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ルビニオン城の壁は、ほとんどがレンガだ。
鉄や雲壁の建物が多いルビニオンの都市、そこの中で一際目立つ赤いレンガの建物。
中央にあったその場所は、会議室だ。
大きな机で、上座にはレッカとパノムが座っていた。
二人はこの騎士団の騎士団長で、一番地位が高い。
見た目は若いけど、かなり偉いようだ。
この部屋には、レッカが招いたあたしとガルア。
それから、綺麗になったエッグゴーレムのアイ。
帝国側としてパノムと、数人の白い翼の兵士の重鎮が既に座っていた。
「さて、このたびは風泣きの塔におけるスライム討伐に、彼らも協力することになったのだけど」
「スライムは……風壺から未だに湧き続けている。
風壺自体を、壊すことは出来ないのか?」
若手の兵士が手を上げて、レッカに進言。
「無理だよ。
『風泣きの塔』は、神聖な四大巨塔の一つ。
異界のテクノロジーの前に、我らハルピュイアは無力だ。
空を飛ぶ翼さえ使えない。不思議な力が働く場所だ」
言い返したのは、パノムだ。
あたしの隣でガルアが、小声であたしに言ってきた。
「異界のテクノロジーとは、また厄介な。
レステ……本当に、四大巨塔内部は空が飛べないのか」
「翼は動かない、だから飛べない。
少なくとも『風歓喜の塔』と同じだろう」
あたしは北雲の風歓喜の塔に、行った事があった。
普通のハルピュイアでは、立ち入ることも出来ない。
だけどチュラッタ達が管理していたこともあり、あたしは入ることが出来た。
なによりも、テュポーンは『風歓喜の塔』にある風壺から出てきたのだから。
「だから最上階から突入し、一階まで階段を下ることになる。
また、一部魔法を使うことも出来なくなる。
その当たりの注意事項は、レッカはしっかり周知させたのだが」
「申し訳ありません、レッカ様」
「いいよ、『風泣きの塔』はまだ不思議も多い。
四台巨塔も、異界のテクノロジーも、解明されていないことがたくさんあるのだから」
レッカの叱咤と、パノムのフォローが、絶妙に若い兵士に声をかけられた。
「現在、風泣きの塔の中にも常駐で兵士を送っている。
風壺から出て行くスライムと、先発隊が分断された報告がある。
敵のスライムの増殖スピードが早く、苦戦していると報告を受けている」
「ならば、すぐに軍を……」
「慌てるな。スライムは、並の武器は通用しない。
今レッカ達が成すべき事は、風泣きの塔からスライムを外に出さないこと」
「スライムは僕たちの軍の頑張りもあって、最上階にまだスライムが溢れ出てこない。
スライムを風泣きの塔から出さないことこそ、この作戦で一番重要なことだよ」
「それでも、倒さないと終わらないでしょ」
レッカが息巻いていても、パノムは落ち着いていた。
「まあ、それで俺とレステも参加……ああ、アイもいたけどな」
「あなた、なれなれしいけど」
隣のあたしに、勝手に肩を組んできたガルア。
そんな会議の中でも、白い翼の兵士達はあたしを差別的な目で見てきた。
「まあ、今回は騎士団との共同戦線になるけど……あんた」
レッカが、あたしの事を指さした。
「何?」
「その首輪、何なの?」
「これは、あたしにかけられた呪いの証」
「呪いって……」
「あたしはテュポーンを倒すために、呪いがかけられているの」
あたしの言葉に、明らかに不満そうな顔を見せたレッカ。
顔を真っ赤にして、両手を突いていた。
「ふざけるんじゃ無いわよ!」そして、怒鳴っていた。




