求めた答えは
羊さんの名前をちょっと変更いたしました。
素材置き場からギルド内の執務室の様な場所に移動し、出されたお茶を飲みながら向かい上面のソファーに腰掛けカッツェが話し出すのを待つ。
「ここは私の執務室ですので、お話が他の人に聞かれる事は無いのでご安心を。…さて、何からお話ししたものか───そうですね、順を追っていきましょうか。ルナ様は『女神の使徒』と15年前の『失われた日』についてはご存じですか?」
『失われた日』という単語に聞き覚えはないが、察するに世界中で異変が在った日の総称だろう。『女神の使徒』に関しては勿論知っている。何故ならば…
「女神の使途というのは過去の…15年以上前から存在する旧冒険者の総称ですよね。『失われた日』という言葉自体は初めて聞きましたが…言葉から察するに女神の使徒から記憶と祝福が失われ、更には転移魔法も失われた日の総称ですかね?」
『アビスゲートオンライン』に於けるプレイヤーは女神が天から遣わせた使途であり、特別な加護…『祝福』で守られている為に例え死んでも何度でも神殿で復活出来る…というのがリスポーン出来る理由として設定されていた。ついでに言うとキャラクターメイクをする時に話しかけてくるのが女神様だった。
「そうです、使途である旧冒険者の皆様から記憶が失われ、我々も旧冒険者様に関する記憶を失った。そして同時に転移魔法も失われた日の事を総称して『失われた日』と呼ばれています。───我々冒険者ギルドはあの日からその存在意義を大きく変え、混乱を収める為に様々な対応に乗り出しました。そうして各国と連携し今日の安寧の元となる冒険者登録義務化法の成立へと至ったのです。そしてそれと並行して何故この世界に突然異変が起こったのかの調査にも乗り出していたのです」
「この世界に起こった異変の理由が解明してるんですか?!」
「いえ、明確な理由は分かりませんでした。ただ、調査を行った事でそれぞれの異変に対する仮説と新たな変化が発見されました」
仮説とはいえ異変に対する調査を行い一定の成果を得られている事に正直驚きを隠せなかった。
「一体それはどのような…いえ、そもそもそれって私が聞いて大丈夫なんですかね?」
昨日のミアの話に今の内容は含まれていなかった。とすれば世間に広まっていない話である可能性が高いと思われるのだが…それを今しがた冒険者登録しに来たばかりの私に話して良い内容だとは思えないのだが。
「そうですね、本来であればコレは冒険者ランクがC以上の方を対象に、口外しない事を念書に認めて頂いてからお伝えする内容なのですが…まぁ少し込み入った事情がありまして。ルナ様にこれから依頼する内容にも関わる話ですので宜しければ聞いて頂きたいと思っています」
「まぁ、話すなと言われた事をむやみやたらに口外する趣味はありませんが…」
口外はして欲しくないが、今日来たばかりの新人に伝える事は出来る。一見矛盾している様にも感じるが…背景を察するに、今はまだ世に出していないが近いうちに公表する準備がある情報と言った所だろうか。それならば私に話をしても大きな支障が無いと考えている理由としては説明が付く。そんな事を考えているとカッツェが更に話を進めていた。
「ありがとうございます。ではまず先程のお話の続きから…まず新たに発見された異変に関してなのですが、ルナ様はこの大陸が結界に覆われているのはご存じですか?」
「四海封呪ですよね?かつて外界の神やモンスターから攻め込まれていたこの大陸を守る為に、女神が東西南北に要石となる巨大なクリスタルを設置して外の世界からこの大陸を閉ざしたという。以来外界との行き来は容易には出来ない様になったと」
「ルナさんはお若いのに博識ですね…そう、その四海封呪の要となる巨大なクリスタルなのですが…現在、その全てが失われている事が判明しました」
「‼‼‼…ソレってまさか…」
カッツェの言葉に衝撃を受け思わず胸が大きく鼓動した様に感じる。クリスタルが失われたという事は結界も失われたという事。つまり我々が今居るアルゼシア大陸と外の世界に隔たりが無い状態だという事だ。だとすればそれは…
「そうです。外界とこの大陸を隔てる結界が無くなり、誰しもが大陸間を自由に移動出来る状態になっているのです。そしてそれは」「新大陸の解放だ…」
「え?」と話を遮る様に言葉を発した私にカッツェが困惑した様子でこちらを見る。
思わずカッツェの言葉を遮る様に呟いてしまった。だがしかし、先程聞かされた内容は正しくアップデートで予定されていた新大陸の開放の事では無いだろうか…?
