表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 埴輪庭
2/9

 ◆


 ある日、長らく便りが無かった義娘の姉がその夫を連れてやってきた。


 彼らの名前はアンナ、そしてギド。


 彼らは亡くなった妹……つまりジャハムの義娘に代わって姪の面倒を見る、と言った。


 ──葬儀の便りも無視をしたくせに、今更何を


 ジャハムはそう思ったが、「あるいは親族が死んだ事で改心をしたのかもしれない、それに孫には母親が必要」だと考えたジャハムはその話を受け入れた。


 ・

 ・

 ・


 二人がやってきてから暫く経つと、ジャハムは彼らを疑ってしまった事を恥ずかしく思った。


 アンナは甲斐甲斐しく家の事をこなし、ギドも木こりの仕事に手を付けて家に安定した金を入れてくれる。


 ジャハムの職人としての稼ぎはかなり良いものではあったが、性質上安定しているとは言えず、また年齢の事もあってアンナとギドの存在はとてもありがたかった。


「私たちの事を息子、娘だと思ってくださいね。もう家族なんですから」


 アンナとギドの心遣いに、ジャハムは嬉しくなり、新しい家族と頑張っていこうという思いを強く抱く。


 ジャハムとしても肉体的にかなり楽になった筈だった。


 だというのに──……


「大丈夫かい?義父さん」


 ギドが心配そうにジャハムに言う。木工仕事の最中、急に胸が苦しくなってその場に倒れたのだ。


 気付いた時は寝台に寝かされており、ジャハムは荒い息をつきながら顔を顰めた。


 胸がまだ痛むのだ。


「イリス、義父さんが起きたよ」


 ギドが扉の向こうに向けて言うと、イリスが恐る恐る扉を開き、ジャハムを不安げに見た。


 ジャハムは胸の痛みをこらえ、無理に笑顔を浮かべてイリスを安心させようとする。


 するとイリスもおずおずと笑顔を浮かべ──……ジャハムはまだ死にたくないと強く思うのだった。


 ◆


 ジャハムの願いとは裏腹に、体の調子はどんどん悪くなっていく。


 咳込んだ拍子に抑えた手に赤いものがつく事も珍しくない。


「義父さん、しっかり食べて早く元気になってくださいね。大丈夫ですよ、しっかり精をつければすぐによくなりますから」


 アンナはそう言いながら、寝台から上半身だけ起こすジャハムに木椀に入った粥を手渡す。


 それを震えた手で受け取るジャハム。


 もはや木の椀ですら重く感じるほどにジャハムは衰えていた。


 それともう一つ。


 ジャハムが体調を崩してから、奇妙な夢を見る様になった。


 ・

 ・

 ・


ジャハムは真っ白な空間にぽつねんと立っている。


空は白く、地も白い。


壁というものがあるのかどうかは分からないが、とにかくすべてが真っ白なのだ。


しかし、この真っ白で奇妙な空間に他に何も見当たらないというわけでもない。


ジャハムがこれまで作ってきた作品の数々が無造作に地面に転がっていた。獣の人形、木棚、食器……色々ある。その中で、男の人形と女の人形、そして女児の人形がジャハムの意識をとらえて離さない。


頭の中に霧がかかっているようで、妙に茫とする。


しかしジャハムにはそれらの人形がとても大切なものであると分かっていた。


「やあジャハム」


背後から声がする。


ジャハムが振り返ると、そこには黒い僧衣を纏った男が切り株に腰を掛けていた。土もないのに、切り株の根本は地面に根を伸ばしている様に見える。


禿頭で痩せぎすの中年だ。


不穏と不吉、厄が人の形を取っている様にジャハムには見えた。


「今はまだ声も出せないでしょう。だから一方的に話します。いつだったかあなたは──……そう、息子さんと義理の娘さんが亡くなった時、"神はいない" と思ったはずだ。だがそれは間違っています。神はいるのです。何人もいる。まああなたの考える様な都合の良い神じゃあないですけれどね」


「そして神がいるなら勿論悪魔だっている。どいつもこいつも人間を玩具だとしか思っていない様な奴らばかりです。しかし!安心してください……()()大切に扱う方ですから。遊びというのは両者の協調がなければ楽しくないですからね。だから私は()()()()()()()()()()人間を見つけたら、ちゃんと意思を確認するのです。そうして遊び仲間を増やす……」


「遊びたい者だけが私と話せる。あなたはまだ遊びたいわけじゃなさそうですが、なぁに、いずれはあなたも遊びたくなるでしょう。分かるんです。私には分かる……私はアモン。マルケェス・アモン。いずれまた会いましょう。人と魔の、その境で」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