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ハルピュイアの厄払い  作者: 葉月 優奈
三話:bancs de vase
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032

ルビニオン城で、あたしが案内された場所があった。

武器を持った兵士に説得されて、あたしは会議が終わるまでこの城を出ることが許されなかった。


通された場所は、客間だ。

ちょうどよくあたしは、一人になりたかった。

レンガで出来た壁、ルビニオン城の客間だ。

ベッドと本棚と鏡台が置かれた、シンプルな部屋。


あたしは、窓のそばに座って外を眺めた。

見えたのは中庭、兵士達が動き回っていた。


(どこいっても、白翼至上主義)

見えるハルピュイアの兵士が、白い翼ばかりだ。

男も、女も、老いも、若きも。

ルビニオンの町中には、赤翼もいたけどこの城内に一人もいない。


この帝国軍になるには、白い翼しか許されないのだろう。

どうしようもないほどのあたしは、差別の壁を越えることが出来ないのは知っていた。


あたしは、見えない首輪を手で触っていた。

鉄の金属製の首輪。

どうやっても、壊すことも出来ない。

テュポーンから離れれば、あたしの首を絞めて殺す首輪。

解除の方法はただ一つ、テュポーンを抹消させること。


そんなあたしに、戦士としての資格はあるはずもない。

戦士としての誇りもないし、戦う理由は『生き残ること』。

死なないようにするために、あたしはテュポーンを殺すしかない。


(もし、この作戦に選ばれなくても……あたしは絶対に戦わないといけない。

あたしには、テュポーンと戦わない選択肢がないし、死ぬことも出来ないのだから)

彼らが同行を許さなくても、あたしは倒しに行かないといけない。


しばらくすると、客間のドアが開いた。

開くと、そこから出てきたのはガルアだ。


「ここにいたのか、俺の嫁」

「相変わらず軽薄な男ね」

なぜかガルアが、笑いながら入ってきた。

冷めた目で椅子に座ったあたしは、入ってくるガルアを見上げた。


「何をしていたんだ?」

「外を見ていただけ」

「この南雲のルビニオンも、いい場所だよな。雲は少ないし」

夕暮れの太陽が沈みかける空を、あたしの隣で見ているガルア。

あたしもまた、不機嫌な顔で窓の外を見ていた。


「そうだ、会議の結果だけど」

「あたしは……一人でも行く」

「まだ、何も言っていないけど」

「絶対に、あたしは風泣きの塔に行く」

「場所は、分かるのか?」

「テュポーンが近づいてくれば、自ずと分かる」

それは事実だ。テュポーンの大まかな位置は、この呪いの首輪で分かっていた。


「だけど、そんなことをしなくていい。

俺がレステの同行について話をつけてきた。それと……」

ガルアの後ろから、黄色い体のエッグゴーレムが姿を見せた。


「レステさん」

「アイ、ごめんなさい」

どうやらレッカに言われてあたしは、冷静を欠いていた。

会議室に、アイを置いたまま出て行ってしまった。

丸く黄色い鉄のゴーレムを、あたしは優しく撫でていた。


「アイには、優しく出来るんだな」

「当然でしょ、アイは戦友。あたしにとって、一番大事な仲間」

「ならば、あいつらも……レッカ達も信用できないか?」

ガルアが、あたしにしんみりとした声で言ってきた。

あたしは、それでも顔を上げて首を横に振った。


「あたしを差別しているのは、あなたたち白翼でしょ」

「それは申し訳ない」

そんな中、もう一人のハルピュイアが姿を見せた。

赤いコートを着て、紫色のショートヘアの少年がこの部屋にやってきた。

白い翼の男は、あたしを見るなり深々と頭を下げていた。



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