感じずに……翼から羽根を取っていく。
再び羽根を取って、痛みを感じたレッカ。
ハルピュイアにとって、羽根は精神力だ。
羽根を失えば失うほど、精神力を失い……苦しくなっていく。
汗が噴き出したレッカは、かなりの羽根を消耗していた。
それでも、レッカ以上に羽根を消費するパノムの炎の壁を打ち破れない。
「硬すぎなのよ……」
「ならば、俺と複合でやってみるか?」
ガルアが、疲れた顔のレッカに声をかけた。
それでも、レッカは羽根に息を吹きかけた。
「大体、これからどうするのよ?」
「俺の拳に合わせろ……後は俺が何とかする」
「格好いいこと、言ってくれるじゃない」
「なにせ俺は、本当に格好いいからな」
「うわ、それ自分で言う?」
レッカが氷の羽根を持ったまま、隣にいたガルアに声をかけた。
「よくわかんないけど、ガルア。アンタのその拳に、託していいの?」
「おう」ガルアが、右腕をぐるぐると回し始めた。
ガルアの目の前にも、立ち塞がる天井まで伸びた炎の壁。
「俺の風拳を撃って」
放った、ガルアの渾身の一撃。
大きな風が、渦になって炎の壁に向かって飛んでいく。
それでも、巨大な炎の壁はガルアの風のうねりよりもずっと大きい。
そこへ、レッカが三本の氷の羽根を飛ばした。
巨大な風のうねりが、氷を帯びていた。
氷の嵐のような突風が、炎の壁に命中した。
命中したとき、炎の空洞が一瞬見えて……それでも氷の嵐が徐々に弱まっていく。
再び、パノムが炎の羽根を使い、壁を増強しようとした。
その姿が、あたしにははっきり見えた。
「この一矢で……」
あたしはしっかりと、パノムの顔……頭の触覚を睨む。
そのまま銀の矢を構えて……放った。
放った銀の矢は、パノムの頭に生えていた右の触手に命中した。
「ぐおおおっ!」
あたしの放った銀の矢が、触手を貫いてそのまま折れた。
触手が折れたパノムは、苦しんだ様子でその場にしゃがんでしまう。
黒いオーラを放ちながら、パノムの背中には黄色いイナゴの背中が見えていた。




