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ハルピュイアの厄払い  作者: 葉月 優奈
二話:vrai petit tersor secrete
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016

――三ヶ月前・イオニス空域――

イオニス雲と言われる雲が、存在した。

天空界の中央から、少し南にある大きな雲の大地だ。

空の世界のほとんどは雨や雪が降ることは無いが、このイオニス雲の上空は雨がよく降っていた。

黒い雨雲の空で雨が降りしきる中、あたしは災いの風獣(ベート)と戦う。


敵は一匹、翼の生えた女だ。でもハルピュイアではない。

体もあたしより一回り大きい、3メートル近くあるだろうか。

上半身は女の裸の格好、翼は鳥の翼では無くドラゴンの翼。

そして、下半身は蛇のような姿で空を飛んでいた。


「強い」あたしは焦っていた。

巨大な蛇翼女(メリジェーヌ)は怪しく笑う。

災いの風獣『メリジェーヌ』は、基本的に魔法を使う。

この雨雲も、メリジェーヌの使った魔法だ。


(気象を操る魔法で……アイも動けない)

雨には、敵の魔法の力が込められていた。

魔力を動力源とするゴーレムには、厄介な『魔力消失の雨(マギペレ)』。

あたしは魔法を使うことはないものの、ゴーレムであるアイには効果てきめんだ。

魔力消失の雨は、濡れるだけでアイの力を奪っていく。

魔力で動くゴーレムは、動けなくなった。


「お前なんか、所詮あのゴーレムさえいなければ……」

「おしゃべりな厄災ね」それでもあたしの顔には、汗がしたたり落ちた。

「厄災と言われるのは、かなりの心外よ」

長い緑ロングカールのメリジェーヌは、不機嫌な顔を見せた。

知能のある風獣は、かなり珍しい。


この風獣(メリジェーヌ)も又、テュポーンによって生み出された風獣だ。

メリジェーヌは、そのままあたしに巨体で迫っていく。

距離を詰めながら爪であたしの事を、攻撃してきた。


あたしの武器は弓。接近戦には弱い。

近接戦闘であたしと戦うのも、メリジェーヌの作戦だろう。

壁のゴーレムであるアイを封じることで、あたしに接近戦を仕掛けてきた。


(どうにかして、距離を取らないといけない……)

冷静な顔でも、あたしは焦っていた。

メリジェーヌは巨体に似合わず、あたしから全く離れない。

メリジェーヌが放つ尻尾の攻撃が、あたしに命中した。


「ううっ!」

飛んでいたあたしは、後ろに吹き飛ばされた。

バランスを崩し、強く殴られたあたしは眉間に血を流す。

黄色い翼を激しく動かすことで、何とか体の落下を防いだ。


巨大な尻尾の一撃は、あたしにかなりのダメージを与えていた。

呼吸も乱れて、着ている白いドレスも攻撃を受けて汚れていた。


「はあっはあっ、距離さえ……距離さえ」

呼吸が、乱れるあたし。

「無駄よ、あんたはここで無残になぶり殺されるの」

メリジェーヌの余裕が、余計にあたしを煽ってきた。

それでも、あたしは必死に離れようと試みていた。


(このまま、あたしは死ぬわけにはいかない……でもアイはいない)

いつも一緒に戦ってくれる相棒は、ここにはいない。

黄翼のあたしは、一人だ。誰も助けは来てくれない。


それでもあたしの武器は、弓矢だ。

離れて弓を撃つことを、徹底的に阻止していくメリジェーヌ。

再び、尻尾の一撃があたしを襲う。


(あたしは……こんな場所で死ねないのに)

うつろな目で尻尾の一撃を見ていると、メリジェーヌに対して突然突風が吹き付けた。

その突風でメリジェーヌのバランスが崩れて、尻尾が外れた。


「え?」

「一人で戦うとか、お前は凄いな」

そこに出てきたのは、男のハルピュイア。

上半身裸で白い鳥の翼をしていて、茶色のズボンを履いた青年ハルピュイアだった。


「あなたは?」

「話は後だ、まずはコイツを倒すんだろ。風狩人(シャスール)ならば」

「うん」額の血を拭って、あたしは前を向いた。

あたしの目には、メリジェーヌの姿が映されていた。


「な、何やつ?」

「俺はガルア。

俺の真っ赤な拳で、天空界最強の格闘家を目指す男。

悪いけど俺は……」

ガルアという男のハルピュイアが、チラリと隣にいたあたしを見た。


「俺の嫁に、手を出すな!」

「え?」あたしは、突然のことに戸惑っていた。

「何を言っている?おかしな奴じゃ」

ガルアの叫びに、メリジェーヌは嘲笑していた。

ガルアはそれでも、あたしに対してウィンクをして見せた。


あたしもまた、メリジェーヌ同様に冷めた目をガルアに向けた。

一瞬にして助けに来た男のハルピュイアに、幻滅していた。


(なんなのよ、この男は?)

あたしは、心の中で叫んでいた。

それでも、ガルアの背中はどこか頼もしく見えてしまう。

筋肉質の背筋は、美しく見えた。


「それより、嫁。名前は?」

「あたしはレステ」

「じゃあ、レステ。弓が得意だよな。

俺の拳で隙を作るから、アイツの頭をぶち抜けるか?」

「言われなくても、簡単に出来るわよ。あたしには、これがあるから」

取り出したのは、『闇のランタン』だ。

黒い炎が、四角いランタンの中で燃えていた。

チラリと見せたあたしに対して、メリジェーヌが迫っていく。


迫ったが、ガルドが右拳を突き出した。

突き出された拳から、突風が飛び出してメリジェーヌから距離を離した。


「なるほど、北雲の風狩人か。ならな、その弓は封じ手か」

「そうね、あたしは封じ手よ」

「なら、こいつにそれを当ててくれ」

風で吹き飛ばされたメリジェーヌは、再び空中で体勢を整えた。

そのまま、あたし達に襲いかかろうとした。


「なんだ、お前?その技は?」

「俺は、天空界最強の格闘家を目指す男。

『ガルド・ノトス』だぜ、覚えておけ!」

そしてガルドが繰り出した風の拳は、メリジェーヌを再び吹き飛ばしていた――



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