「あ、いえ、ゴメンナサイ。何でも無いです!ビックリしちゃって!えっと、それで何か言いかけてましたよね?」
そう誤魔化すように言いながらカッツェに話の続きを促す。
「…そうですね、先程の続きですが、ギルドの調査によって女神が施した結界が失われている事が分かりました。そしてご存じの通り女神の使途の皆様は記憶と祝福を失っており、我々も女神に遣わされし使途の皆様の事を忘れてしまった。更に転移魔法は女神が大陸に張り巡らせた魔脈の力を利用して行使していたという説があります。それらの情報を掛け合わせて一つの結論が出ました」
「まさか…」
「はい…我々はこの異変の原因は女神が姿を消した為だと考えています。───神と呼ばれる存在がどういったものなのか我々には分かりかねる為、何故このような事になってしまったのかという部分に関しては分かりませんが…少なくとも、今この大陸に女神が居ないというのが我々の見解であり、異変の理由だと考えています」
確かに現在確認されている異変は全て女神に関する事だ、女神が居なくなった為に起こっていると言われれば否定する要素はない様に感じられる。寧ろ疑問はそこでは無く…
「とても重大な話だと思いますが、それを聞くと尚更そんな重大な話を私に…?」
「ルナ様からすれば最もな疑問かと思います。ここからはルナ様へのご依頼に直接関わって来る部分でも有ります。事の発端は結界の消失が判明した後でした。外界との隔たりが無くなった事で各国から外界の調査を行うべきだという声が上がったのです。表向きは外界から侵攻する勢力が無いかを早急に調査すべきというものでしたが…本音は外の大陸に有る未知の資源を手に入れたいといった所でしょう。とはいえ実際に外界からの侵攻が無いとは言えない状況ですから、冒険者ギルドとしても反対は致しませんでした。その結果、まずはという事で各国から選抜した先遣隊が派遣される事となったのです」
未知の資源が眠っている可能性が有ると考えれば、どの国もそれを求めるのは必定だろう。
「調査先が未知の大陸である事から相応に危険があると考え、先遣隊にはアルゼシア大陸に有る5つの国から各20名ずつ、100名の騎士・兵士が混成して選ばれました。外の大陸に関する情報はほぼ存在しない為、神話時代の地図を信じてアルゼシア大陸から一番近いであろう北の大陸に向けて出発したのですが…アルゼシア大陸に帰還を果たしたのはたった3名でした。その内の2名は上陸後にアルゼシア大陸には存在しない鉱石を見つけたという事で船に鉱石を運ぶために早々に本体から離れており、残りの1名は本体と行動を共にしていたけれど奇跡的に助かった兵士だそうです」
「本体はどうして全滅したんですか…?」
「…分かりません。未知のモンスターの襲撃を受けた直後に兵士は崖から落ちて気を失ったそうなのですが、目を覚まして崖を上った先には夥しい数の死体が転がっており一人の生存者も居なかったそうです。そうして命からがら船に戻り、本体の全滅が伝わった事でそのまま帰還したと…」
各国から選抜されたメンバーという事はそれなりの強さをもった人々だったはずだ。それが残らず全滅となれば外の世界はかなり危険と考えて良いだろう。しかし、今の話と私への依頼がどう繋がるのだろうか?
