037
――風泣きの塔・最上階――
天空界には、四大巨塔が存在していた。
世界の果てに存在する塔は、不思議な建物だ。
レンガでも、木製でもない塔。
黒い壁は、鉄……よりもさらに違った壁。
なぜか光っている不思議な塔は、異界のテクノロジーで出来たとされていた。
そして、この周囲には風が下に吹き下ろしていた。
塔に近づくと、体が一気に重くなって……塔の屋上へと騎士団が降りていく。
この塔は、不思議な塔。何よりも、翼が使えない塔だと言われていた。
あたしは、かつて『風歓喜の塔』と言う場所に行ったことがあった。
アイと出会う少し前だ。そこで感じた『空が飛べない』感覚。
これも、異界のテクノロジーだとチュラッタが言っていた。
30階建ての屋上に到着したあたし達は、1階を目指す。
塔の屋上では、兵士達の簡易テントが見えた。
テントから出てきたのは、水色コートの男ハルピュイア。
レッカよりもずっと年上で、大人のハルピュイアの兵士。
「レッカ様、パノム様。援軍ご苦労様です」
「して、戦況はどうだ?」
「はっ、現状はスライムが28階まで現れております。
このままでは、屋上まで迫るのも時間の問題かと」
「大丈夫だ、心強い助っ人がきた」
パノムが言うと、ガルアとあたし……それからアイが見えた。
「彼らは?」
「僕らと同じ風狩人だ。腕は確かだよ。それと……」
「あの子は黄色翼だし、エッグゴーレムもいるけど、任務が終了するまで暴言は許さないから」
レッカがあたしとアイの事を、はっきりと告げていた。
兵士の男は、畏まった様子で敬礼した。
「分かりました、レッカ様。部下にも、周知しておきます」
「うむ、今戦うべきはスライムだ。そういえば、パノムの先発隊は?」
「それがですね。20階まで戻れたのですが、大物のスライムに道を防がれて」
「先方の部隊は、孤立したというのか」
パノムが、神妙な顔で報告を受けていた。
兵士の報告を受けている中、ガルアが屋上から下り階段を見ていた。
「何か、気配がするな」
「そうね、嫌な気配」
あたしとガルアが下り階段の方を見ると、一人のハルピュイアが鳥足で走ってきた。
慌てた様子で走ったハルピュイアの兵士が、ボロボロの水色コートで階段を登ってきた。
「だ、ダメだ!スライムが、すぐ下まで……」
間もなくして、兵士を追いかけるように液体の塊が姿を見せた。
それは、はっきりと知っていた。
風獣の『スライム』が、体を這うように階段を登ってきていた。




