惜別の一撃を
17話を修正しつつ加筆していたら1万字近くなったので17話・18話と二つに分けました。
ルナが街道沿いを走り出してから30分が経過した頃、周囲の景色には変化が訪れていた。鬱蒼とした木々はその姿を徐々に隠し、逆に開けた場所が多く見られる。ドミネス高原の麓まで来た証拠だ。
「この辺りはもうドミネス高原に入ってるはずだけど、近くにそれらしい気配は無い…か」
依頼を受けた後にカッツェからナイトメアシープが出没した場所を聞いてはいるが…それなりに時間が経過している為、既に情報の場所には居ない事も考慮しておくべきだろう。寧ろ番いのナイトメアシープを探しているのだとすれば、常に移動している可能性の方が高いかもしれない。
今暴れているナイトメアシープには自らの半身ともいえる存在がもうこの世に居ないという事を知る術が無いのだから。
「となると、ある程度広く探さないとだけど…こういう時はあれかな」
ルナがそう一人呟きながら瞼を閉じる集中を始めると、スキルを発動させる為の感覚が己の中で沸き上がる。その感覚を信じスキルを発動させると、そこには透明な…輪郭だけを形どった鳥の様な物が浮かんでいた。
「出来た…!」
発動させたスキルの名は『鷹の目』
文字通り魔力によって生み出した鷹を自らの頭上に放ち、その視覚を共有する事が出来る能力だ。昨日の時点で魔法が使えるのは確認していたがスキルはまだ試していなかった。その為上手く発動出来るか少し不安だったが…問題無く使えるようだ。
「依頼を受けた時にナイトメアシープを探す人材を派遣するか聞かれて断ったのに、見つけられませんでしたなんてとても言えないからねぇ…ちゃんとスキルを使えて良かった…!───ここから見える範囲には居ないみたいだし、もう少し進んでからまた探してみよう」
そう口にしながら発動していたスキルを解除する。開けた場所で索敵する際には必須とも言える便利な能力だが…割と致命的な欠点が有る。
一つは魔力で形成された鷹は本体の頭上から動けないという事。鷹の視力で高所から見ている為かなり遠くまで見渡す事が出来るが、あくまで目の届く範囲までだ。障害物の有る場所や死角が多い場所ではその索敵能力は著しく低下する。
そしてもう一つに大きな欠点が有る。スキル発動中は鷹の視点に感覚が集中してしまい、本体は棒立ちになり完全に無防備になる事だ。スキル発動中に襲われればひとたまりもなく、故に一人の時はかなり使い難いスキルとなっている。
とはいえドミネス高原に生息するモンスターでレベル101を相手に襲い掛かって来るのはそれこそ件のナイトメアシープ位しかいない為、その欠点もこの状況ならば問題は無いだろう。
そんな事を考えながらもルナは移動を開始し、ある程度進んでは立ち止まってスキルを発動。見つからなければ再び移動してという事を繰り返していた。
因みにこの『この鷹の目』というスキル、本来使用出来るのは狩人のみなのだが…ルナは全てのジョブのレベルが最大なので当然使用出来る。とはいえ今は八芒星のペンダントでレベルを低く調整している為、使えるのは低レベルのスキルのみだが。
「あ、まだかなり遠いけど…見つけたかも」
どうして何度か『鷹の目』による索敵を繰り返した結果、奇しくも昨日ルナがナイトメアシープを倒した場所の近くで標的のモンスターと思わしき姿を発見する。
その方向に向かい徐々に近づいていくと、遠目でも肉眼で視認出来るほどの巨体が姿を現し始めた。件のナイトメアシープは番が見つからず余程怒り心頭なのか、周囲の岩や所々点在する樹木を薙ぎ払いながら進んでおり、その姿は破壊の化身の様である。
「ナイトメアシープだ…しかも、昨日の奴よりも大きいかも」
ナイトメアシープは雄でも雌でも角が生えている為に見た目で判断する事は中々難しいが、比較的雄の方が大型な事が多い。サイズ差から考えて恐らく昨日倒したのは雌だったのだろう。
向こうもコチラに気がついたのか、見境無しに暴れていたその動きをピタっと止めコチラをジッと見ている。察するに新たな怒りの矛先を見つけたと思っているのかも知れないが…八つ当たりではなく本当に自らが探していた番いのカタキだとは思うまい。
とはいえ戦う理由が有るのはルナも同じ事。むしろ探しに来たのはコチラだという話である。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって訳じゃないけど、昨日の出来事は割とトラウマものだったんでね…」
ゆっくりと歩きながら近づき、大羊と対峙した状態でそう零したルナ。思わず出た今の言葉にこの依頼を受けたもう一つに理由が隠されていた。
