目覚めし世界は
初投稿作品です。
お見苦しい点も多いかと思いますが、広い心で読んで頂ければ幸いです。
太陽の日差しが降り注ぐ草原の真ん中で、一人の少女が眠りについていた。
その見目は美しいと断ずるに値するものであり、目鼻立ちの整ったその顔に対して美醜いずれかと問えば百人中百人が美であると答えるだろう。ただその上品とも言える顔立ちに反する様に、受ける印象は淑女然としたものではなく溌剌としたものだ。
少し赤みがかった長髪を後ろでの高い位置で束ねたその姿は上品さよりも活発さを感じさせる。それが受ける印象変えている理由の一つだろうか。…よくよく見れば女性らしい凹凸にやや持って欠けたその痩身がよりボーイッシュな印象に拍車を掛けているようだ。
そんな少女の周囲には草花が咲き乱れ、小高くなった丘からは心地好い風が吹き付ける。その風が頬に当たり、少女は深く沈んでいた意識を取り戻しその大きな目をゆっくりと開いていく。
『……ん……ここは…?』
頭は酷くぼんやりとしており、体にも上手く力が入らない。
体に感じる気怠さを理由に再びまどろみの中に落ちてしまおうか…そんな衝動に駆られながらもなんとか体を起こし周囲に目を見遣る。
その漆黒の瞳の先には見渡す限りに青々とした緑が広がり、それを彩る様に花々が咲いている。そんな彩り溢れる自然の中に自分が居るという事は理解出来たが、得られた情報はそれだけだ。
ここが何処なのか、何故自分がこの場所に居るのかという疑問の解決には至らない。
霞掛かった頭のせいで思考も纏まらず、暫し口も半開きのまま呆けて居たが少しずつぼやけた頭が回り始めてきた。
『ええと…さっきまで家でゲームをやっていたはずだよね…?』
確か自分は自宅でゲームをやっていた、いや、やろうとしていたはずだ。
『今日は大型アプデの日で、アプデが終わって即起動した。そこまでは間違いない…』
自分の直前の記憶をなぞる様に独り言つ。
そう、自分はゲームをやろうとしていた。それは間違いない。
ゲームを起動しログイン画面から仮想領域にフルダイブするロード画面が視界に表示され、一瞬のブラックアウトの後ゲーム内にログイン出来る。そうなるはずであった。
しかし、今回に限ってはゲームを起動した瞬間に意識を消失、気が付つけばこの草原の真ん中に居た…ということになる。
突然の状況による混乱もあるが、それを抜きにしても何処か体に異変を感じる。体は鉛のように重く、霞掛かった頭も目覚めてから多少時間が経過したにも関わらず判然としないままである。
それでも状況把握に努めようと、改めて周囲に目を向けると自分の周囲に広がる風景には見覚えが有る気がしてきた。
『ドミネス高原…?』
そこに広がる景色は、ゲーム内にある高原エリアとそっくりな様に見えた。ゲームを起動した後だという事を考えれば当然ゲーム内の何処かのエリアであるはずだが、直ぐにその可能性に至らなかったのは奇妙な違和感を感じたせいであった。
しかし違和感は感じつつもその正体が分からないため、何故自分がここに居るのかをという部分に焦点を当てて思考を巡らせる。前回ログアウトした場所は確実にこのエリアでは無かったが、ゲームを起動し気が付いた瞬間この場所に飛ばされていた。つまりはプレイヤーを驚かす類のイベント…いや、アプデ直後という事を考えれば今回のアプデに関わる運営イベントなのだろうか…?
このパターンは記憶にないが、運営主催のサプライズイベントは確かに過去にも何度かあったし、今回もその一環かもしれない。
だが───やはり何か…何かがおかしい、そう考え改めて周囲を見渡した事で先程から感じていた違和感の正体に漸く気が付く。
そしてそれは先程自ら導いた結論を自らで否定する事でもあった。
『景色…綺麗過ぎる…』
そう、今自分が目にしている風景、その映像が鮮明過ぎる。ゲーム的に言えば、解像度が高過ぎるのだ。
自分がプレイしていたゲームはフルダイブ型VRゲームである。フルダイブ型を謳っているだけの事はあり、VRゲーム内の映像解像度は高く、視覚は勿論のこと味覚や嗅覚も高いレベルで再現されている。
しかし、その再現度はあくまでゲームとしては、というレベルでの話である。
それら五感に関する没入度が余りにも高くなるとゲームをゲームとして脳が判別出来ず、ゲームと現実の境目を脳が判断出来なくなるという弊害が起こり得る。その為、日常生活で様々な悪影響を及ぼす事の無いように敢えて解像度や再現度を下げているのだ。
しかし、今自分の目の前のにある風景…手に触れる土の感触や風に乗って漂う花の香り。五感を刺激するその全てが余りに現実感に溢れている。
『アップデートで五感の再現度が限界値まで上がった?
──でも、流石にそんな重要な事を事前告知も無しに…?』
現実と錯覚するレベルまで五感の再現度が引き揚げる等あり得るのだろうか、しかも何の通知も無く。
混乱と同様の最中において、それでも状況の把握に努めようとしていた少女に対して突如抗いがたい睡魔…否、睡魔とは違う暴力的なまでに意識を刈り取る何かがその身に襲い掛かる。
「うっ…くぅ…」
こんな訳の分からない状態で意識を失うわけにはいかない…!
そう考え、呻き声を上げながら何とか倒れまいと必死に両の手で体を支えようと試みる。しかしそんな少女の抵抗を嘲笑う様に意識は遠のき、精神と肉体が分断されたような感覚を味わいながら、その体を地面へと投げ出す。
襲い掛かった異変は少女の意識を深い場所に沈め、先刻目を覚ます切っ掛けとなった風の囁きも届かない。
そんな少女を遥か遠くから見つめる影が一つあった。感情を感じさせぬ双眸を携えたソレはまるで少女が眠るのを待っていたのかの様に、ゆっくりと近づいてくる。
歩む速度は変えずに悠然と、しかして真っすぐと少女に向かい来るその気配は、全身から溢れ出す濃厚な『死』の香りを纏わせていた。
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