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  作者: 埴輪庭
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ジャハムの体調はどんどん良くなっていった。


といっても、元気だった頃とは比べるべくもない。


しかし、家にいた時は歩くにしても息を切らしながらよろよろとしか歩けなかった事を考えると大分回復したと言える。


そうなると欲が出てきた。


イリスがどうしているか、元気にしているか、落ち込んではいないか、せめて一目だけでも見たいという欲だ。


家は質素なものだが、しっかり日を取り入れられる様に木窓がある。イリスの寝室の窓──……そこから孫が見られるかもしれないとジャハムは考えた。


ジャハムは決して目的の為に手段を選ばないといった気質ではないのだが、今はそうも言ってはいられなかった。


例え今体調が良くとも、明日はどうなのだ?


明後日は?


10日後は?


来年は?


燃え尽きようとしている蝋燭は最後に明るく輝くという。


自分はまさにそれなのではないか?


ジャハムの胸中にはそんな思いがある。


そしてジャハムはもう少し回復を待ち、山をおりる事を決めた。



ギドやアンナ、村の者に見つかっては事だと言う事くらいはジャハムにも分かっている。


だから夜を待っておりることにした。


山に捨てられてから何日経ったか定かではないが、ジャハムは既に夜目に慣れているため暗くても問題はない。



夜半。


月は出ていたが、夜雲は厚い。


山をおりる中、ジャハムの胸中に不安、不穏、不信の暗雲が立ち込めて行く。


──あの時


ジャハムが山に行くと伝えた時、ギドの表情はどうだっただろうか。


ギドはジャハムを山に送り届けた時、は何か感情を押し殺そう、押し隠そうとしていた様に見えた。その感情はどういうものだったか……


相手が自身に抱いている感情というのは、その正確なところまではわからなくとも、ある程度まではなんとなく察する事ができる。もちろん単なる思い込みである事も多いが。


ジャハムはギドやアンナに対して「悲しんでほしい」だとか「申し訳なく思ってほしい」だとかは考えていないが、状況を考えればそういう感情が浮かんでくるというのは自然なことだと考えていた。


しかしジャハムがいくら思い返してみても、ギドが自身に対して向けているであろう感情に、そういうモノが含まれていなかった様な気がしてならない。


ジャハムはそれが良いとか悪いとかを論じたいわけではない。しかし、それは "不自然" なのだ。


そこに思い至った時──……ジャハムの胸中の不穏の黒雲がぶわりと膨らんだ。



村は夜陰に抱かれ、すっかり寝静まっていた。


ジャハムは物音を立てないように家に向かって歩を進めていく。


暗がりの中に見慣れた家が浮かぶと、ジャハムの胸中の黒雲はより大きく、そして色濃くなってきた。


逸る気持ちを抑え、ジャハムは窓に近づいてそっと静かに、ゆっくりと木窓を開けると。


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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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