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王子様と一緒に合コン 5

「無茶を言うな。何をしているんだ。なんでそんな格好して」

 ユリウスはブラとキャミソールだけ着た清乃の上半身から距離を取った。

 彼の赤面は珍しい。白い顔に朱が上っている。

「別におかしいことしてないでしょ。合コン行ってお持ち帰りした男相手に、適当にはだけて接近してるだけだよ」

 よかった。ちゃんと動揺させられている。

 そのぶん自分は冷静でいなくては、と思うと、自然と無表情になってしまう。


「お持ち帰り? 聞いたことあるぞ。オレはキヨに持ち帰られたのか」

 混乱している。付け込む隙だらけだ。

「そうだよ」

「ちょっ、ちょっと待てよ。なんで?」

「なんでって何」

「何ってなんだ。キヨ、就職先が決まったんだろう。うちに来てもいいのか?」

 アッシュデールで第二王子妃として生きていってもいいのか、とユリウスは言っている。

「それは嫌」

「じゃあ」

「ユリウスは想い出が欲しいんでしょ。自分の意志であたしに会いに来るのをやめたい、って言ったじゃない」



 十二月にしたサバトもとい女子会では、ふたりの魔女も交えて回し飲みをした。

 翌朝採血をして検査に回してもらった。結果は陽性。

 それから陰性になるまで、エルヴィラが採血のためだけに何度かこっそり跳んできてくれている。

 清乃が魔女の唾液を取り込んだことにより魔女化の兆しを見せ、その兆しが消えるまでに要した期間は約半年。

 昨年八月にカタリナから実験についての提案があり、ようやくとりあえずの結果が出た。

 皮膚同士の接触による感染はないと考えて問題ない、経口については注意が必要。性感染については、さすがに実験するわけにはいかない。

 性的接触による感染はまず間違いなくある。が、感染しても唾液によるものと同じようにそのうち陰性になるだろう、と言われている。

 避妊さえ失敗しなければ、一度や二度関係を持っても問題は生じないだろう。

 回数を重ねるとどうなるかは、予測不可能。だそうだ。

 清乃にアッシュデールに移住する気がないのであれば、ユリウスと普通の恋人のような関係になることは許されない。

 そのことはユリウスも聞いているはずだ。



「……キヨ」

 一度だけ。

 この一度だけだ。

 想い出をつくったら、もうユリウスとは会わない。連絡も取らない。

 それがお互いのためになる。

 清乃は危険を遠ざけて、普通の人生を送る。

 ユリウスは不毛な恋を忘れて、婚約者と向き合う時間をつくる。

「十七歳相手には躊躇しちゃったけど、ユリウスも来年にはもうハタチになるでしょ。日本でも高校出たらほぼ大人みたいな扱いだしね。もういいかなと思って」

「キヨ」

 ユリウスの眉間に皺が寄る。眉尻は下がってしまった。

 清乃はその眉の端に指先で触れてみた。


「そんな困った顔しないでよ」

「困ってるんだから、困った顔にもなる」

「なんで困るの。もう、こうするしかないんでしょ」

 ごつん、と清乃の額から音がした。

 頭突きされた。全然痛くないけど。

「……キヨ」


「あたしだって努力はしたんだよ。でもやっぱり、ユリウスのために彼氏つくるなんてできそうにないよ。ユリウスより綺麗なひとも優しいひとも、どこにもいないんだもん」

「……キヨも、もうオレと会わないほうがいいか」

「だって仕方ないじゃない」


 つい数時間前に見た女性。初対面、とも言えない。対面すらしていない、遠目に見た女性。

 月明かりに照らされた身体は細いものだった。ユリウスが言うには、なんらかの原因で精神状態が普通でないひと、ということだった。

 彼女は、清乃のせいで魔女の亡霊に取り憑かれた。

 原因はアッシュデールにある、とユリウスは言っていたけれど、彼女は清乃の近くに住んでいなければあんな目に遭うことはなかったのだ。


 それに誠吾。

 この世でたったひとりの、清乃の弟。

 彼に、魔女との接点をつくってしまった。

 超能力、魔法、魔女。

 これまで軽く考え過ぎていたのだ。

 危険な国だと、最初から分かっていたはずなのに。かの国の人物と引き合わせてしまった。

 ジェニファーとどういう理由で会っていたのかは分からない。

 彼らはいつから、清乃の知らないところで繋がっていたのだろう。どの程度、仲良くしているのだろう。

