おまけ・元王子様と過ごす日々 4
最後のほうは異界はただの散歩コースと化してしまい、デートしてくるからおまえたちは離れて歩けとユリウスが護衛役を遠ざける始末だった。
年寄りの我儘に若者はハイハイと従って、離れた場所からふたりを見守ってくれていた。
清乃はいつものように魔女たちに挨拶する。
『こんにちは。みんな元気?』
『元気だよ。死んでるけど』
『そうだね』
『あのひと、前にキヨと喋ってた亜麻色の髪のひとね、最近見なくなったよ』
『あら』
『おい、聞いたか。一体減ったらしいぞ。帰ったら報告しておいてくれ』
『了解でーす』
老人のデートに付き添う若者の返事は軽い。
『緊張感がないな。それくらいなら護衛なんかいらないから帰れ』
『勘弁してくださいよ。ユリウス様とふたりきりにしたらキヨノ様が危険です』
何言ってんだこいつら。
『オレの歳を考えろ』
『下心しかないくせに』
「なんかもう通うのも面倒だし、そろそろこっちに家が欲しいよね」
アホな老人と若者のやりとりは無視して、清乃は清乃で勝手な話を始める。
「それもいいな。適当な場所に拠点をつくるか」
「ね。大きいのはいらないな」
学生時代に住んでいたような、小さなアパートの一室でいい。
六畳だと狭いかな。八畳の部屋ひとつに、それぞれ独立したバストイレキッチン、洗面台があれば充分だ。
「掃除が大変だから」
「そういうこと」
つらつらとどうでもいい話をしながら、ゆっくりと足を動かす。
最初のうちはユリウスの腕に掴まっていた。
そのはずだ。支えがないと歩くのがしんどくなってきていたから。
小さな石にも躓く清乃を、ユリウスが支えてくれていた。
でもあるとき彼女は何かに気を取られ、そちらに意識を持っていかれてしまった。
気づいたときには清乃はひとりで歩いていた。はぐれちゃったか、と呟きながらひとりで家に帰ったのだ。
小さな一Kに戻って、ユリウスが帰ってくるのを待つことにした。
道に迷っているのかな。
でもまあ、小さな子どもではないのだし、放っておいても大丈夫か。
のんびり本を読みながら帰りを待っていればいい。
どうせまたすぐ会えるのだ。
こんな日に読むのは、長編歴史小説がいいかな。
だいぶ前に読破したきり開いていないものが本棚にある。
今なら読み返す時間はたっぷりある。そうしよう。
ベッドに寝転がって、好きなだけ読書タイムとすることにした。
ずっと同じ姿勢でいても平気だ。お腹が空いたタイミングで立ち上がって伸びをすれば、それだけで凝った身体はほぐれる。
冷蔵庫の中にあったうどんを茹でて適当な野菜と卵を入れて、一人暮らしの学生らしい食事とする。
外が暗くなったなと思ったら電気を消して眠ってしまう。
朝起きたら、歳を取ってから新たにできた習慣の、紅茶を一杯、の時間を経てから昨夜の続きのページに取り掛かる。
大学は夏休みか何かだっただろうか。アルバイトは?
