033
パノム・キュクイレニ。帝国軍ルビニオンの騎士団の一人。
レッカ・キュクイレニとは、双子だ。
一卵性の双子は、性格が正反対だ。
よく喋るレッカと、割と無口なパノム。
好戦的なレッカと、平和的なパノム。
感情的なレッカとの喧嘩も、冷静な彼が助け船を出してきた。
「あなたが、頭を下げることじゃない」
「いや、僕らにも責任がある。
それでも、君にはこの作戦に是非ともついてきて欲しい」
パノムは、あたしのそばにやってきて誠意を見せてきた。
「あたしは、どうしてもテュポーンを倒さないといけない。
最終目的は、風泣きの塔だ。
だから断られても、あたしは必ずついて行くから」
「それは良かった。君のことはガルアから聞いた。
ジャック様も、君のことを評価しているみたいだね」
パノムは冷静に、あたしの事を見ていた。
「でも、あたしにそんなことをしていいの?」
「きっと、君はあの方に似ている。そんな気がするんだ」
「あの方?」
「風剣士セフィ・アスカンタラ」
パノムが指さすと、客間の壁に一人の肖像画が飾られていた。
小さな肖像画だけど、それは女性のハルピュイアだ。
長い紫色の髪に、白翼の若い女性。
「セフィ・アスカンタラは、かつて暴君ユラクイロを倒した帝国軍の英雄」
「ご存じでしたか」
「ご存じも何も、世界を救ったハルピュイア」
チュラッタからも、天空界での一般教養は受けていた。
当然世界的に有名人である英雄『セフィ・アスカンタラ』の事も、あたしは知っていた。
無論ガルアも、セフィ・アスカンタラの事を知っていた。
それほどの有名人が、肖像画描かれていることは当然だ。
世界を救った英雄なのだから、ハルピュイアの誰もが知っていた。
知っていたからこそ、今この天空界にいないことが不思議であるのだが。
「そのセフィに、なんであたしが似ているわけ?」
「あの人は、英雄で勇ましい人ですが、周りにもとても優しい人です」
「あたしは、別に優しくない。自分の事で、手一杯だし……」
「いいえ、あなたの顔は何か哀しそうな顔をしていました。
自分がかつて犯した過ちに、悔いて、懺悔して、二度と失敗しないように生きる。
生き残ると言うことも、あなたの本当の意志ではない。
まるで、他の人の意志であるかのように……」
「そう見えるの?あなたには?」
「うん、だから君は優しい」
パノムに、何かを見透かされた。そんな気がした。
それは、あたしの本質かもしれない。
でも、あたしは英雄セフィには遠く及ばない。
優れた人間でも無いし、何より地位の低い黄色の翼。
「あたしは、英雄じゃない!」
「でしょうね、あなたは違う」
さらに、あたしの客間に一人の人間が乱入してきた。
その声は女の声で、強い怒りのような感情が込められた声。
出てきたのは、水色のコートを着た女のハルピュイア。
手には、一本の木製の槍を持ってあたしの方に一気に近づく。
レッカが近づくと、あたしもしっかり立ち上がって向き合った。
険しい顔でレッカとあたしは、向き合っていた。
「勝負しなさい!」
木製の槍を持ったレッカは、そのままあたしに突き出してきた。
レッカの申し出を、あたしは無言で受け取っていた。




