003
――三時間前・エルコンドニア空域――
あたしには、同志がいた。
あたしと同じ目的で、旅をするもう一人のハルピュイアがいた。
そいつは、男のハルピュイアだ。
彼とは、一緒にエルコンドリアの上空を飛んでいた。
この時間の空は、曇っていた。
天空界とはいえど、常に晴れているわけではない。
あたしと一緒に空を飛ぶのは、上半身が裸で白い翼の男ハルピュイアだ。
茶色のズボンで、紫色のハネっ毛の男は、手に懐中羅針盤を持って真剣な顔で見ていた。
「この辺りか?」
「そうだな。嫁」
「その呼び方は、違う」
「一緒に旅を、しているだろ。しかも、男女二人きりだろ」
「アイもいるのだけど」
あたしの隣には、黄色い卵の機械……エッグゴーレムのアイが一緒に飛んでいた。
アイが空を飛ぶ原動力は、背中についている風魔導ブースター。
ゴーレム全般は、魔法の力が起動源になっていた。
それは、空を飛ぶ動力源である事も変わらない。
「アイは、恋愛対象ではありません」いつも通りの機械声。
「だってよ、嫁」
なぜかこの男は、あたしの事を『嫁』と呼ぶ。
彼の名は、『ガルア・ノトス』。あたしと同じ役目を持ったハルピュイアだ。
そんな彼と一緒にいてあたしは、気持ちよくも悪くもない。
それでも軽率な白翼の彼は、なぜか私の翼を否定しない。
ただ、婚姻関係が無いことだけを肯定しているだけだ。
「それよりも、厄災の風はこの辺りにいるの?」
「いるはずだが、魔力が消費されたみたいだ」
「順調に進んでいるのね、厄災が」
厄災の風を、あたし達は追いかけていた。
ガルアが右手に持っているのは、羅針盤。
この羅針盤で、テュポーンの居場所やテュポーンに似た災いの風獣の居場所も知らせてくれた。
そして、テュポーンは厄災をあちこちに招く。
厄災を招く……つまりは、かつて倒された災いをもたらした風獣を蘇らせた。
「でも、見えるのは三つあるんだよな」
「三つ?それはおかしいんじゃない?」
「いや、一つはテュポーンで、他に二つ。
このエルコンドニア近辺に、確かに風獣の存在が確認できた」
「あたしの首輪では、テュポーンの居場所しか分からないから。
その二つ、同じ場所なの?」
「一つは、こっちと……こっち」
指さした方角と、右前と、左前。
空なので目印は無いけど、場所が離れていることだけは理解した。
「別々って事?テュポーン以外のベートが、いると言うこと?」
「いや、能力は同じぐらいだし……多分どちらもテュポーンが生み出したと思う」
「そうか、同時に呼び出したって事か」
「テュポーンの力は、まだまだ未知な部分がいくつもある」
「流石だな、嫁」
「嫁じゃない」ガルアの言葉に、すぐさまつっこむあたし。
それでも、あたしは前を向いていた。
「エルコンドニアの町は、この近辺?」
「左の風に乗れば、近いかな」
「じゃあ、右にあたしとアイは行く」
「ここで別れるのか?」
「当たり前でしょ。
どのみち風獣を、このまま放置しておく訳にはいかないし」
「了解」ガルアが、あたしに敬礼ポーズをしてウィンクした。
あたしは冷めた顔で前を向いて、空を見ていた。
「じゃあ、倒したらエルコンドリアに落ち合おう」
あたしは、アイと一緒に空を飛んでいった。
そして、あっという間にガルアから離れていった。




