表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルピュイアの厄払い  作者: 葉月 優奈
三話:bancs de vase
35/56

035

――1年前・チュラッタ屋敷――

北雲で、イルファーと言う町があった。

雲の上に存在する町のほぼ中央に、大きな木造の屋敷が見えた。

イルファーの領主、チュラッタの屋敷だ。


チュラッタ家は、代々イルファーを治める領主の家系。

木造の壁に、いくつもの建物が見えた。


それでも黄翼族の奴隷であるあたしは、一つの館にしか出入りしていない。

中央の屋敷の外、奴隷のあたしは待たされていた。

着ていた服は、真っ白な純白のドレス。


屋敷の中には、雲の庭園が広がっていた。時刻は夜だ。

灯りがついていて綺麗に手入れされた庭園は、小さなエッグゴーレムが動いていた。

雲の中に松の木も生えていて、池も見えた。

独特の雰囲気をもつチュラッタ屋敷の庭園に、間もなく一人の女性が姿を見せた。


「レステよ、ようやく来たようだな」

顔にしわだらけの老婆ハルピュイアが、姿を見せた。


白い翼に、紫色のミディアムカールの老婆。

白い袈裟のような服を着ていた人物こそ、この屋敷主……『北雲の大魔術師』チュラッタだ。


「チュラッタ様」畏まるあたし。

「よい。お前は、今日より最後の使命を与える。

生き残ったお前にだけが、この資格がある」

「はい、風狩人(シャスール)としてテュポーンを倒すこと」

「今まで、わしが教えたことを覚えているな」

「はい、テュポーンは厄災をまき散らす風。

『風歓喜の塔』より出でて『風泣きの塔』に帰る」

「そう」返事をするチュラッタは、あたしのそばに近づいた。


あたし達奴隷には、この鉄の首輪がついていた。

つけられた首輪は、たんなる金属の首輪ではない。

あたしがつけている首輪に触ったチュラッタが、目をつぶって魔法を詠唱した。


数秒後に、首輪から手を離して後ろに下がったチュラッタ。

だが、同時に首輪があたしの首に迫ってきた。


「ううっ……」苦しみで、あたしはその場にしゃがみ込んだ。

首輪が、軽く閉まって呼吸がしにくい。


「今より、呪いを変更した。

この世界には、既にテュポーンが生み出されている。

塔に向かったハルピュイアが、昨日確認していた」

「呪いは……どんな呪い?」

「距離呪いの一つ、テュポーンから離れればお前はこの首輪に殺される」

チュラッタが、淡々と言い放つ。


「ならば、アンタを殺しても……」睨みあげてあたしは、チュラッタを見ていた。

「わしを殺しても構わぬ。

だがこの呪いは、テュポーンが死なない限り絶対に解けない。

今よりお前は、テュポーンを追いかけなければいけない。

そして、風狩人(シャスール)としてテュポーンを殺さないといけない」

「それが、あたしに対する手向けの言葉か」

「そうだ。デスゲームに生き残ったお前に、与えられた唯一の選択」

チュラッタの言葉に、あたしは右手を力強く握った。


「あたしに、あんなことをさせて……あんたは自分の役目を放棄して。

それが、チュラッタのやりたかったことか?」

「言いたいことはすんだか?」

怒りに満ちたあたしは、背中に弓を持っていた。

大きな弓を、あたしは握って構えた。

黄色い翼に、真っ白なドレス。


「それでも、この天空界では翼の色で優劣が決まる」

「あんたは、狂っている」

「だろうな。奴隷に、我が家のしきたりを押しつけるのだからな」

チュラッタが、疲れた顔を見せた。

あたしは、弓を構えるのをやめた。

殺意を押し殺して、チュラッタを見ていた。


「それと、お前には餞別を渡そう。

一つは、その服。我が家に伝わる風狩人の装束だ。

なかなか、似合っているぞ」


あたしが着ていたのは、真っ白なドレス。

純白なドレスはウェディングドレスにも、似ていた。

長く白いドレスに、ドレスしたのピンクのスカート。

白く短い手袋を、あたしはつけていた。


「それともう一つ……」

チュラッタが指を鳴らすと、一つのエッグゴーレムが姿を見せた。

黄色い金属の塊で、頭が丸い。

手足も丸っこい、かわいらしいフォルムのエッグゴーレムだ。


「これは、エッグゴーレム。名を『ICP3』と呼ぶ」

「アイ……CP?」

「戦闘用に改造したエッグゴーレムだ。

近接格闘に特化させているが、一応武器も格納してある。

お前の相棒として、きっと役に立つだろう」

それが、ICP3(アイ)との出会いだった。

エッグゴーレムは、あたしの前で丁寧に一礼をしていた。


「レステさん、あなたがマスターですか?よろしくお願いします」

と、丁寧にエッグゴーレムはあたしに挨拶をしていた――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