004
――エルコンドニア・町中――
空の世界には、朝も夜も存在していた。
現在は夕方で、日は沈んでいく。
そんな雲の町に、あたしは一人の老人ハルピュイアに招かれていた。
「いや、助かりましたよ」
老人の翼も白い。
周りにいる白翼の兵士達も、老人に敬礼していた。
どうやらこの老人、エルコンドニアではかなり偉い人物のようだ。
その素性を、あたしは次の一言で知る事になった。
「このエルコンドニアを守っていただきまして、ありがとうございます。
町の長として、感謝いたします。旅の方。
それとわしの名前ですが、オウラリと申します」
「はい」腰が低い、オウラリという長。
あたしは、無表情で長である人物を見ていた。
それでも、あたしは周囲の町のハルピュイアの視線を気にしていた。
町の人は、ほとんどが白い翼だ。
町の人が、あたしに対して悪い噂をしているのが聞こえてきた。
だけど、あたしは堂々と長の男と一緒に町中を低空飛行で飛んでいた。
あたしの隣には、アイはいない。
「エッグゴーレムですが、外に待機させていいのですか?」
「ええ、問題ありません。待ち人も、いますので」
「そうですか。あなたは風狩人なのですよね」
「あたしの仕事は、災いの風獣を封じるのが役目」
淡々と語りつつも、長は笑顔であたしを先導していた。
「ですが、どうして黄色の翼であるのに戦っているのですか?」
「あたしが、生きるため」
「生きるため?確かに厄災は多くのハルピュイアの命を奪いますから。
でも、それが黄色の翼とは……ああいえ、大変失礼しました」
「いいの」あたしは、素っ気なく言い返した。
オウラリは苦笑いをしていた。
あたしは、それでも前を向いていた。
「黄色の翼は、差別される。
階級が低いから、奴隷のように扱われる。
でも、あなたは意志を持って戦っている。そうでは、ありませんかな?」
「そうね」
翼の色で、ハルピュイアの社会は差別が存在した。
生まれながらにして、ほとんどが白翼で生まれるのが当たり前だ。
だが特殊な遺伝子や、特殊な変異で白以外の色の翼が生まれてしまうことがあった。
黄色の翼であるあたしも、その一人。
異物である黄色の翼は、ハルピュイアの社会で差別の対象だ。
町の人の対応を見るだけで、充分に理解していた。
オウラリと一緒に飛ぶ先には、白い雲の壁で作られた住居を見つけた。
魔法で雲を固めていたこの雲の家は、エルコンドニアでも一番大きな家が見えた。
「ささ、それよりも是非とも町を救ってくれたあなたをおもてなししたい。
どうぞ、我が家へ」
オウラリが丁寧に、あたしに向かってお辞儀をしていた。
家の前にいた使用人らしきハルピュイアは、あたしの顔……より翼を見てやはり眉をひそめていた。




