柔らかな日差しの中で
コレは百合なんだろうか。
作者にも分かりません。
明くる朝、とても柔らかな感触に包まれているのと同時に呼吸を妨げる何かに息苦しさを覚えルナは目を覚ます。とはいえ相変わらず寝起きはよろしく無いため、目覚めてはいるものの目も開けられぬまま身じろぎもせずにボーっとしていた。
(何だか良い匂いがするなぁ…)
などと寝ぼけた頭で考えていたが、何やら自分以外の寝息が聞こえるのと自らの体がガッチリと拘束されている事に気が付いた。もしやと思いその拘束を振り解き顔を上げると、自らの胸に私の顔を挟み込み抱き枕にしているミアの姿があった。
「ぅえっ?!」
突然の事に奇声を上げてしまい、その声と動いた拍子でミアが目を覚ます。
「ふあぁ〜、あ、ご主人さまぁ、おはようございますぅ」
そう言いながら体を起こし、ミアは寝起きとは思えぬ花が咲いた様な笑顔をコチラに向けてきた。
「あ、うん…おはよう…何時から居たの…?」
「ご主人様がお部屋に戻られた後、私もお部屋で休んでたんですけどぉ…起きた後にまたご主人様が急に居なくなったらって思いが頭に浮かんで眠れなくなっちゃって…それでご主人様のお部屋に来たらもう眠っていたので、一緒に寝ちゃいましたぁ」
そうにこやかに話す様子に何も言えず、「そ、そうなんだ」と返すのが精一杯だったのだが、そんな私の戸惑い混じりの返答に対して不安を覚えたのか表情を曇らせながら「あ…疲れてるのにグッスリ眠れなかったですよねぇ…ごめんなさいご主人様…」と消え入りそうな声で呟く。
先程までそこにあった花の咲いた様な笑顔は、萎んで枯れ落ちた花弁の様に儚く散っていた。そういう事では無いのだけれどと思いながらも、何と説明すれば良いのかと考え思わず言い淀んでしまう。
そんな私の反応に益々不安になったのかその表情は更に曇り今にも泣きだしそうにも見えた。すっかり落ち込んでしまったミアを安心させる為、「ミア」と一声かけながらその顔に向けて徐ろに手の伸ばす。そうして窓から僅かに差し込む朝日に反射し、美しく輝く銀髪を優しく撫でながら笑顔で話しかける。
長命種はその長すぎる寿命によって精神が摩耗しないように肉体の成長以上に精神の成熟に時間を掛ける。しっかりもののミアではあるが精神年齢的には10代半ばに届くかどうかであり、やはりまだ相応の子供っぽさもあるという事だろう。
「大丈夫、朝まで1回も目が覚めなかったし、グッスリ眠れたよ。それよりミア、朝ごはんにしよう」
そんな私の態度と言葉に安堵したのか、再び満開の笑顔を取り戻したミアが「じゃあ、ご飯の準備をしてきますね!」と言いながらベッドから跳び起きる。そうして勢いよく部屋から出ていこうと所でその動きをピタッと止め、「ご飯が良いですかぁ?パンが良いですかぁ?」と真剣な表情で聞いてくる。
その様子が可笑しく「じゃあご飯でお願い」と笑いながら伝えると「分かりましたぁ!」と元気に返事をして部屋から飛び出していった。
そんなミアの様子を微笑みながら見送ると同時に、自分の中に何とも言えない温かい感情が胸を占めているのを感じた。それは異性に感じる類のものではなく子供に抱くような…そう、母性の様な。美少女が添い寝している状況で異性として意識するのではなくそういう感情が胸を占めるというのは、或いはこのルナという肉体に精神が引っ張られているのかもしれない。
「精神は八神葉月のままのつもりで居たけど…もしかしたら何かが違っているのかも知れないな…」
水槽の中の脳では無いが…何処までが現実で何処までが虚構なのか今の自分に確かめる術はない。自分の物だと思っていた今の人格は本当に自分のものなのだろうか。そもそも八神葉月とは何なのか。そんな考えが頭に浮かび一瞬思考の渦に飲まれかけたが…かぶりを振ってその考えを斬って捨てる。
「ヤメヤメ、そんなこと考えても仕方なし!」
そう自分に言い聞かせる様に敢えて大きな声を出しながらベッドから抜け出すと、そのままクローゼットを開く。中には部屋着が何着か入っており恐らくミアの趣味であろうと思われるちょっと可愛らし過ぎる洋服が並んで居た。とはいえ私が何時帰って来ても良い様に衣装の入れ替えを定期的に行ってくれていたであろう事を考えると無下にも出来ず、家の中で着るだけだしいいかと割り切り着替えを済ませる。
「さて、朝ご飯まではまだ時間もあるだろうし…先に工房で用事済ませてしまおう」
寝室は2階にあるため階段を降り1階の洗面所へ向かう。洗顔と歯磨きを済ませた顔を拭いている際に、洗面台にある化粧水や乳液等が目に入る。
「『アビスゲートオンライン』の時は流石にこんなの無かった気がするけど、やっぱり色々と変わってるんだろうな…」