全部休みにしたんだっけ。
とりあえず続きを読みたい。読もう。
二度目のはずなのに、内容を覚えていない。二度楽しめる。得した気分だ。
「キヨ、オムライス食べたい」
「えー? 卵あったかな」
居候の要求に、清乃は仕方ないなあとベッドから立ち上がった。
彼はいつの間に帰ってきていたのだ。
本に集中し過ぎていたのかな。気づかなかった。
「あるみたい。作って」
わざわざ冷蔵庫の中身を確認してまで。
期待にキラキラ輝く顔を見たら、面倒でも作るしかなくなるのだ。
「はいはい」
「食べ終わったら入れるように風呂掃除しておく」
「えらい。たのんだ」
オムライスなんて、自分のためだけには作らない。
ユリウスが喜ぶと分かっているから、面倒でも作るのだ。栄養バランスも考えて、野菜スープも一緒に用意する。
「そうだ。この味だ。すごいな、ちゃんと分かる」
「何言ってんの」
「美味しいって話」
「そう。よかったね」
「うん」
食べ終わったらユリウスが食器や調理器具を洗ってくれる。
清乃は本を読みながら皿洗いが終わるのを待ち、風呂に入る。
入れ違いでユリウスも入浴を済ませたら、後はふたりとも自由に過ごして適当な時間になったら電気を消す。
いつも通りだ。
いつも通りに寝ようとしたら、床に敷いた布団の上からユリウスがベッドの清乃を見上げて、何気ない口調でこんなことを言い出した。
「そっちで一緒に寝ていい?」
「いいわけないでしょ。子どもはさっさと寝な」
「子ども」
「未成年でしょ」
「………………おやすみなさーい」
カーテン越しに陽光を感じたら起き出して、簡単な朝食を食べる。
予定のない日は部屋で本を読んでいたいと言う清乃の希望を、ユリウスは尊重してくれる。
何日も何日も。
何日目か数えてはいないが、同じような日々の繰り返しに、ユリウスが爆発した。
「今日は外の探索をする! 予定ができた。行くぞキヨ。立て」
「えー……」
そんなふうにしてユリウスに手を引かれて嫌々外に出る日もあった。
たまに会う魔女に挨拶をしたりもした。
「今のが誰かは、覚えているのか」
とユリウスが訊くから、何を今更、と清乃は首を傾げる。
「魔女でしょ? 名前は自分でも忘れちゃったらしいけど」
「キヨは今何歳?」
「ハタチだよ。まだ疑ってるの? 免許証見せてあげたでしょ」
「そうだったな」
ユリウスが困った顔で、だけど優しく笑う。
「どうしたの?」
「ううん。そろそろ帰ろうか」
「? うん」
少しずつユリウスが距離を縮めてくる。
料理を教えてくれ、とキッチンに立つ清乃の真後ろで手順を見ている。危ない。
ベッドに寝転がって本を読む清乃の横に無理矢理割り込んで、同じ姿勢で本を読もうとする。狭い。
眠い、もう寝る、と勝手に電気を消して、両腕の中に清乃を抱えて眠ろうとする。寝苦しい。
最初は抵抗していた清乃も、おやすみ、と額にキスまでされる頃には慣れてしまってはいはいおやすみ、と言うだけで済ませるようになった。
シリーズについて
タイトルは一作目と同じ。
主人公の成長物語のつもりで書き始めました。
思ったよりも成長著しく、結局王子と恋愛するまでに。
でもおかしいな。片付けもできる子になってるはずが、そこはあまり成長せず。人間そう簡単には変われない、ということで。
『王子様の無駄遣い』について
ズボラ女子と、王子様扱いされない王子様の話。ならこんな感じかな、とタイトル決定。
サブタイトルをカタカナ英語で統一しようと決めて3話目くらいで早くも後悔。
この主人公、絶対王子と恋愛とかしないな、と思いながら書いた話です。
『王子様の独り言』について
内容そのままのタイトルです。
『王子様の棲む処』について
色々違い過ぎて同じ人間じゃないみたい、という主人公の思考から『棲』の字に。
サブタイトル中国語は無謀過ぎるかと、せめてものこだわりで漢字で統一してみました。
前作の反省を活かしきれず、登場人物が多くなりすぎて作者本人が混乱。
『王子様と過ごした日々』について
内容そのままのタイトル。サブタイトルも内容そのまま。
短編集のつもりが全然短編じゃない長さの話ばかり…。
半分書いたくらいで、あれ?これメインのふたりがこのまま終わったら全然ハッピーじゃないエンドにならない?と気づきました。
気づくの遅いな、でも気づいちゃったから、ふたりにはもっと振り切っていちゃいちゃしてもらおう、と方向性を少し変えてみることに。
最初から決まっていたラストを変えることはできないけれど、想像してもらえたら嬉しいな、で終わる予定だったおまけ話を付け足すことにしました。蛇に足が生えても怖くない。
主人公がすでに王子様無駄遣いしまくってるから、タイトル詐欺にはならないだろうと開き直り。




