019
魔力調律室は、大きな台が中央に置かれていた。
近くには、魔力の釜も見えた。
他にも棚や、工具類なんかも置かれていた。
台の上には、既にアイが寝かされていた。
そして、部屋には数人の機工師が次々と入って来ていた。
真剣な表情のガルアの父は、魔力の計測器でアイの状態を確認。
古代文明の一つで、モニターというモノからアイの魔力を見ていた。
同時にガルアの父の命令で、近くの釜が動いていた。
「魔力粉を、少量金属に混ぜて、プレートを作って」
「はい」ガルアの父が、他のハルピュイアにも命令を出す。
釜を回すのは、白衣を着た男のハルピュイア。
口元には、白いマスクもつけていた。
あたしは、眠るアイをそばで見守っていた。
アイの台のそばにいたガルアが、アイのエッグゴーレムの体に触れながら具合を確認していた。
その顔は、一様に真剣だ。
「師匠、魔力の増長は?」
「ダメージのわりには、魔力が安定しているぞ。これは……君。ゴーレムのマスターか?」
「はい」ガルアの父に言われて、あたしは返事をした。
「このゴーレムの代物、魔力核のそばにある奇妙な箱。君が作ったのか?」
「いいえ、あたしではありません。『チュラッタ』……」
「『チュラッタ』だと?なるほど、北雲の大魔術師か」
ガルアの父が、妙に納得していた。
中年風の男が、モニターを見ながら液体の入った瓶を取り出した。
「師匠、どうします?」
「この代物は、下手にいじらない方がいい。
ガルア、後でバエサ様を迎えに行ってくれ」
「バエサ様って、ゾンタ一の魔術師の?」
「専門界の意見を聞かないと、これは簡単には直せないな。
魔力の調律は出来るし、ゴーレムの出力を安定させることは出来るだろう。
それにしても、このゴーレムは……凄いゴーレムだ」
ガルアの父が、アイを見ながら様々な感情を見せた。
興奮に、困惑、それから驚き。
あたしはエッグゴーレムを、アイ以外知らないけど他のゴーレムとは違うのだろうか。
「それより、調律は終わったか?」
「これは二日、どうしても欲しい。待ってくれないか」
「待って!あたしは……追いかけているテュポーンがいるので!」
「テュポーン、まさかあんたは?」
「そう、あたしは風狩人のレステ」
ガルアの父に、あたしはようやく名を名乗った。
名乗られたガルアの父は、隣にいるガルアをチラリと見ていた。
「すると、この弟子の仲間って事か?」
「ええ」
「ああ、遅れてしまないな。俺の名は『ジャック・ノトス』。
この工房の工房長だ」
ジャック・ノトス、ガルアの父は自分をそう名乗っていた。
「二日って事は……アイは動けないのか」
「そうだな、このゴーレム……名前はアイというのか?」
「正式名称は『ICP3』です。
あたしは、『アイ』と呼んでいるけど。
でも二日もここで、動けないとテュポーンは……」
「それは心配ない」
ガルアは持っていた懐中羅針盤を見ながら、口にしていた。
「テュポーンは、まだこの辺りにいるようだ。
少なくとも、二日は心配ないだろう」
「それって……」
「俺の宝具『風獣羅針盤だ』」
ガルアの言葉に、ジャックは頷いた。
「よし、シャスールの者よ。レステとか言ったな。
今日と明日は、ウチに泊まるといい。
どうやら長旅で君も、疲れた顔を見せているし」
「お、それはいいな」
ジャックに押し切られて、ガルアが反応してあたしの手を掴んできた。
「ガルア、案内してやれ」
「おう」短い親子の会話で、ガルアがあたしの手を引っ張った。
「俺の家に来いよ」ガルアは、笑顔であたしを家に招いてきた。




