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王子様とバレンタイン 5

「……キヨ、ごめん。またあいつ」

 清乃の泊まった部屋に一緒に戻ってきたユリウスが、すぐに頭を下げた。

「ううん。さっき助けてくれたんでしょ。あんな器用な能力の使い方もできるんだね」

「そんなに難しくない。キヨが力を向ける方向に同じようにチカラを流すだけだから。キヨが捻り技を出そうとしてたから、人前でもできた」

 ユリウスは気軽に超能力の話をする。他の人々もそうだ。

 彼らにとって、それは当たり前に存在するものであり、自国では隠すようなものではないのだ。

 清乃とユリウスは住む世界が違う。

 事あるごとに、そのことを思い知らされる。

 でもそれは別に構わない。最初から分かっていたことだ。分かった上で、友人関係を続けているのだ。

 バラエティ豊かな交友関係は、人生を豊かにする。異国の王子様に、庶民の暮らしを教えてやるのだ。

 十八歳の彼の、人生の糧になりますように。

 清乃がユリウスにしてあげられるのはそのくらいしかない。彼の存在が清乃の成長の糧になってくれているように、同じだけ役に立ってあげたい。

 ふたりがもう少し大人になるまでの、ほんのひととき。



 それくらい許してよ。

 名前も知らない男に、心の中で吐き捨てる。

 あんたの妹が、先にユリウスを裏切ったんだろう。

 婚約者に、自分以外の恋人がいる。清乃は、ユリウスのその辛さを埋めてあげたい。


 彼が清乃に会いに来るのはきっと、婚約者のためでもあるのだ。

 十代の女の子が、誰にもばれずにこっそりと交際相手をつくるなんて不可能だ。

 友達にも黙っているなんて無理だし、実際に彼女はジェニファーに打ち明けている。保護者に行動範囲を把握されている未成年のこと、隠れて会うのも限界がある。

 最初は秘密のつもりだったのかもしれない。

 しかしすぐに婚約者の父である国王にまで知られている。

 婚約者の友人たちは、その公然の秘密を苦々しく思っている。


 ユリウスは、彼女に向けられる批判の眼を少しでも逸らしたいのだ。

 王子の婚約者には恋人がいる。王子の視線は婚約者とは別の女に向けられている。

 お互いさまか、と周囲に思わせたい。

 ユリウスが清乃に向けてくれる気持ちが嘘だとは思わない。だが、そんな理由でもなければ、彼はこんな不実な関係を続けたりしない。

 彼はきっと、清乃の気持ちが自分に向かないと思っているから、安心しているのだ。

 そのくらいの甘えは、許してあげたい。歳上が相手だったらふざけんな、と言うところでも、三つも下なのだから仕方ないか、と思ってしまう。

 清乃はユリウスに恋愛感情を持たない。そのことを前提としたこの関係を続けるために、持たずにいるよう努力を続ける。

 そう、心に決めているのだ。



「失敗したけど、やってよかった。ってことでいいのかな」

「すぐにオレを呼ぶのがベストなんだけど。ほんとにキミはなんでも自分で解決するな。さっきのも、オレがいなくてもなんとかしてたんだろう」

「まあ大人なので」

 現実の世界では、ヒーローに助けられる機会なんてそうそうあるものじゃない。

 あれにはヒロインになる才能が必要だ。

 知らない男に腕を掴まれた、その瞬間に恋愛関係にある、もしくはそうなりたいと思っている男の名前を呼ぶだけの反射神経が必要なのだ。

 色々な意味で鈍い清乃には無理だ。

「キミのそういうところ、尊敬してる」

「普通だけどね。やっぱり昨日ので筋肉痛ひどいから、午前中もうひと滑り、は無しにしてもらっていいかな」

「そうなると思ってた。チェックアウトしようか。荷物取ってくるよ」




 帰りの飛行機の時間を気にしながら少しだけ観光して、ふたりは眼についたカフェに入った。

 普段ユリウスとは、外国人が喜びそうな日本食の店かファーストフード店くらいしか行かないから、ふたりでカフェに入るのは初めてかもしれない。

 物珍しそうにきょろきょろする彼を見て、そのことに気づく。

 カフェでランチをするのは女性グループか母子連れ、もしくはカップル客が多い。

 今日みたいな日にカップルみたいな行動するのもどうなんだ、と思わなくもないが、今更人目を気にしても仕方がない。

 注文したパスタセットとオムライスプレートが運ばれてくるのを待つ間に、清乃はカバンから小さな袋を取り出した。

「ユリウス、これあげる。チョコブラウニー」

「えっいいの? ありがとう」

「白々しいな。もらうつもりで来たんでしょ」

 ユリウスが平日のこの日に清乃に会いに来たのは、多分このためだ。


 今日は二月十四日。バレンタインデーである。

 女性が愛を告白する日。なのは日本だけらしいが、恋人や夫婦間でプレゼントを贈り合う風習は海外にもあると聞く。

 日本文化をすごい勢いで吸収しているユリウスは、日本の風習も知っているはずだ。

 日本の女性が好きなひとだけでなく、友人や家族、仕事関係者などにもチョコを配ることを知った上で来ている。

 それなら清乃もくれるだろうと期待していた。


「バレてたか。オレも持って来たから、もらって欲しい」

 渡された箱の中身は、世界的に有名な高級チョコだった。友人たちとデパートで試食してきた記憶はまだ新しい。

「ありがとう。嬉しい。大事に食べます、って言いたいけど、今日中に全部食べちゃうかも」

 普段食べる安いチョコも美味しいが、高級チョコは高級な味がする。どちらも好きだ。

「食べればいいよ。これ、手作りだろう。ブラウニーって作れるものなのか」

「作る人がいるから存在するんでしょ。それは素人のだけどね。本格的なものでなければ、レシピと材料さえあればなんでもできるよ」

「すごい。ありがとう。今すぐ食べてもいい?」

「子どもか。先にご飯食べてからにしなさいよ」



 帰りの電車、空港に向かうための乗り換え駅が近づいてきたところで、ユリウスが清乃の機嫌を窺うように見た。

「……また、会いに来てもいいかな」

「何よ今更。就活あるから、いつでも、とは言ってあげられないけどね」

 清乃には清乃の生活がある。

 ユリウスが王子としての仕事を大事にしているように、清乃は自分の人生を最優先する。

 その上で付き合いを続けるのが、健全な友人関係というものだ。


「うん。頑張って。また連絡する」

「預けた漫画、ちゃんとジェニーに渡してあげてね」

 前回のサバトでプレゼントした漫画を気に入って何度も読んでいる、と聞いたから、第二弾を選んでおいたのだ。

 清乃の計画どおり、アッシュデールで日本の少女漫画が出版される日が見えてきた。


「きっと喜ぶよ。ジェニファーが読んでるのを見て、何故かフェリクスも読んでた」

「へえ。意外と好きなんだ。少女漫画は奥が深いからね」

「うーん」

「でもあれ、現実のナンパには役立たないってちゃんと分かってるかな。実行したらイタいよって教えてあげなよ」

「王子様とバレンタイン」はこれでおしまいです。

次の話もよろしくお願いします。

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