「痛ましいお話でしたが、今の話が私の依頼に繋がるというのは?」
「はい、一度目の調査は失敗に終わりましたが全てが失敗だった訳ではありませんでした。先遣隊が持ち帰った鉱石には途轍もないエネルギーが秘められているという事がその後の調べで判明し、各国はそれに挙って飛びつきました。そうして持ち帰った鉱石と同等かそれ以上の物が必ず有ると考えた各国は次なる調査に向けて動き出します。それは冒険者ギルドをも巻き込んだ巨大なプロジェクトとなり、遂にその日程が決まったのです」
「もしかして、そのプロジェクトに高ランクの冒険者が駆り出されているから私に依頼をしたいという事ですか…?」
高レベルの冒険者が忙しくしている所に暇そうなレベル100の新人が来たのだ。雑用には持ってこいと考えたのだろうか。ただ、それだけならばこんなに内部事情を話をする必要は無いだろうし…まだ何かありそうだ。
「ルナ様は博識な上に察しもよろしいようで…ただ、そのお答えだと半分正解、といった所でしょうか。」
やはりまだ何かあるようだ。
「先程お話しした通り高ランクの冒険者は外界調査の準備に追われており、この大陸の中央に有るルビナント帝国に集まっています。それ故、現状それ以外の国にいる冒険者は低ランクの方が多数を占めているのですが…つい先ほど、ドミネス高原の街道ににナイトメアシープが出現し、大暴れしているという報告がありました。主要街道の安全確保は国から冒険者ギルドに委託されており、直ぐにでも討伐に人を送りたいのですが…」
そこまで情報が開示され、ようやくここまでの話に繋がりが生まれる。
「ナイトメアシープを討伐出来る冒険者が今は不在で、そんな状況でナイトメアシープの素材を持ったレベル100の人間が冒険者登録に来たと…」
「そういう事になります。どうでしょう…ナイトメアシープ討伐の依頼、引き受けて頂けますでしょうか?」
ナイトメアシープの話を聞いて一つ思い出した事が有る。しかし、それをカッツェは口に出す気はないようだ。
「ナイトメアシープは基本的に番で行動する習性が有りましたよね?」
そう尋ねる私に対し、カッツェは首肯しながら「そうですね、そういう生態であると記憶しています」と返す。
そう、ナイトメアシープは本来、番で行動する事が多いのだ。そして番を失った時にはその怒りを爆発させ、手が付けられない程に暴れ出す。恐らくドミネス高原に現れたというナイトメアシープは私が倒した個体の片割れだろう。襲われた所を倒しただけなので私に責任があるとまでは言わないが、片方しか倒さずに置いて来たのも事実だ。それが分かっているからかカッツェも私が持ち込んだナイトメアシープを見ているにも関わらず何も言って来なかったのだろう。しかして関係ないと無視をするのも寝覚めの悪い話ではあった。
「因みに報酬は?」
負ける可能性は限りなく低いが、それでもリスクが有る以上報酬は重要だろう。受けるにしても受けないにしてもまずは報酬の確認をと話を振ると、意外な答えが返って来た。
「コレは先程のお話にも繋がるのですが…この依頼を無事達成して頂けた暁には、冒険者登録時のランク査定に評価として加えさせて頂きたいと思います。ルナ様は特例登録の事はご存じですか?」
聞き覚えの無い言葉に対し「いえ…」と一言で返す。
「特例登録とは、15年前に記憶を失った旧冒険者の皆様が改めて冒険者登録をする際に生まれた制度でして…記憶を失ったとはいえレベル100は愚か200を超えるような方々を一律で低ランクからスタートさせるのは人材の無駄遣いではないかという意見が多数ありまして、そういった方々の中で臨まれた人にはギルドがレベルに合わせた依頼を出し、達成出来れば高位のランクからスタート出来るようにするという制度でした」
「その特例登録を私に?」
「ランクが高ければ受けられる依頼の種類も幅が出ますし、ルナ様にとっても悪い話ではないかと思います。勿論討伐依頼そのものに対しても別途報酬の支払いは行います」
「確かに、悪くないお話ですね」
悪くはない話ではある…確かにランクが高くて困る事は無い。とはいえ現状急いでランクを上げる理由もないのである。その為どうするか思案しているとカッツェが小声で話し始める。
「因みにですが、外界調査のメンバーを選定する最終選考は1年後に行われます。選考に参加する資格はAランク以上である事なのですが…先程外界のお話をした時に強い関心を持たれていた様なので、もしも外界調査に興味が有るのであれば…」
先程から平静を装っていたがルナの心は大きく揺れており、どうやら見透かされていた様だ。
あの日迎えるはずだったアップデートと解放されるはずだった新大陸。最早それがどんな内容だったのか知る術はないと思っていたが…選抜隊のメンバーに選ばれれば目にする事が出来るかもしれない。最終選考までの1年で何処までランクを上げる事が出来るかは分からないが、今回の依頼を成功させればある程度高いランクからスタートする事が出来る。であれば、間に合う可能性はあるだろう。そう考えた瞬間ルナは「分かりました、その依頼受けさせて貰います」と力強く返答していたのだった。
この度は私奴の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。
本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら
・ブックマークへの追加
・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価
等をして応援して頂けると、作者の力になり励みになります。
何卒宜しくお願い致します!オナシャス!