小さな変化に改めて現実感を覚えると共に、もしも一生この体のままだとしたらこういうのも必要になるんだろうか…等と思い至る。とはいえ引き籠りの男がそんなものを意識した事が有る筈もなく如何せん何の知識もない。それ故問題は棚上げにし「今度ミアに聞いてみよう」と独り言ち洗面所を後にする。そうして台所に居るミアに「工房に居るからね~」と声を掛けながら玄関に向かい、「は~い、後20分位で出来ますからねぇ」という元気な返事を貰って外に出る。
離れにある工房の扉を開けると中は静まり返っており、その静けさが目的の物が出来上がっている事を教えてくれる。生成装置の前まで行き、「よっと」と声を出しながら装置の扉を開くと、そこには一組のの防具が出来上がっていた。
そこにあったのはフリルの付いた薄ピンクのチュニックワンピースと肩当と短めのマントが付いた白色のサーコート、そして金色の金具が付いた白いショートブーツであった。その出来栄えは最高級素材を…オリハルコンだのカシミヤだのミスリルだのぶち込んだだけあって素晴らしく、光り輝いている様にすら見える。いや、むしろ物理的に光ってるかもしれない。正しく文句なしの成功作…ではあるのだが…
「白いサーコートは良いとして…チュニックはチュニックワンピースでしかもピンク…オート作成の悪い所が出たぁ…」
そう、オート作成の最大の問題点。それは『デザインを決められない』という部分である。
付与したい能力を入力し算出された必要素材をセットしスイッチオン。それでアイテムが作れるのはとても便利な仕様なのだが…デザインに関しては大まかなキーワードしか入力出来ない。今回で言えば『サーコート、チュニック、靴』と入力し、後は身長等をスキャンした後サイズを合わせて自動作成される。そうして出来上がった結果がコレである。
「とはいえ、マニュアルで作れないんだから文句を言っても仕方ないか…裁縫で手作りとか無理ゲー過ぎる」
自分の能力が足りていない結果である以上、文句を言っても仕方ないと考え、出来上がった防具の性能を確認する事に気持ちを切り替える。
「防具の名前は…白桜のサーコート。白桜って確か白い桜の事だったような?」
白桜はその名の通り本来は白い桜でピンクでは無いはずだが、なぜピンクのワンピースなんだと再び恨み言が出そうになるのを堪える。
「防具の効果は…よし、こっちは大丈夫みたいだ」
見た目のイメージは想定と違ったが、付与したかった能力が予定通り全て付いている。性能的にはこんな感じだ。
△▼△▼△▼△▼△▼
装備品:白桜のサーコート
防御力:100
ステータス上昇:無し
物理耐性:0%
魔法耐性:0%
特殊効果:『半死半生』─全ての攻撃に対する耐性が0%になる代わりに全てのダメージが半減する。
特殊効果:『自己再生』──何らかの要因で破壊されたとしても自動的に修復される。汚れ等もダメージとして破堤され自動で綺麗になる。
△▼△▼△▼△▼△▼
基本的な防御力は高いがステータスに対する補正は無く、物理・魔法に対する耐性も0でどんな攻撃も素通りで喰らうという最高級素材をぶち込んだとは思えない性能になっているが、その理由は特殊効果にほぼ全てのリソースを注ぎ込んだからである。
『半死半生』──これはあらゆるダメージをカットしない代わりに、攻撃を喰らった後の結果を『改変』する能力だ。例えば絶対に一撃で胴体が泣き別れになる攻撃を敵が使ってきたとしても、泣き別れするはずの胴体が半分繋がったままになる。炎による攻撃であればウェルダンを通り越して消し炭になるような攻撃でも、ミディアム位で収まるという代物だ。
アクセサリーに付与した苦痛耐性と合わせて、死んだら終わりのこの世界では絶対に欲しいと思った能力でもある。無事付与されていて本当に良かった。
その出来栄えに「~♪」と鼻歌交じりに防具を眺め始める。こうなると最初にデザインに対する不満を言っていたのは何だったのかというほど上機嫌であり、結局能力さえ良ければ何でも良いというのが本当の所なのだろう。
そうして満足げに防具をマジックバッグに収納すると、工房の明かりを消し家の中へと戻っていく。家の中に入る為ドアを開けるとその音でミアが気が付いたのか、開くとほぼ同時に「ご主人様ぁ~ご飯の支度出来ましたよぉ」と声が聞こえてくる。
(耳が長い分、聴力が良いのかな…)
等と考えながら、手を洗い台所に向かうとミアがテーブルに座って待っていた。すると余程顔に出ていたのかミアが「ご主人様嬉しそうですねぇ、良い事ありましたかぁ?」と尋ねてくる。特段隠すものでもない為、「うん、新しい防具が出来たんだ」とホクホク顔で伝えると「ご主人様らしいですねぇ」とミアが笑う。