 誠吾はジェニファーに対する警戒をなくしていない。可愛らしい外見に意識が引きずられて世話を焼いてしまう様子は見たけれど、警戒心はなくしていなかった。

 今後はどうなるか分からない。

 今ならまだ間に合うはずだ。

 清乃と誠吾は、アッシュデールとの縁をすっぱりと断ち切るのだ。

 これ以上、日本に住む清乃の周囲の人にまで、魔女が興味を持つ前に。


 十七歳のユリウスがそうしようとしていたように、今度は清乃がそれを言い出さなくてはならない。



 こんな下着にパジャマのズボンだけの薄着で膠着状態になってしまった。

 適当にはだけて接近、だけで九割は堅いという話だったのに。

 やっぱりあれは、エルヴィラのような艶っぽい美女限定の話か。色気のない女はどうしたらいいのだ。


 清乃が次の行動に迷っていると、ユリウスの手が躊躇いがちに伸ばされた。長い腕のなかにすっぽり収められる。

「……冷えてるぞ。風呂上がりにそんな格好でいるから」

「着込んでたほうがよかったの? イチから脱がしたいとか希望があるならやり直しても」

「ムード的なものはないのか」

「オトメか。まあ大丈夫だよ。あたしも頑張るから。歳下にそんな期待してないし」

「言い方」

 胸筋の育成は順調なようだ。頬をくっつけてみた胸部に厚みが増している。


 清乃は今夜の合コンメンバーで一番かっこいい認定された筋肉に身体を寄せて背中に手を回した。

「これで心置きなく忘れられるんでしょ。あんたたちの教祖も言ってたよ。一回やれば諦めるって」

「……それ多分、オレも聞いてたな」

「そうだっけ。あいつ色々と意味不明な説教垂れるから忘れちゃったよ」

「オレ、去年のキヨの申し出に頷いてないんだけど。移行することにしてくれたのか」

「ううん」

 清乃の即答に、ユリウスの腕に力が入る。


「キヨはそれでいいのか」

「恋愛的な話になったら、報われないと辛くなるでしょ。だからそういう好き、にはならないよ。でもそういう好きじゃなくても、ユリウスならいいかなとは思ってる」

 甘えるように頬擦りしながら言う言葉じゃないな。我ながら思う。


 でも本音だ。

 恋が始まってしまう前に、別れてしまいたい。

 ユリウスを、今以上に好きにはなりたくない。


「……気づいたんだ。キヨが思い切りが良くなるのって、考えるのが面倒臭くなったときだろう」

「そうかも」

「片付けと一緒にするな」

 鋭い。

 清乃は今、面倒になって色々なものをまとめて捨てたくなっているのかもしれない。

 魔女とか亡霊とか、恋愛になりそうでならない関係とか。


「してないよ。ユリウスに会えなくなったらさ、あたしもそのうち寂しくなって、身近な男の人を好きになれる気がするの」

「オレはすでに淋しい。どうしたらいいんだ」

 ユリウスの呟くような囁き声は少しずつ甘くなってきているのに、彼の手は清乃の肩から腕をうろうろするだけだ。冷えを気にして温めているだけのように感じる。

「大丈夫。一回そういうことしちゃえば、すぱっと割り切れるものらしいよ。一般論だけど」

「耳年増め」

「あんた古い言葉知ってるよね。でも年増なのは耳だけじゃない、ってかこれいつはじまるの? あたしがなんかすべきなの? それならそれでこの拘束外して欲しいんだけど」


 抱きすくめる腕の力が強すぎて身動きが取れない。押し倒そうにも力が足りない。

 どうしろと。

「はなしたくない」

「それならそっちからそれらしいアクション起こしてもらわないと、あたしもどうもできないんだけど」

「そろそろ黙らないか」

「あたしだって黙りたいよ。でも喋ってなきゃ間がもたないじゃん」

「よーし分かった。ゆっくり百数える間だけ口を閉じてみようか」

「そういうときって口塞ぐものじゃ」


 塞がれた。

 ユリウスの右手が清乃の顔の下半分を鷲掴みにした。

 そのまま後ろ向きに倒され、真上から見下ろされる。

 想像したのとちょっと違う、とは思ったが、もう清乃だって喋る気はない。

 抵抗することなく、ゆっくり近づいてくる顔を静かに見上げた。

 それが気まずかったのだろうか。清乃がそうしなきゃと気づく前に、見えない力にまぶたを閉じさせられた。



 清乃が次に目を開いたとき、ユリウスはいなくなっていた。


 それきり、彼は姿を見せなくなった。

次の話に王子様は出てきませんが、引き続きよろしくお願いします。

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