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ハルピュイアの厄払い  作者: 葉月 優奈
プロローグ
2/56

002

(LESTE’S EYES)

あたしは、黄翼のハルピュイア。名を『レステ』という。

白いドレスを身にまとった、女のハルピュイアだ。

薄紫の長い髪をなびかせて、黄色い背中の翼が特徴だ。

若い女のあたしは、ヒポクリフをじっと睨んでいた。


「黄色い翼……」

周りにいた男ハルピュイアの兵士が、戸惑っていた。

戸惑っていても、あたしは構わずヒポクリフを睨む。

鷲頭で、あたしよりも何倍も大きな巨大な馬。


翼が生えた災いの風獣(ヒポクリフ)は、炎から回復していた。

あたしが放った炎の矢(フラム フレッシュ)は、命中と同時に炎を発生。


それでも、ヒポクリフのブレスを阻止するほどのダメージは与えていた。

ヒポクリフの毛並みが、黒く焦げていたのがその証拠。


(効いているが、まだ浅い!)

冷静な顔であたしは、背中の矢筒から矢を一本取りだした。

ヒポクリフは、あたしに警戒をして動き出す。

鷲頭が、怒っているかのようにあたしに迫ってきた。


ヒポクリフの注意があたしに向けられたのを確認して、あたしは背中の黄翼を動かす。

あたしの体を上空に、飛び上がっていく。

町よりも遠く、できるだけ住居から離すように、上空に飛んでいく。


そのまま、ヒポクリフの突進を危なげなくかわしていく。

突進を避けつつも、再び弓を構えて矢を放つ。

猛スピードで飛び回りながらも、狙いを定めて……矢が飛んでいった。

水色の矢が、ヒポクリフの左翼に命中。

同時に氷柱のような鋭い槍先で、翼を切っていた。


グオオオッ、ヒポクリフは苦しんでいた。

翼にも神経が通っているヒポクリフは、何とか空中でバランスを取ろうと前足で踏み出す。

左翼は大きく欠けたが、右前足を使って空を蹴り上げて体をかろうじて持ち上げた。


「流石は化け物ね、アイツ」

バランスを整えたヒポクリフの鷲頭を、あたしに向けてきた。

一気に口に火をため込んで、短い時間でブレスを吐いてきた。

空を飛んであたしの目の前に広がる炎を、あたしは冷静な顔で見ていた。


「いけない、あのブレスには……」

戦いを見ていた兵士男のハルピュイアが、心配そうな顔で叫ぶ。


だけど、あたしは動かずに身構えていた。

そんなあたしの目の前に、何か大きな塊が近づいてきた。

黄色く大きな、丸い巨大の卵のような物体が、あたしと炎の間に割って入った。


巨大な卵は、鉄製の機械だ。

鉄の卵には、手足も存在した人型のロボット。

顔は丸いけど、目や鼻、口は存在しない。

全身黄色くカラーリングされた機械は、丸っこい形のロボット。

『エッグゴーレム』という、ゴーレムの一種だ。

丸く太い機械の両手を突き出して、ヒポクリフの放つブレスと向き合った。


そして、展開させたのは……無数の電撃。

発生させたのは雷。何本もの電撃で形成された壁。

『フォードルミュール』という電撃の壁が、ブレスとエッグゴーレムの間に遮るように現れた。

バチバチと音を立てた電撃の壁が、ヒポクリフのブレスを阻んでいた。


あたしは、それを見つつも一本の矢を選択した。矢を、右手で握った。

そして、同時にドレスの腰にあるベルトから黒く小さなランタンに矢先を炙っていく。

炙った矢が、真っ黒に変わっていく。


「レステさん、トドメを!」エッグゴーレムから、機械の声が聞こえた。

「わかっているわ!」

あたしは、ブレスを放っている電撃の壁の横に飛び出して弓を構えた。

そのまま、黒い矢を装填して放つ。あたしの矢は……ヒポクリフの鷲頭の額に命中。

真っ黒な矢が刺さると、ヒポクリフが苦しみだした。


同時に見えたのは、ヒポクリフの周囲を取り囲む幾重にも見えた黒い輪。

まがまがしい黒い輪が、ヒポクリフの体の自由を奪い……ヒポクリフ地震の動きも鈍くなった。

黒い輪が、小さくなるとヒポクリフの体も徐々に小さくなっていく。

その数秒後に、巨大なヒポクリフの体が消えた。


残された一本の矢は、そのまま黒から普通の矢に戻って空に落ちていった。

消えたヒポクリフのいた空を見ながら、ため息をついた。


「流石です、レステさん」

「これで、あたしの取り分は片付いたわね」

「レステさん、任務終了ですか?」

「そうね、アイ」

卵機械人形(エッグゴーレム)のアイに、あたしは声をかけた。

そんなあたしとアイの会話に、遠くから声をかけてきた人物がいた。


「お前達、何者だ?黄色翼」

若い男のハルピュイアが、遠くから声をかけてきた。

槍を持っている武装を見ると、どうやらこのエルコンドリアの兵士と想像できた。

白翼のハルピュイアは、不機嫌な顔を見せていた。


「お前に、話すことはない」そっけなく返事をした。

「なんで黄色がいる?」

「お前たちが、あの怪物を持ってきたのか?黄翼の女!」

兵たちが、あたしに罵声を投げかけた。


「レステさんは、そんなことをしません」

否定したアイ、だけどあたしは背中を向けていた。

黄色い翼を背に向けて、アイに促す。


「何を言っても無駄だ。そこにいる、平和ぼけの白翼族には」

あたしが虚な顔で、アイに声をかけた。


「でも、レステさんはこの戦いの英雄で……」

「この世界で、黄翼は絶対に英雄になれない。

あたしは、それを知っている」

「いいえ、あなたは立派な勇者です」

数人のハルピュイアの群れが、あたしとハルピュイアの兵士のそばにやってきた。

数人のハルピュイアの中から、間もなくして一人が姿を見せた。


同じ白翼だけど、老人の顔をした男のハルピュイア。

着ている茶色の長袖シャツを着た老人ハルピュイアが、こちらに飛んできた。


「これこれ、その人はエルコンドニアを救った方じゃぞ!」

「ですが……オウラリ様。この女は、翼が黄色いハルピュイアだ」

「感謝するぞ、旅のもの。そして、ようこそ『エルコンドニア』へ」

老人の男が手を広げて、あたしとアイを歓迎していた。

だけど、あたしは老人の顔を冷めた目で見ていた。



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