それは昨日、出会い頭に文字通りちびる程泣かされた挙げ句、天高く吹き飛ばされるというトラウマを植え付けられたナイトメアシープとの再戦そのものが目的であった。
結果的にはワンパンで風穴を開けて倒したが…否、倒せてしまったからこそ自身の中に生まれたモンスターに対する恐怖を完全に払拭する前に決着がついてしまった。
だからこそ、もう一度正面からナイトメアシープ対峙し打ち倒す事で自分の中の恐怖を乗り越えようと考えたのだ。
「悪いけど、番いで私のこれからの冒険の糧になって貰う…!」
ナイトメアシープの顔を見つめながらそう強い言葉を口にしたものの、気を抜くと足が竦みそうになる感覚がある。昨日のアレはやはり自分の心に相当深く刻まれている様だ。
とはいえ怖気づいていても仕方無いと自分を奮い立たせ、開戦のキッカケになるであろう物を取り出す為にルナは徐ろにマジックバッグに手を伸ばす。そうして中から取り出した物は───何と昨日倒したナイトメアシープの角の一部だった。
「あんまり良い趣味じゃないとは思ったんだけど、自分の探していたカタキが誰かも分からないうちに死ぬのは可哀想かと思ってね」
角の一部分だけで分かるのか確証は無かったが、ソレを目にした後のナイトメアシープの反応は劇的であった。
目前に突如現れた角が、自らの半身とも言える番いのものであると本能的に分かったのだろう。そしてそれを取り出した私が復讐すべき対象である言うことも。
先程まで激しい怒りを灯したその瞳は、今は憎悪の感情に塗り潰されている様に感じた。その激しい感情を正面からぶつけられ尻込みしそうになるが…奥歯にグッと力を込め、覚悟を決め大きな声で言い放つ。
「来いっ!」
その言葉の意味が分かったかの様にナイトメアシープはその場で上体を起こし力強く地面を踏み付け地面を揺らした後、「ギャォォオオオオオオ!」ととても羊とは思えない叫び声を上げる。
余りの声量に思わず顔を顰めていると、御自慢の角を水平にしながらその巨体を爆発的に加速させ、こちらとの距離を一気に詰めてくる。30メートル以上はあったであろうその距離は一瞬で無くなっていた。
「来いとは言ったけど、流石にコレを正面からは…!」
前回投げ飛ばせたのはあくまでレベル2000以上という常識外の膂力があってこその芸当だ、レベル100程度で同じ事をするのは無謀が過ぎる。今のステータスであの突きをマトモに喰らえば相応の報いを受ける事となるだろう。
突進の方向からその進路を予測し、身を翻しながらナイトメアシープの攻撃を大げさに回避するルナ。突撃の前は昨日の様に回避しながらのカウンターを狙っていたが、ビルが突っ込んでくるかのようなナイトメアシープの迫力と自身が想像していた以上のスピードにその余裕は生まれなかった。
「くっ、やっぱりレベルが下がると動体視力も…!」
そう、昨日とは違い喰らえばダメージになると体が理解してしまっており、更にはレベルが下がった事で反射神経や動体視力等が低下している事も相まって、易々と見切れていた突撃もカウンターまで繋げられなかったのだ。
となると相手の攻撃は回避に専念しつつ、距離を取って魔法で攻撃するのがベターなのだが───ルナは敢えて遠距離からの魔法は使わず素手で戦う事を決めていた。
「距離を取って魔法でチクチクしたからって、それでトラウマ克服になるのかって話だしねぇ…」
そう口にしているうちに、こちらに向き直ったナイトメアシープが再度突撃してくるのが目に入った。その姿をしっかりを見据えながら、呪文のように同じ言葉を繰り返す。
「タイミングゲー、タイミングゲー、タイミングゲー…」
そう、確かに速かったがそれは昨日の感覚と比べて速かったから驚いたという話である。決して捉えられないスピードではないし、要はその巨体にビビらずギリギリで回避しながら殴りつければ良いだけだけなのだ。
「『カオスゲートオンライン』じゃこんなの茶飯事だったんだ…大事なのはタイミングと気合!」
VRと生身が同じな訳はないが、そう口にする事で自らを鼓舞する事に成功する。猛然と襲い掛かるナイトメアシープの突撃をギリギリで躱すと、回避した流れで体を独楽の様に一回転させながら「ふっ!」という呼気と共に蹴撃を繰り出す。
側面から攻撃を喰らったナイトメアシープはそのまま真横に豪快に吹き飛び、その巨体で地面を揺らす。予想外の一撃に呻くように鳴き声を上げているが、それでもふらつきながらゆっくりと立ち上がると再びこちらに向き直る。その様子から戦意は衰えていない様だが、相応のダメージが有った事は見て取れる。これだけ重量差が有るにも関わらず一撃で相当なダメージを与えられるという事からも、レベルの差が戦闘においてどれほど大きな影響を持っているのかが分かるというものだろう。
