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  作者: 埴輪庭
1/9

 ◆


 左手に槌、右手にノミを握った老人が無表情で床を見下ろしていた。


 床には男と女が並べられている。


 死んでいるのだろうか?


 いや、生きていた。


 双方とも両の目をカッと見開き、微動だにしていないが呼吸はしている様だった。


「動けんじゃろう?」


 老人がぽつりと言った。


「魔術だなんだと、儂には良く分からん。じゃがな、お主らは儂の作品の "素材" じゃ。素材は勝手に動かないからの。だからお主らは動けない。そうなっておる。"仕事"が終わるまでは、何が起ころうとお主らは動けんのよ。儂にはそれが何となくわかるのじゃ。儂はの……」


 そう言って、ジャハムは言葉を切った。


 そして震える。


 皺だらけの顔全体を引きつらせて震える、震える、震える。


「儂はの……お主らを殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて仕方がない」


 じゃがの、とジャハムは続けた。


「殺さないでおいてやる。死んでしもうたら、たった一度しか苦しめないじゃろ?」


 ジャハムはニタリと笑い、ノミを男の胸にあて、槌を振りかぶり、叩きつけた。



 ・

 ・

 ・


 ◆


 とある村にジャハムという齢70を超える老人が居た。


 彼は優れた木工職人だった。


 例えば人形、例えばミニチュアサイズの家、例えば家具──……その手は木材から様々な物を造り出す事が出来た。


 普段は口数も少ない彼だが、イリスと言う名の幼いの孫娘の前では表情が綻ぶ。


 イリスには両親がいなかった。


 流行り病で死んだのだ。


 ジャハムと生前の二人の関係は良好で、息子の嫁……つまりジャハムの義理の娘は彼をまるで本当の父の様に慕ってくれていた。元の家族との関係が余り良くないという部分も大きかったのかもしれない。しかしジャハムはこの娘も自身の本当の娘のつもりで接していた。


 だからこそ二人が病に倒れた時、可能な限りの手段を尽くして薬や医者の手配をしたものの、祈念虚しく二人はそのままこの世を去った。


 ジャハムは泣きに泣いた。


 幼い孫は生きているという"救い"があったからこそ、泣く余裕があったのだ。


 もし孫さえもいなければ、ジャハムはなく気力どころか生きる気力さえも失い、自死していたに違いない。


 ジャハムは誓った。


 神にではない。


 彼の信仰心は二人の死と共に枯れ果てた。


 この世界に神はおらず、いるのは悪魔だけだとジャハムは考える。


 ジャハムが誓った相手は、この世を去った息子、そして義理の娘にだ。


 ──イリスは儂が立派に育てる。だからお主らは安心して休んでおれよ



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まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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