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ハルピュイアの厄払い  作者: 葉月 優奈
プロローグ
1/56

001

――エルコンドニア――

(???’S EYES)

地上より遥か空にある世界……天空には、世界が存在した。

ハルピュイア、それは人間の上半身と、鳥足の下半身と、鳥の翼を持つ種族。

ハルピュイア、それは雲を実体化させる魔法を使い天空界に住む種族。

ハルピュイア、それは天空界で文明を築いた支配者。


ハルピュイアが作った町、『エルコンドニア』には風が吹いていた。

強い風は、焼けるような熱風だ。

焦げたようなにおいが、この雲の上にもはっきり漂っていた。


真っ白な雲を、魔法で固めて変化させたテントのような建物。

『トラトュース』は、空の世界の住居。

エルコンドニアの町並みは、白いテントが数多く立ち並ぶ。

雲の上にいくつも見えるトラトュースは、あちこちで煙が上がっていた。


エルコンドニアの町中で、暴れているのは一匹の馬。

その馬は、翼の生えた体長十メートルの大きな馬。

ただし、頭は鷲の頭という不思議な取り合わせ。


「奴を仕留めろ!」叫ぶのは、背中に白い翼の生えた男。

紫色の短い髪にはバンダナが巻かれた若い青年は、長い槍を持っていた。

青い服に革鎧の上半身と、鳥足を黒いズボンで隠した男。

『ハルピュイア』と呼ばれる種族で、見た目は鳥人間だ。


彼は、ハルピュイアの兵士だ。

他にも何人ものハルピュイアが、大きな馬に向き合って戦っていた。


「ダメです!ヒポクリフは、全然止まりません!」

もう一人のハルピュイアが、嘆いた。

だけどボロボロで、顔は煤だらけ。

くたびれた様子で、巨大な馬(ヒポクリフ)と戦っていた。


「それでも、ここで止める。

そうでなければ……この町が滅んでしまう」

ハルピュイアの集落、エルコンドニアは壊滅寸前だ。

暴れているのは、『ヒポクリフ』だ。

巨体が突進し、トラトュースを破壊していく。

ハルピュイアの何倍も大きなヒポクリフに、兵士達は次々と倒れていく。


「だけど、このままではわが軍は滅んでしまいます!」

「それでも、この町は俺たちの町だ。

俺たちがここで倒れたら、この町は滅んでしまうぞ!」

兵士同士の会話の中でも、ヒポクリフは他の兵士に向かって突進していく。

巨体を生かしたタックルで、ハルピュイアの兵士を吹き飛ばした。


さらに、勢いのあるヒポクリフが恐怖に(おのの)く兵士に突っ込んできた。

「ダメです、うああっ!」

飛ばされたハルピュイアは、雲の地面に倒れた。


雲を実体化している天空界で、若いハルピュイアは槍を手放して倒れていた。

次々とヒポクリフが、ハルピュイアの兵士を襲っていく。

ハルピュイアの兵士達は、これには為す術がない。


「ここまで、強いのか。災いの風獣(ベート)は」

ベテラン兵士のハルピュイアは、苦々しい顔でヒポクリフを見上げた。

それでも、若いハルピュイアは果敢に挑む。


槍を持って、ヒポクリフに単身突入して槍を突き立てた。

命中した槍だけど、ヒポクリフにはほとんど効いていない。

それどころか挑んだ兵士が、ヒポクリフの前足で蹴られて吹き飛ばされた。

断末魔の叫び声を上げて、若いハルピュイアは力尽きた。


「攻撃も一切、効かない」

「このままでは、町は本当に……」口々に聞こえていた、兵士の弱気な感情。

「既に終わっている。厄災は、このエルコンドリアに起こされた」

絶望を嘆く兵士まで現れた。


「隊長、ヒポクリフの様子が……」

「あれは……ブレスだ!」

ヒポクリフの鷲頭、口元に赤い炎が見えた。


「このままでは、この辺り一帯が……逃げろ!」

ヒポクリフは、容赦なくブレスを吐く。

過去にも現れた事のある文献で、俺は知っていた。

周りには仲間の兵士がいて、しかもここはエルコンドリアの町のほぼ中央。


ここで吐かれては、町にも甚大な被害が出てしまう。

多くのハルピュイアが、死ぬだろう。


俺の頭の中で、走馬灯が走った。

家族、友人、生まれたときの姿が頭をよぎった。


(これって、死ぬってことか)

俺の心は、どこか定まった。

諦めが色濃く見えて、戦意が失われた。

どうすることも出来ない、強さの差。


圧倒的な災いの風獣が与えてきた、この町の災害。

ヒポクリフのブレスを逃げることも、ブレスから町を守ることも出来ない。


周りの兵士達も、怯えていて動くことも出来ない。

槍も全く効かないし、ブレスは止められない

ただ、俺たちの顔には絶望しかなかった。


そんな中、黄色い風が突然吹いていた。

「風?」一筋の細い風だ。

だけど俺たちは、しっかり風を感じていた。


同時に、一本の矢が真っ直ぐに飛んでいく。

素早く飛んでいく矢が、ヒポクリフの右前足に刺さった。


刺さった矢が、同時に赤く光って炎が発生。

全身を焦がすような炎に、苦しみだすヒポクリフ。

同時にブレスを吐こうとするヒポクリフの行動が、停止した。


「え、援軍か?」

俺が矢を放たれた場所を見ると、そこには黄色い翼の女のハルピュイアが弓を構えていた。



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