「とはいえ素手の一撃じゃそうそう致命傷にはならないか」
そう口にするや否やルナは今度はこっちの番だと言わんばかりにその体を一気に加速させ、ナイトメアシープに近づいていく。それに気が付いたナイトメアシープは首を大きく横に振りながら角による薙ぎ払いを敢行する。しかしそれを見計らっていたかの様にルナは大きく上に跳躍し、ナイトメアシープの無防備な背中に飛び乗り拳を叩き込む。
「グオオオォォォォオォオ」
上からの叩きつける一撃を喰らいナイトメアシープが一瞬その体を沈み込ませるが、2度も地に伏す気は無いと言わんばかりに勢い良く立ち上がると、その勢いを利用して背中に飛び乗ったルナを弾き落とした。
地面に叩きつけられる瞬間に受け身を取り直ぐさま起き上がると、意図せずナイトメアシープと正面から目が合う形となった。彼我のレベル差を感じているであろうその瞳からはしかして戦意が失われる様子はなく、それを見たルナは一つの決意を固める。
「アレだけ色々言っといて回避ゲー、タイミングゲーで勝ちましたなんて意味無いか───そっちは私を殺してカタキを取りたいし、私はそっちの全力を受け切った上で乗り越えたい。なら…」
そう言うとルナはその場に腰を落とし、両腕を交差させながら真っ向から受け止める構えを見せた。その様子にナイトメアシープも何か感じ入るものがあったのか…次の一撃に全てを掛けるかの如く集中している様子が伺える。
暫し静寂が場を支配するが…決着を付けるべく遂にその巨体が動き出す。
ナイトメアシープは先程を上回る速度と気迫を乗せた全霊の一撃を繰り出し、ルナはその小さな体で真正面から全ての衝撃を受け止める。
重量差で吹き飛ばされない様にとルナは更に腰を落とすと地面を抉りながら凄まじい勢いで後退していく。───10メートル、20メートル、30メートルと後ろに進んだ辺りで遂には衝撃を殺しきる事に成功し、相対する巨体に比べれば余りに矮小なその体で相手の力の全てを受け止めきった。
そうしてその全霊の一撃を受け止められたナイトメアシープだが…追撃の気配もなくその動きを完全に止めていた。
全霊の一撃を防がれたとはいえまだ戦う事は可能な筈のナイトメアシープだが…自らの敗北を悟ったかの様にその場から微動だにせず留まっている。
「良い一撃だった」
その一言にはルナなりの相手に対する敬意が込められており、敬意を示した相手だからこそ苦しませる事の無いよう一撃で終わらせるべく力を練り上げる。
『アビスゲートオンライン』における魔法はイメージが重要だった。同じレベル、同じ魔力値でもイメージの差が威力に結実する。故にそれはこの世界においても同じであろうと考え…今自分が繰り出せる技の中で、至極の一撃を心に浮かべてみせた。
そうしてイメージによって生まれた力は形を成し、己が拳に螺旋状の風を纏わせる事に成功する。そうして生まれた風の拳を握りしめ、繰り出そうとした瞬間、ルナに逡巡が生まれる。
───それは昨日感じる暇も無かった、自らの意思で生き物を殺すという行為に対する躊躇い。
VRとは違う、仮初ではない命を奪う事への葛藤。
本当に殺す必要があるのか?戦えない様にすれば良いだけなのではないか?そんな思いが心をよぎり掛けたが…ふとナイトメアシープがこちらを見つめているのに気が付いた。
言語を介さず、本意を確かめる術はない…だがその瞳からは『逃げるな、責任を果たせ』と、そう言われているように感じた。故に己が弱い心を叱咤し再度拳を強く握りしめる。
そうして繰り出されたのは疾風にして必殺の一撃。
「螺旋空鳴撃!」
拳に纏った風の魔力はその正拳と共にナイトメアシープの額に直撃し、一撃でその頭部を破壊する。その傷跡はドリルで打ち抜いたかの如く額から後頭部にかけて見事に貫かれていた。そうして頭部を打ち抜かれたナイトメアシープは力なくその場に崩れ落ち、命の灯火をかき消し生を終える。
その打ち抜いた…命を絶った拳をじっと見つめながらルナは思わず
「…ありがとう」
───そう呟いていた。それはこの世界で生きて行くという、その本当の意味を教えてくれた番いの羊に対するルナなりの感謝の言葉だった。
設定としては剣士・格闘家・魔導士・侍・忍者等々、RPGでよく見かけるようなジョブが20種ある感じです。
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