034
ルビニオン城の中庭には、訓練施設があった。
周囲をレンガの壁に囲まれたこの場所は、紛れもない闘技場だ。
空を飛ぶことも出来るハルピュイアだけど、天井には分厚いガラスが張られていた。
あたしはレッカに渡された木製の槍を持って、中庭に着ていた。
同じように、槍を持つレッカが仁王立ちであたしを見ていた。
それでも会議室にあった怒りの表情は、見せていない。
感情をコントロールした様子で、あたしを見ていた。
「あなたのメイン武器は?」
「弓矢」
「そう、ならば……」
レッカは、すぐに持っていた木製の槍を投げ捨てた。
そのまま、白い翼を羽ばたかせていた。
「弓矢なら、近接は苦手よね。ならば、ルールを変えましょ。
その槍を、このあたしに当てれば勝ち。
制限時間は三分。あなたに、戦士としての資格を見極めるわ」
「そう、あたしは戦士ではない。だけど、あたしには戦う理由がある」
「生き残るのは当たり前よ、臆病者。
そういうところが大嫌いなのよ、黄色翼っ!」
挑発するレッカに、レンガの窓から見ているギャラリーもレッカに声援を送った。
完全なアウエーで、周囲はそういう目であたしを見ていた。
「レッカが勝ったら、あなたは臆病者として生きなさい」
「ならば、あたしが勝ったら……あたしの戦う意志を認めること」
「いいわよ、そんなことぐらい。このレッカに、槍を当てられるのならね」
それでも、レッカは余裕の表情を見せていた。
「じゃあ、始めるわよ。立会人は、彼」
指をさしたのは、大きな砂時計の近くにいた男のハルピュイア。
レッカと同じ水色のコートを着た、紫ショートヘアの兵士ハルピュイア。
レッカの指示にあわせて、男ハルピュイアが砂時計を反転させた。
そして、あたしに3分間の時間が与えられた。
早速あたしはレッカとの間合いを詰めて、飛び込む。
猛スピードで飛び込んだあたしに、レッカが前を向いたまま後ろに下がっていた。
白い翼のレッカは、そのまま上空に上がっていく。
(天井には、分厚いガラスがある。そこまで追い込めば、勝機がある)
上に逃げていくレッカに対し、槍を持ったままあたしもレッカの距離を詰めた。
レッカは完全に丸腰だ。でも、動きはかなり速い。
それでも、あたしはさらに早く追いかけていく。
翼の色は、速さに関係しない。
相手が白翼であっても、あたしが黄翼であっても、スピードはあたしの方が早かった。
距離が詰まったところで、あたしは槍を突き出した。
だけど、レッカは反転してあたしに右の鳥足で蹴りつけてきた。
素早い身のこなしで、あたしはレッカの蹴りを避けられない。
ドレスの上から右脇腹を蹴られたあたしは、バランスを崩した。
槍もレッカをかすめて、そのままレッカは入れ違うように下に下がっていく。
(スピードでは、負けないが……近接の動き)
普段から遠距離武器で戦うあたしは、距離を詰めて戦う経験が無い。
レッカはコートを着ている中、腰には細い剣を持ち歩いていた。
つまり、彼女は近接攻撃にかなり慣れていた。
「どうしたの、臆病者。
臆病者は、風泣きの塔に連れて行けないわよ」
あたしを煽るレッカに、あたしは翼を動かしてレッカを見ながら距離を詰めた。
(槍を当てればいい、ルールはこれだけならば)
レッカに素早さだけならば、負けない。
「あたしには、戦う意味がある。
生にしがみついて、生き残ることの、何がいけない!」
スピードで距離を詰めて槍を突き出すあたしだが、レッカは再び反転して槍を避けていった。
あたしの槍の動きをはっきり読んで、回避をして来た。
「当たらない、戦意無き槍など!」
再び飛び回りながら、あたしから距離を取って離れるレッカ。
時間はあっという間に、2分が経過した。
(あたしの槍の攻撃は、絶対にかわされる。何か無いか?)
そんなあたしは、地面に着地した。
空にドンドン上がっていくレッカに、あたしは周囲を見回すとあるモノを見つけた。
上空に離れていくレッカに、あたしは地面の雲を足で掴んだ。
実体化のある雲を持ち、再びレッカを追いかけた。
追いかけたまま、猛スピードでレッカに近づく。
だけど、カウントダウンが始まった。
「10……9……」
周りのハルピュイア兵士が、勝利を確信した声だ。
だけどあたしは、まだ全然諦めていない。
距離を詰めて、レッカに向かっていく。
「5……4……」カウントダウンは続く。
「何度やっても、あなたの槍は……」
「それでも、あたしは槍を当てる」
あたしはレッカに近づくと、いきなり体をくるりと一回転させた。
そして、あたしは足を向けると握られた雲。雲をレッカに向けて投げつけた。
「これって……雲?」
カウントダウンが3になって、2になる。
一瞬、視界を奪われたレッカに体を回したあたしが槍を突き出した。
混乱して、視界を奪われたレッカは……あたしの槍を回避できなかった。
彼女の額にゴツっと、槍先が当たると……レッカはすぐさま涙目に変わった。
「いったーい」レッカにとうとう、あたしの槍が命中した。
カウントダウン1の瞬間に、あたしの槍が命中して……その瞬間あたしは勝っていた。
「勝者……レステ」
戸惑いながらも砂時計のそばにいた兵士が、あたしに勝ち名乗りを上げていた。