そんなに分かりやすいかなぁと思いながらテーブルに視線を向けると、そこには白米に焼き魚と目玉焼き、お新香にお味噌汁という和食の定番と言える朝食が並んでいた。「美味しそうだねぇ」と言いながら席に座ると、「冷める前に食べましょぉ」とミアに促され、昨日と同様に「「いただきます」」と声を合わせて食べ始める。
湯気の上るお味噌汁に手を伸ばし、口をつける前にふーっと息を吹き掛ける。猫舌なので冷ましてから飲もうとしたが一瞬手を止めはたと考える。果たしてこのルナとしての肉体でも猫舌なのだろうか───気になる所では有るが、試して熱い思いをするのは真っ平御免なので普通に冷ましてから飲むことにした。味噌の香りが鼻に抜けるのと同時に、喉を通って胃に達した汁が温かく染み渡る。この世界には日本食が在るというのが本当に有り難い限りである。
「やっぱり朝ご飯は和食だねぇ…卵焼きじゃなくて目玉焼きなのも嬉しいところだし」
「ご主人様は目玉焼き好きですからねぇ、喜んで貰えたなら何よりですぅ」
そんな会話をしながら、ふと過去を思い出し懐かしい気持ちが蘇る。『アビスゲートオンライン』でも料理は存在していたしそこで食事をミアが作ってくれるのは以前からの事ではあったのだが、だがそれはやはりゲームとしての事だ。今の様に胃が温かくなる感覚までは再現されていなかったし、何処まで行ってもゲームはゲームだった。しかし今はこうして本物の朝食が食卓に並んでいる。誰かが自分にご飯を作ってくれるという経験は母が存命だった頃以来だった。
そんな事を考えている、ミアから「それで、ご主人様は今日はどうするんですかぁ?」という言葉が飛んでくる。
「あぁ、うん。取り敢えず、昨日ミアが勧めてくれた通り冒険者ギルドに行って登録して来ようかな。買い取って貰いたい素材もあるし。それ以外は今の所何にも無いけど…」
強いて言うなら15年経過した王都の街並みを眺めたり、外に行ってモンスター相手に訓練する位だがどちらも急ぎの話では無い。なので素直にそう伝えると
「それじゃあお昼ご飯も一緒に食べられますねぇ」と満面の笑みで言って来た。帰って来ると伝えただけでこれだけ喜んでくれるのはミアの元々の性格の良さか15年分の反動か、或いはその両方か。
「うん、お家で食べるから支度をお願いします」
「分かりましたぁ、食べたいものはありますかぁ?」
「ミアが作ってくれるなら何でもいいよ。さてと、ご馳走様」という言葉に「何でもいいが一番困るんですよぉ」という声が聞こえたが、苦笑しながら食器を片付ける。
そうして歯磨きをした後部屋に戻り、先程出来上がったばかりの防具に着替えて玄関へ向かう。
「あ、それが新しい装備ですかぁ。かわいいデザインですねぇ」と意図せず出来上がったデザインに対する感想を述べられ思わず苦笑いしていると、続けざまに「ご主人様、迷子にならない様に気を付けて下さいねぇ」との声が聞こえる。
「流石に迷子にはならないよ」と苦笑したまま返答するも「でもご主人様ぁ、15年も迷子だったじゃないですかぁ」という痛烈なカウンターを喰らい思わず渋面になる。
「ウソウソ、冗談ですよぉ。ご主人様がお出掛けして寂しいので、ちょっとイジワルしただけですからそんな顔しないでくださいなぁ」と言いながら頭を撫でてくる。予想外の行動にハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしていると、「朝のお返しですぅ」とニッコリ笑いながら言い放つ。
完全に手玉に取られ両手を挙げて降参の構えを取りながら「参りました…じゃあ、行って来ます」と切り出す。そんな姿にミアは更に笑みを深めながら
「はい、お気をつけてぇ。行ってらっしゃいませぇ」と送り出すのだった。
外に出ると強い日差しが降り注いでおり、その日差しから逃れる様に後ろを振り返る。すると玄関の中から笑顔で手を振るミアの姿が見え、手を振り返しているうちに玄関の扉は徐々にしまっていく。その姿が完全に見えなくなった事でルナは再び視線を正面へ向け、目的の冒険者ギルドへとその歩を進めるのだった。
この度は私奴の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。
本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら
・ブックマークへの追加
・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価
等をして応援して頂けると、作者の力になり励みになります。
何卒宜しくお願い致します!オナシャス!




